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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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戦士と漆黒

 ワンラが公園まで辿り着いたのは、宿屋を抜け出して数分後。けれどその時点でオルディアやシルヴィの二組が彼と対峙する形となった。

 町中は時が止まっているが故に、静寂に包まれている。硝子の割れる派手な音はさすがに公園にも届いており、ワンラの動きが読めなくとも事態を察知できた、というわけだ。


「何者かはわからないが、少なくともここへ来た以上は何か目的があるだろう」


 オルディアが相手を見据え呟く。


「よって、ここで止める」

「……何があるのか不明なまま、ここを守るか。こちらにおいてもかなりの戦力を投入したはずだが、それでも突破できない以上、そちらの守りは盤石と考えていいだろうな」


 ワンラは口の端に笑みさえ浮かべ、オルディア達へ告げる。


「しかも、か……なるほどな。どうやらこの戦い、異例づくしらしい」


 発言にオルディアは眉をひそめる。一方、相手の言説に対して聞く耳を持っていない人物が。シルヴィだ。


「はああっ!」


 声と共に間合いを詰め、斬撃を放った。しかしワンラはそれを弾くと、一度距離を置く。


「こちらも相当な使い手か……なるほど、そういうことか」


 ワンラはさらに何事か呟くと、さらに一歩後退した。力押しは難しい……そんな考えらしい。

 オルディア達は追撃することはなかった。現場でしか感じられない気配から、罠か何かを警戒したのかもしれない。


「……お前達は、大陸外の人間だな?」


 そしてワンラは問い掛ける。何か根拠があっての推測か。


「これほどの使い手であるならば、常日頃情報を収集している俺の耳に入らないはずがない」

「だとしたら、どうする?」


 オルディアとシルヴィが同時に一歩前に出る。その後方には魔法を使えるクウザとロミルダ……魔力無効化という空間の中で両者は間違いなく反則級の能力を持っている。この時点で、ワンラ単独で突破できるとは思えない。


 しかし、ワンラは……笑みを浮かべた。


「この戦い……どういうものなのか理解できる」


 ――先ほどから、なんだか意味不明というか会話がかみ合っていないように思えてくる。相手は何かこちらの様子を探っている。ただそれは、オルディア達の力量を確認するというわけではなく、むしろどういう存在なのかを確かめているような雰囲気だ。


「……ガルク」


 俺は神霊に呼びかける。相手は答えなかった。どうやら意識を集中させ、ワンラという存在を見定めようとしているらしい。


「さっきから、不明瞭な発言が飛び交っているな」


 と、クウザは杖を構え直しながらワンラへと告げた。


「ただ、星神からあらゆる事情を聞いているというわけでもない」

「当然だ。我らはあくまで星神の意思に従うもの。その中で、その声を聞くことができるかなど……考えるべきではないな」

「まるで信奉者だな」


 指摘にワンラは肩をすくめた。自覚はあるらしい。


「なるほど、そちらの考えはよく理解した……ならば」


 オルディアが剣を構え突撃の態勢に入る。ワンラは動かない。自然体でも、受けられると考えているためか。


「……仕方が、あるまい」


 ワンラが小さく呟いた。直後、フィリ達もまた公園へと足を踏み入れ、オルディアが疾駆する――


「ここで、捨てるのが定めということか……まあいい、ローデン。後は頼むぞ」


 何を――刹那、ワンラは何かことを成す前にオルディアの斬撃を受けた。それは加減されたものではあったはずだが、体が吹き飛び公園の地面へ倒れ伏した。


「……よけなかった?」


 シルヴィが驚愕する。抵抗の一つもしなかった……いや、そもそも攻撃する意思もなかった。

 フィリ達を前にして逃げたのとは打って変わり、まるで自らが望んで刃を受けた……ただ、その答えはすぐにわかった。ドクン、と一つ鼓動のような魔力の鳴動を感じた。それはどうやら攻撃的なものではないため、魔力無効化の影響を受けない様子。


 その直後だった――ワンラの体が突如、漆黒に染まる。


「っ……!?」


 フィリは驚愕し、後方にいたコーリとカティを退避させた。ロミルダやクウザも警戒し、シルヴィが二人の前へとやってくる。その中でオルディアだけは、剣を構えながら事の推移を見守った。

 まるでそれは、漆黒の蛇がワンラの体を巻き込むようだった……漆黒の正体が何であるか判然としない中で、その体がゆっくりと起き上がった。


 いや、それは誰かに立たされたような浮遊感のある動き。途端、今度は漆黒が上空へと伸びた。およそ数メートル……人間の三倍程度の長さにまで伸張すると、やがて巨大な柱のように渦巻き――二本の手足が生まれた。


「巨人の類いか……?」

『魔力無効化が通じていないな』


 ガルクが呟く。確かに、使い魔を通しても感じられる魔力は、かなり禍々しいもの。これなら本来、魔力は無効化されるはず。


『エメナ王女が索敵の道具を開発したように、魔力無効化をすり抜けるだけの何かを手にしたか』

「……魔力無効化を前提とした能力、か?」

『元々、王都には魔王に対する防衛網が敷かれていた。それをすり抜けるためのものだろう。古代の技術を応用して魔力無効化は強力に働いたが、それでもなおすり抜ける技術が存在する』

「でも……そのような技術があるならば」


 と、ソフィアが状況を察して口を開いた。


「最初から使うべきだったのでは?」

『ワンラという人物の口ぶりから、能力が発動した時点で後戻りできないものなのだろう。あるいは、発動の際に多大なリスクが生じるか……どういう理屈にせよ、我らが相手を追い込んだが故の行動だ』

「問題は、こんな能力を持つ人間がまだいるってことだ」

『うむ。本当ならワンラを尋問して冒険者達を操っていたかどうかを調べたかったが……』

「それも叶わず、なおかつ変身までしてしまった」


 なおかつ魔力無効化の効果が途切れていない。この状況下でオルディア達が巨人に戦うのは――


「――ルオンさん」


 ふいに、観察する使い魔へオルディアが呼びかけた。


「こちらは任せてくれ。ルオンさんは首謀者の居所を」


 その言葉により、俺は……やや間を置いた後、ソフィア達へ言った。


「現状のまま使い魔で戦況を探る。とにかく、一刻も早くローデンを見つける――」


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