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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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隠れる者

 フィリ達が駆けつけた場所は、一軒の酒場兼宿屋。公園にほど近い場所であり、騎士の先導に従い即座に踏み込んだ。

 室内には時が止まった人がいる。それを騎士達が保護して、フィリは二階へと上がる。


 そこで、敵の攻撃が来た。突如扉が開くと同時、弓を構える戦士が現れた。加え、その狙いは先頭に立っていたフィリではなく、後方にいるカティ。

 それを阻もうとフィリが弓を持つ戦士へ向け足を踏み出し――矢が放たれた。距離は近く、廊下は狭いため剣を振るだけの余裕もほとんどない。回避は非常に難しいと思われたが……フィリは、剣で矢を弾いた。


 相手の顔が驚愕に染まる。すぐさま後退しようとしたが、それよりも先にフィリが峰打ちではあるが斬撃を叩き込み、相手は気絶した。


「よし……」


 フィリが小さく呟いた矢先、別の部屋から新たな戦士が姿を現した……さらに、背後にある別の部屋からも。すぐさまフィリ達は態勢を整えた。カティを挟みフィリとコーリが背中合わせになる形だ。


「……やはり、単なる戦士ではないようだな」


 フィリと相対しているのは、中年の男性剣士。無精ひげを生やしボサボサの黒髪。さらに身につける外套やその下にある革製の鎧も結構汚れている。見てくれは正直あまりよくないのだが、その物腰は達人の域なのだと確信させられるほどの気配をまとっている。


 一方でコーリと対峙するのは、二十代くらいの戦士。金髪で白銀鎧を身にまとい、中年男性と相反するような出で立ちをしている。握りしめる剣についても相当強力なものなのか、刀身に秘める魔力が使い魔越しでも伝わってくる。


「ここで始末しておくべきか」

「あなた達は、公園を目指していたのかしら?」


 尋ねたのはカティ。彼女は短剣を抜き放ち、


「それとも、他に目的が?」

「……事情を把握している、か。エメナ王女の関係者と見ていいな」


 どうやら中年男性は状況を理解している様子。とはいえ、俺達のことはさすがに知らないだろう。

 もし、知っていたとしたら……そこで、


「ワンラ=オイデフだ」

「変わった名前ね」

「このリズファナ大陸において辺境中の辺境出身だ。発音しにくいかもしれないが、勘弁してくれ」

「……マックス=アーテードだ」


 そして若い男性も名を告げる。と、同時だった。その体にわずかながら魔力が生じる。


「名を告げることで、身体能力が活性化されるのかしら?」


 カティもその変化を感じ取ったらしい。問い掛けに対しワンラは肩をすくめ、


「名を告げるというリスクを背負うことで、発動する一種の精神変化だと言っていた。まあそれ以外にも理由はあるが……悪いが、こちらも用がある。他の人間が結構やられているらしいが、こっちも悠長にはしていられないからな」


 ワンラは剣を抜き、構えた。


「通らせてもらうぞ……!」


 駆ける。フィリはそれに真正面から対抗した。

 というより、廊下が狭いため正面からぶつかるしか方法がない……フィリとワンラの剣がぶつかる。それにより、魔力が一瞬弾け霧散し――せめぎ合いとなった。


 結果は、フィリが押し込みワンラは後退。一方でコーリの方もマックスとぶつかってあっさりと彼女が押し返した。そして彼女は追撃を仕掛け――幾度となく剣を切り結び、敵に傷を負わせることができた。


「くっ……!」

「マックス、荷が重いようだな」


 端的に応じるワンラ。彼自身はまだまだ余裕そうだが、このままいけばコーリは敵を倒せる。廊下が狭いためワンラへ一斉に仕掛けて倒すというのは難しそうだが……状況が有利になるのは間違いない。


「彼はあなたの弟子?」


 カティがさらに尋ねると、ワンラは首を左右に振った。


「単なる仕事仲間さ」

「……あなた達は、組織に所属している人員には見えないけれど」

「ああ、そうだな。まあ色々と、星神関連で動いていた……ってことにしておくか」


 剣を構え直す。魔力は発していないが、その姿はフィリを警戒させるほどのものであり、一瞬の隙を突いて勝負を決める……そんな雰囲気さえ見て取れた。

 その動きを見てマックスも吠え、剣を構え直した。痛みを無理矢理忘れ、コーリを倒そうとする……実力差としては歴然としているはずだ。しかしそれでも、彼は突撃しようと構えている。


 緊張の一瞬。ワンラがジリジリとフィリへ間合いを詰め、コーリはマックスへ決めるべく呼吸を整える。カティは仲間の様子を見ていざとなれば援護に――そんな状況下で、先に動いたのは敵だった。

 マックスが、コーリよりも早く足を踏み出し間合いを詰めた。振り下ろされる斬撃はまさしく渾身の剣戟。まともに食らえば、魔力による身体強化しかできないコーリにとっても致命的な一撃になる可能性はあった。


 しかし、彼女はそれを見極めてかわす……それに対しフィリは後方に意識を集中させるような素振りを見せた。具体的に言えば後方の動きを見極め、援護に行くかワンラへ仕掛けるか一度保留にした。


 ――それはきっと、気の緩みというレベルのものではなかったはずだ。ほんの少しだけ、軸足を前ではなく後ろへ向けた。しかもその度合いはほんのわずか。普通の敵なら……オルディアが戦った剣士ならば話は別だが、他にその変化に気づけた戦士や冒険者はいなかったはずだ。


 けれどワンラはそれに気づいた。隙、と言うにも満たないほんのわずかな動き。それを利用し――相手はフィリに背を向け、走り出した。


「……は?」


 フィリが声を上げた矢先、コーリがマックスを剣で吹き飛ばした。相手は倒れ伏し気絶したが……ここでフィリが駆け出した。

 ワンラは部屋へと入り、その後を追う形でフィリが室内へ。同時にガシャンと硝子の割れる音が響き、敵は外へと飛び出した。


 ……まさかの逃亡。下には騎士がいたが、ワンラは着地と同時に駆け出しており、誰にも捕らえられなかった。いや、そもそもフィリの動きから逃げた以上、普通の騎士では対応できないだろう。

 一転して逃走劇となったが、その目標はどうやら公園……まだオルディアやシルヴィ達がいる。フィリ達もすぐさま宿屋を出ており、追いつくだろう。


 それほどまでに、公園には何かあるのか……俺は使い魔でワンラの動きを追うこととなった。


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