潜伏者
ソフィアとガルクに城を任せ、俺は魔力無効化が発動している町へ入った。その瞬間、明確に空気が変わった。
無効化が体にどう影響するかは事前に確認済みなのだが、それでも町全体に規模を拡大している……それによってなのか、事前に体感したものよりも肩にのしかかるような重圧があった。
「ま、俺にはあまり関係ないけど」
呟きながら使い魔を用いて町を探る。魔力無効化でも使い魔は相変わらず展開できている。この調子なら魔力を無理矢理発して新たに作成することも可能だろう。
「さて……」
町へ赴いたはいいが……ひとまず仲間の近くにいる使い魔を用いて、俺が町へ来たことを教える。使い魔を介しその辺りのことを伝える手段はできている。それをやって……と、ここで仲間達の動きに変化があった。どうやら防衛を優先……つまり、敵を捜索するのは俺に任せる、ってことだろう。
こちらとしても守るべき場所を気にしなくて済むので、それで問題ない。
「公園周辺を調べてみるか? それとも、他の場所に……」
ローデン本人がそもそもどこにいるのかわからないが、公園に結構な戦力を投入したのを見るに、その周辺にいるだろうか? あるいは、もう既に現場周辺は危険だと判断し逃げただろうか?
「まあ、どっちにしろ安全を確認しないといけないか」
俺は魔法を使用する。周囲を索敵するものだが……この魔力無効化の環境においても使えるように調整されている。とはいえ、有効範囲はこの空間内だと半径でおよそ二十メートルくらい。それ以上範囲を広げることは可能だが、効率が悪くなるし、拡散する魔力量が多くなるため、相手にも居所がバレバレになる。
気配を察知されないレベルで、なおかつ広範囲で……魔力無効化空間における妥協点を探った結果、この範囲に落ち着いた。
「ただまあ……範囲については特段気にしなくていいけどな」
俺は足を踏み出し――駆けた。外へ露出するほど魔力を高めているわけではないが、それでも常人では絶対に出すことのできない速度……それにより、公園へ向かって突っ走る。
それと同時に俺は索敵魔法によって敵がいないかを確認。走りながら――つまり、俺が移動しつつ敵がいないかを確かめる。範囲については、俺が走って確認すればいいだけの話なので、二十メートルでも問題にはならない。
相手側の隠蔽能力が高ければ俺の目を逃れる可能性もあるわけだが……これについては自信があった。というのも、実験した際にガルクやソフィアが潜伏する役目を担ったのだが……それを見事看破できたのだ。
転生者の能力は高いだろうけど、あの二人の潜伏能力と比較したら……星神の技術があるため、百パーセントというわけではないが、それでもいけると俺は踏んでいた。
そして――公園に辿り着く前に、俺は発見する。建物の中に一人、時が止まる町中に動いている人間がいる。
それは単独であるため騎士ではない。なおかつ、星神の気配がする……エメナ王女を介してリーベイト聖王国が得ていた星神の技術を参考に索敵魔法に機能を付与してみたのだが、それがきちんと機能しているようだ。
「どうするか……」
ただ感じられる気配からすると、どうやら転生者ではなく操られた冒険者……彼らが持っている星神由来の道具に反応しているようだ。
それを確認した直後、俺は建物の中へ入った。そこは役場のような施設。受付などを抜けて職員がいるエリアへ侵入すると、部屋の隅にいた。
こちらを確認した冒険者は、虚ろな目で俺へ仕掛けてくる。建物の中で狭いながら、剣を抜き放ち――しかし俺は、その剣を易々とかわして当て身を一発食らわせた。
直後、相手がうめき声を発したかと思うと倒れ伏す。気絶したので俺は冒険者を担いで外へ。周囲を見回すと、通りがかった騎士達と目が合った。
俺が冒険者を地面へ下ろすと、騎士が駆けつけてくる。
「この人をお願いします」
俺の言葉に騎士は頷き……再び移動開始。公園へ向かうのだが、また別所に冒険者の気配が。
「あちこちに入り込んでいるな……町中をしらみつぶしに探した方がいいか?」
呟きつつ、俺は建物の中へ入り操られた冒険者を倒す。
この調子でいくと、ローデンなんかもあっさり見つかりそうだが……やがて公園近くへ辿り着く。ただ周辺を索敵したが、敵はいない。
「一度逃げたか……オルディア達と合流してもいいけど――」
俺は一考した後、再び走り始めた。仲間の動向は観察できている。合流する意味合いもあまりないから、敵を見つけることを優先すべきだ。
というわけで、さらに捜索を続ける……と、ここで俺は一際強い気配を発見した。
「力を与えられた存在か、あるいは転生者か……」
呟きながら俺はそちらへ赴く。そこは――図書館だった。
「あんまり中で戦いたくはないけど……」
敵を魔法で捉えつつ建物の中へ。すると相手も反応した。どうやら見つかっているとわかったらしい。真っ直ぐ俺へと向かってくる。
程なくして、俺は相手と対峙した。槍を携えた戦士で、見た目は……二十代前半といったところだろうか。赤い髪の爽やかさな印象を与える男性で、こちらを見た相手は……眉をひそめた。
「一人、だと?」
「ああ」
俺は剣を抜く。とりあえずエントランス周辺に時を止めた人はいないし、本が無茶苦茶になることはなさそうだが……いや、魔法を使えばその限りではないか。
「まあいいか……バレたなら仕方がない。さっさと片付けるか」
――口上からすると、公園などの戦闘については情報を保有していないのか?
「作戦が始まる前から、ここに潜伏していたのか?」
「ああ、そんなところだ」
あっさりと応じる男性。
「色々と指示を受けてだな……とはいえ、町全体に魔法を使ってそっちも反撃して……まだ何も起きていないってことは、こっちの作戦は滞っているってわけだ」
男性はやれやれといった様子で槍を――構えた。
「戦闘をしている音は聞こえていたから援護に向かうか状況を確認するしても良かったんだが……うちのリーダーならなんとかするだろうって楽観的に考えていたんだがなあ」
どこか能天気に語る男性……その様子からして、どうやらローデン以外の人間は情報を共有しているわけでない、ということは理解できた。




