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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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破壊の後

 転生者――その言葉を聞き、俺は確信する。オルディア達の目の前にいるのは幻影であるため、実際の姿かどうかはわからない。ただ、ローデンは間違いなく……俺と同じ転生者だ。


「……どういう意味だ?」


 クウザが訝しげに問い掛ける。しかしローデンは納得した表情を見せた。


「気配で察したよ。それを確かめるためにわざわざリスクを背負いここに来た。転生者……私もまた同じだ。この戦場をどこかで見ているのだろう? ならば改めて言おう。私はお前と同じ転生者だ」


 使い魔しか動員していないため、俺からは話しかけることができないけれど……オルディア達は沈黙していたが、ローデンは少なくとも転生者――つまり俺に対し話しかけることは成功したと考えたようで、


「そちらがどういう情報を持ってこの世界に転生したのかは不明だが、少なくともシェルジア大陸の戦いに関与していたのは事実だろう。でなければ、これほどまでに同じ大陸の出身者……そうした面々を率いるはずがない」


 そう述べた後、ローデンは息をつく。


「加えて、賢者の血筋がここには複数人いる。その時点でこの世界の情報を持っていることは確定的だ」

「……ルオンさん、どうする?」


 クウザが使い魔へ向け問い掛ける。俺は話せないが、ここで俺のことについて話してもいいのかということか。

 ローデンが転生者であるというのは、たぶん間違いないだろう……まあ嘘だったとしても、少なからず星神か、俺と同じような転生者から情報をもらっていなければこんなことは言い出さないので、転生者がいることは確実だ。


 俺は使い魔を操作する……ジェスチャーみたいな感じで動いたがどうやら伝わったらしく、


「……俺達は、転生者であるリーダーから事情は聞いている」


 クウザが杖を向けながら発言。俺のことはひとまずリーダーという単語でまとめるらしい。


「そちらがどの程度情報を保有しているのかはわからないが、バールクス王国から人が来るなんて、そちらは想定外だろう? なぜその時点で気づかなかった?」

「当然、気づいていたさ。とはいえ、動くことはできなかった」


 ローデンはそう応じた……ふむ、それはどういう意味か――


「何より、星神降臨のための準備をしていたのもあるが、そちらが上手く隠れていたが故に、手出しできなかったと言うべきか」


 肩をすくめながら、ローデンは語る。


「バールクス王国から王女がやってくる……そんな話を聞き、眉をひそめたのは事実だ。しかしどの程度この大陸に干渉するのか……それが読めなかったが故に、手出しできなかったと言うべきか」

「つまり、俺達の作戦がきちんと成功していたわけだ」

「ああ、それは間違いないな……そちらが目に見えて動き回るようになった段階で、星神と関わりのある者達だと断定したが、その時点で全てが手遅れだった……まあ、どういう形にしろ私がとれた選択肢は一つだ。すなわち――」

「なるほど……この戦いにおいては……レノ王子にまつわる騒動については、半ば無視して行動しようという魂胆か」


 クウザの言葉にローデンは笑みを浮かべる。どうやら当たりらしい。

 ……ローデンが語った内容を考えると、半ば無視というよりは、騒動に乗じて何かしようという魂胆だったのだろう。つまり、レノ王子に関連する騒動というのは物語……俺の前世にあったゲーム『ディスオーダー・クラウン』にとっては重要だが、星神にとってはあまり意味のない話だと。


 賢者の見た未来を参考にして物語が生まれた以上、ゲーム的に言えば星神はまったく別の要因で降臨する……ゲームからすると多少消化不良の残る結末ではあるが、もしかすると前世で発売されたゲームにおいては、その辺りを上手く説明していたかもしれない。


「で、結果的に捜査の手が伸びそうになったらから、逆に攻撃を仕掛けたと」

「そちらが表立って行動し始めた時点で、方針を転換せざるを得なかった……正直、どのように情報を得たのか気になるところではあるが、まあ今更な話か」


 ローデンはやれやれといった様子を示しつつ、目を鋭くした。


「そちらがあらゆることを想定し、動いているのはわかっている……だからこそ、幻影とはいえ私がでる羽目になった。しかし」

「ここからは違う、とでも言いたいのか?」


 シルヴィの問い掛けにローデンはすかさず頷いた。


「ああ、悪いがこちらも負けられないからな……状況を把握した以上、こちらも本気を出させてもらう」

「先ほどの巨人を大量に生み出すか? 確かに面倒だが――」

「わかっているさ。そちらは星神そのものを倒すべく鍛えている……魔力無効化というハンデがあるにしても、対抗するのは難しい」


 ……そこまで把握してなお、俺達と相対するべく動くということか。


「だからこそ、この手しかない」


 ジャリ……と、幻影のローデンの後方、そこに、新たな戦士が現れた。軽装で、黒髪を揺らしローデンの横に並び立つ。


「……お前も、転生者か?」


 クウザの問いに戦士は小さく頷いた。


「そう不思議な話じゃないだろ? そちらにも転生者……全てを見通すような人間がいるんだ」

「転生者自体は他の大陸にもいた……が、星神をどうこうしようなんて考えはなかった。なぜ、お前達はそれをしようとしている?」


 クウザの問いに対し、戦士は無言。目的があることは間違いないようだが、それを話す気はないらしい。


「……そちらの転生者は、言わば世界を救うためにやってきた存在で間違いない」


 そしてローデンは再び語り出す。


「だが、私達は違う。言わば世界を滅ぼす者」

「それをする理由が理解できないって話なんだが」

「こうしてやりとりしている時点で、星神について全てを知っているわけではないことが私にはわかる」


 戦士もまた頷く……つまり、星神の破壊の後に何かがあるということか。


「それを話してもいいが……ふむ、あっさりと寝返ってくれるか?」

「悪いが、どんな内容であれそんなつもりは毛頭ないな」


 クウザが代表して答えると、他の仲間達は全員臨戦態勢に入った。


「交渉……決裂だな。ならば仕方がない……頼むぞ」


 ローデンの幻影が消える。同時、戦士が一歩前に出て剣をゆっくりと引き抜いた。


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