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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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出現

 オルディア達の動きに対し漆黒の巨人は明らかに迷いを見せた……ワンラが直接操作しているのであれば、さすがにこの段階でもっと複雑な動きをしてもおかしくないため、十中八九彼の意思は介していない。

 単調な動きであれば、いくらでも手は打てる……オルディア達が接近する中で巨人はようやく動く。まずは正面から近寄るクウザ達へ狙いを定めた。伸縮する腕を放ち……しかしクウザ達はかわした。


 次いで左腕が伸びてくるが、それでも彼らは回避する……俊敏であるのは間違いないが、魔力無効化で全力を出せないとはいえ、さすがに今のクウザ達にとっては遅い。これならどれだけ攻撃されても避けられるはず。

 先ほどのようにクウザが無理に出なければ――彼はオルディア達を伴い巨人の足下へ到達。それと同時にフィリ達もロミルダを伴って反対の足へ。


 ロミルダが手をかざし、クウザの杖が足先に触れた時……双方の魔法が一挙に放たれた。

 ガアアアアッ――と轟音が生じ、閃光が生まれ、それが巨人の体へと収束した。決着がついたのは一瞬のこと。剣戟では硬い金属のような外殻に阻まれた強固なその体が、魔法によってあっさりと霧散した。


「倒した……か?」


 クウザが距離を置き、巨人の立っていた場所を観察。他の仲間達も既に退避しており……ただワンラの体は、見えなくなっていた。


「これは、巨人の体そのものにあの人間が変化していたってことか」

「ということは、根本的に消えたと?」


 オルディアの問い掛けにクウザは重々しく頷いた。


「そういうことになる……なるほど、確かに最後の手段だな。それこそ、自分の命すらも投げ捨てたわけだから」

「……魔力無効化があったから、あくまで徒手空拳で戦っていたけれど」


 カティが周囲を見回しながら述べる。


「もしそれがなかったら、とんでもないことになっていたでしょうね」

「ああ、間違いないな。発露する魔力から考えて、大規模魔法なども所持していただろう」

「まずいわね……他の人間にも同じように力があったら」

「ただ、ここで疑問がある」


 クウザは改めて口を開く……それはどこか、使い魔で観察している俺へ語っているようにも思えた。


「さすがに全員にあんな措置をするとは思えない……していたら、各地で戦っていた者達が全員なってもおかしくない」

「でも、そうはなっていない」


 オルディアが言う。クウザは「その通り」と返し、


「ということは、ワンラという先ほどの人間は、それなりにローデンから信頼を置いていた……口ぶりからして、何か事情を知っていたようだし、星神に関連する人間で真相に近しい人間だったのかもしれない」

「そうであれば、俺達が勝てたのは運が良かったのかもしれないな」

「かもしれない。ただ、現状これだけのメンバーがいるんだ。さすがにこれ以上敵が現れても――」


 その時、フィリとシルヴィ、そしてオルディアが一斉に同じ方角へ向いた。それは公園の入口方面。何事かと注視していると、一人の男性が立っていた。


「ワンラがあっさりとやられるレベルか」

「……幻影だな」


 オルディアが言う。確かに、使い魔を通して観察しても、人間とは異なる魔力の塊のような気配。魔力無効化の影響を受けていないということは、実害はない。

 そしてその人間の姿だが……灰色の髪を持つ二十歳過ぎの男性だろうか。白いローブを着込み、地味な印象ではあるが端正とれた顔立ちは貴族服でも着込めばさぞ様になるだろうと思わせるほど。


「お前がローデンか?」

「それを質問されて、あっさり答えるほど愚かじゃない……が、今回は答えようか。その通りだ。私がローデン……と、呼ばれている人間だ」

「それも偽名だと?」

「どうだろうな。だが少なくとも、この名前を聞いても調べはつかなかったんじゃないか?」


 それが答えだろうとローデンは無言で主張する……幻影とはいえ、いよいよお出ましというわけだが、目の前の人相がローデンなのかも判然としない。ここまで姿を見せずに活動してきた人物だ。あらゆる可能性は考慮しておくべきだな。


「わざわざ顔を出して何の用だ?」


 今度はシルヴィが一歩前に出て問い掛けた。幻影であるためさすがに斬りかかることはしないが、それでも警戒し、もし仕掛けてくるのなら反撃してやろうという気概に満ちている。


「ああ、こちらとしてもなかなかに手詰まりでね」


 と、大して困っていなさそうな口調でローデンは応じる。


「こちらの動向を観察されている時点で、入念な守護を予想はしていたが、まさかここまで完璧とは……よって、こちらとしても情報を得たくて、顔を出したわけだ」

「話すと思うか?」

「そちらもまた、私のことは知りたいだろ?」


 それは事実だが……さすがに本人かどうかもわからない存在から語られる情報が真実とは思えない。


「そちらが私の情報を鵜呑みにしないことはわかっているさ……まあ、色々と話をして探りを入れようというのが本音だよ」


 少しでも情報を得るため顔を出したってことか……この状況でそれをしようという胆力は目を見張るものがあるけど。


「ガルク、どうだ?」

『幻影……ではあるが、操作している魔力のか細い経路は分析できる。ただ、相当中継地点を経由しているな。場所を割り出すには時間を要する』


 ガルクですら……か。やはりここも星神の技術が使われていると考えるべきか。


「私から尋ねるのは二つだ」


 そしてローデンはオルディア達へ口を開く。


「お前達はバールクス王国からの使者……王女の護衛、もしくは協力者で間違いないな?」

「だとしたら?」


 クウザが逆に問い掛けた。杖をかざし魔法を放つ構えを見せる。とはいえ、ゼロ距離でなければ発動しないため、幻影相手に対しあくまで威嚇だが。


「いや、確認だよ……改めて確信を抱いたまで」


 確信……ワンラもどこか不穏当な発言を繰り返していたわけだが、その理由がわかるのか?

 そしてローデンは……もう一つの質問を口にした。


「では、二つ目の質問だが……お前達の仲間に、転生者が混ざっているな?」


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― 新着の感想 ―
[良い点] おお。3人目? [一言] もう、6年以上、1000話に届きそう。 最初、魔王を倒す転生モノと思っていたら、 遠大なサーガになりましたね。 毎回楽しみにしています。
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