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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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噴出する力

「ベルハ=ウォーレッドだ」


 まず戦士は自身の名を告げる……同時、気配が如実に変わった。名を表明することで、強化する……その能力を彼もまた保有している。

 なおかつ、彼は転生者でありたった一人で仲間達へ挑もうとしている……こちらはクウザ、オルディア、シルヴィ、ロミルダ。さらにフィリとカティにコーリ……正直、戦力としては過剰なくらいだと考えるが、相手は俺と同じ転生者。なおかつ、魔力無効化における戦いぶりをここまで見ているはずだ。油断は一切できない。


 ベルハが一歩仲間達へ近づく……魔力無効化が効いている状況下においても、転生者の力は引き出せるのか。


「ルオン様」


 にらみ合いの中、俺の近くにいたソフィアが声を上げる。


「もしルオン様があの空間内で戦闘した場合、どうされますか?」

「魔力無効化の範囲でも、無理矢理魔力を使うことは可能だが……」


 実際、この魔法を構築するという際に、試した。結果から言うと、全力で魔力を発すると、無効化の効果では処理しきれない……今回の魔法は攻撃的な魔力を強制的に霧散させるというものなのだが、それには限度がある……つまり、その魔力量を超えれば、超えた分だけ力を引き出せる。

 では、ベルハという転生者はどうなのか……俺が使い魔を通して相手を観察した瞬間だった。


 突如、魔力が噴出する。魔力無効化においても、相殺しきれなかった力が体に表れる。魔力量が俺と比較してどちらが多いなど、具体的なことはわからないが……少なくともベルハは、圧倒的な力により魔力無効化をはね除けるだけの力がある。


「なるほど、な」


 と、クウザは呟き杖を構える。


「うちのリーダーと同じってわけだ……しかし、なぜ今まで表に出なかった? その力があれば、いくらでも仲間を救えただろ?」


 問い掛けにベルハは答えないが……なんとなく予想はつく。ローデンはこの作戦が始まった段階で、転生者という存在を懸念していた。おそらくだが、そうした人物がどこにいるのかを、捜索していたのかもしれない。

 もし転生者がいたら、ベルハを投入しても勝てない可能性がある。しかし、どうやら町中にはいないと断定し、ついに戦況を変えるべく出てきた……圧倒的な力。俺と同じ転生者となれば、相当厄介だし、何より仲間は――


『……ふむ』


 ガルクが声を上げた。何やら考えがあるみたいだが……、


「ガルク、どう思う?」

『あの転生者が強大な力を有しているのは間違いない。ルオン殿と同等かどうかは判別できないが……あの場にいる仲間達を一蹴するだけの力を持っている』


 断言だった。俺はどうすべきか一度思案するが、


『しかし、だ。ルオン殿。ここで一つ重要な事実がある』

「……何だ?」

「ルオン様には言っていませんでしたね」


 合わせるようにソフィアが言う。それが何だと問うより先に、ベルハが駆けた。

 胎動する魔力を乗せたその動きは俊敏だった。狙いは一番近くにいたオルディア。彼が剣を構え応じる構えを示した時、両者が激突する。


 轟音と言うべき金属音が周囲に響き、オルディアは大きく吹き飛ばされる。体勢を崩すまでには至らなかったが、魔力強化によって圧倒的な力を有しているのはわかる。


『懸念があるとすれば、ベルハという人間の剣術……つまり技術面だが――』


 ガルクが何事か呟く間にシルヴィが横から仕掛けた。連撃を放つようで、その速度は魔力無効化においても驚異と言えるほどのもの。鍛錬の成果がはっきりと表れているが、果たしてベルハに対抗できるほどなのか。

 相手は即座に迎え撃つ。目にも留まらぬ速度で双方の刃が交差する。とはいえ、膂力についてはベルハが上――やがてシルヴィの剣を押し込み始める。


 それに対しシルヴィの決断は早かった。追い込まれるより先に大きく後退して距離を置く。一方でベルハは動かなかった。周囲にいるフィリやコーリ、さらに剣を構え直すオルディアに目を向けている。


「……その魔力は、全身に及んでいる」


 少ししてオルディアが口を開いた。


「であれば、俺達の攻撃など通用しない……と、考えることもできるが、強引に押し通らないのか?」

「そちらの思惑には乗らない」


 ベルハはあっさりと答える。能力にかまけて攻撃を受けるなどしない、ということか。


『油断はしていないな』


 ガルクが言う。烈気をみなぎらせるベルハからは、どこか淡々とした気配も窺える。作戦を遂行し、ローデンの目的を成就させるために……必ずやり遂げるという、強い決意も感じ取れる。


『気の緩みもない。おそらくあの魔力では魔法を直に受けても平気だろうが……』


 俺はここで戦場全体を観察する。現在、ベルハを中心にして仲間が取り囲んでいる。ベルハの真正面にオルディアがいて、その後方にロミルダがいる。そしてベルハの左右――右にはコーリ、左にはシルヴィ。そして背後にはフィリと彼に寄り添うようにカティが控えている。

 クウザについてはシルヴィの後方を陣取っていたのだが、やがて歩き始めた。ベルハを含め他の人間が動かない中、最大の敵を観察しながら彼は口を開く。


「答えてくれるとは思わないが、他にも転生者はいるのか?」


 質問にベルハは無言。まあ答えるわけがない。


「なら、そうだな……ローデンも転生者だが、あんたくらい強いのか?」


 それにも答えない。ただクウザは何かを感じ取ったようで、


「自分がやられてもまだ他にいる……とか、考えているようだな?」


 ベルハが動く。狙いは真正面にいるオルディアだ。

 先ほどと同様に俊敏かつ、今度は背後にロミルダもいるため攻撃を受けても後退が難しい……が、俺はここで一つ察した。この攻防はおそらく――


 両者が激突する。力の差で再びオルディアが負けるかと思ったが……今度は刃を受け踏みとどまった。


「何?」


 ベルハが驚く。まさか、という表情と共に一度退くか押し込むか二択を迫られる。


『技術で上手く流したな』


 ガルクが言う……そう、今の衝突については、オルディアが上手く相手の剣戟を防いだことにより、突撃の威力を大きく殺すことに成功したのだった。


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