世界改変
「簡単な話だ。星神が地上に出現し、世界を壊す……星神に付き従っていた者達は、その力の一部を受け取ることができる」
力を……? それがどれほどのものなのかはわからないが、転生者である目の前の人物が欲するだけの力とは――
「……ここにいる以上、あんたは自分の結末を変えたはずだ」
俺はヴィムへ口を開く。
「であれば……ヴィム=ファルナーは名門の一族であり、何一つ不自由ないはずだ。それでもなお、力を望むのか?」
「――僕の人生を知っているのであれば、そう言及するのはある程度理解できる」
ヴィムは語り出す。その瞳の奥には、強い意志が宿っている。
「確かに、僕の人生は悪いものではない……それこそ、前世と比べても。本来死ぬはずだった場所において、僕は竜を返り討ちにした。仲間のことは大切に思っていたし、望むままの報酬も得た」
「では何故だ?」
「この世界が、終わりを迎えることを知っているからだ」
俺は沈黙した……それは、つまり――
「全てを手に入れたなどと豪語するつもりはない。しかし、僕は少なくともヴィム=ファルナーとして、満足のいく人生を送ることができている」
「だが、世界が終わるから……その先を見るために、星神と手を組んだと?」
「そうだ」
「倒そうとは考えなかったのか?」
「そこは君との違いだ、ルオン=マディン」
俺の名を呼ぶと、ヴィムは眼光を鋭くする。
「君も、わかっていたはずだ。この世界はいずれ終わりを迎える。ただ無為に過ごしていては……自分自身が死ぬ結末を回避したとしても、この世界は全てを無にすると」
「ああ、だからこそ――」
「ならばなぜ、それに抗う? 星神の力……それの大きさは、君自身も理解できているはずだ」
……俺は、星神の降臨した光景を直接見ているわけではない。だが、過去の情報と賢者からもたらされた情報……それらを統合して、どれだけ恐ろしいものなのかは、理解しているつもりだ。
ただ、ヴィムの口調からすると、彼は世界を壊す光景を何かしらの形で見ているのか?
「あれを目の当たりにすれば、抵抗するなどという選択は消え失せる」
「……ローデンを含め、他の転生者も同じってことか?」
「ああ、そうだ」
あっさりと応じる……敵の目的は理解できた。ただ、
「力を得る……その話が本当かどうか、根拠はないだろ?」
「星神によって世界が崩壊した後のことは知っているはずだ……その中で、星神から力を受け取ったという存在もいた」
……確かに、ゲーム一作目ではそのような存在もいた。彼らは『覚醒者』と呼ばれ、時に主人公を助け、時に敵対する。
「君の知る話で語られていたのかはわからないが……力を得た者達は、崩壊した世界の中で自ら世界を創生するほどの力を持っていた。その子孫はやがて、星神という存在を否定するケースも出てきたようだが……」
「星神から力を受けた者がいる以上、まるっきり嘘ってわけではないって話か」
「その通りだ」
「……情報を統合した結果、星神に協力したと」
「元々この世界は終わるはずだ。それを改変するのは……おかしいと思わないか?」
問い掛けに、俺は何も答えない……険しい顔で相手を見据える。
賢者が見た未来によれば、この世界は星神による崩壊という結末を必ず迎える……それまでどのような道筋を辿ってきたとしても、それを変えることは賢者でさえできていなかった。
それは逆に言うと、この世界が終わったものという解釈にもなる……ならば崩壊するとわかった上で、身の振り方を考える……その選択はとってもおかしくはない。
「むしろ、君の方が例外だろう」
そしてヴィムは俺へ言う。
「君の大陸は魔王による侵攻を受けた……魔王自身、星神を討つための力を得ようとしていたわけだけど、その中でおそらく君は奮闘した」
「……こちらの情報は、あまり持っていないみたいだな」
「さすがに、事細かに情報を集めるとなったら大陸を訪れないといけないからね。そこまでやる余裕はなかったさ……ただ、こんなことになるなら調べておくべきではあったな。僕もローデンも、ずいぶんと油断していた」
肩をすくめながらヴィムは言う。
「戦いを経て、君は星神と戦う道を選んだ……しかし疑問だ。勝てると思うのか?」
「やってみなければ、わからないさ」
俺の言葉にヴィムは無言となる。単なる無鉄砲と感じるのか、それとも俺の発言に対し何かしら思うところはあるのか。
「……なるほど、少なくともここで話をしても決裂しかないというのは理解できる」
「ああ、結局のところ話はシンプルだ。俺達が勝つか、お前達が勝つか」
「まさしくそうだね……ただ一つ、訊いておかなければならないことがあるな」
ヒュン、と一度ヴィムは素振りして、告げる。
「なぜ君は戦う?」
「……星神と、か?」
「たとえ星神を倒しても、君には力が手に入るわけじゃない……なおかつ君は理解しているはずだ。星神という存在を倒しても、まだ先があると」
それは――俺自身、なんとなく察していることではある。しかし、
「ああ、だから何だ?」
俺は事もなげに応じる。
「なら、その先も全て解決するだけだ」
「どういう理由があれ、死ぬまで戦い続けるつもりか」
「ああ、そうだ」
俺は決意を込め……転生者へ告げる。
「戦いの中で、出会いがあった……こんな俺を認めてくれる人がいた。戦う理由は、それで十分だ」
「いいだろう……そこまで言うのなら、これ以上問うことはしない」
決然とヴィムは告げ、魔力を発する。とうとう本気になった。
「同じ転生者として、全力をもって戦おう」
「望むところだ」
こちらも魔力を発する。魔力無効化という空間の中で、異様な状況……相殺しきれない魔力が室内を満たす。俺とヴィムは剣を構え直し、相手の一挙手一投足を見据える。
動き出したら、どちらかが倒れるまで戦いは続くだろう。俺は使い魔を通して周囲の状況を探りつつ、剣に魔力を集める。負けられない戦い……転生者が相手となれば、なおさらだ。
そして、最初に動き出したのは――ヴィムの方だった。俺は即座に応戦するべく、意識を目の前の敵へと集中した。




