潜伏と対策
俺は展開している使い魔を用いて、敵の居所を探るべく動く……既に町全体が戦場と化しており、あちらこちらで戦闘が生じている。
騎士達は魔力無効化により剣術でしか戦えないため、敵を発見しても基本的には距離を置いている……彼らの主な役割は敵の所在などを把握すること。俺の使い魔だけでは町全体を観察するにも限界がある。よって、彼らが動き回っているというわけだ。
で、動く冒険者達やローデンの配下だが……どうやら身を潜めたようだった。
「さすがに立て続けに配下がやられれば警戒もするか」
『当然の選択だろう』
ガルクも賛同。さて、こうなると長期戦になるわけだが……どうすべきか。
捜索については騎士達に任せてもいいが……いや、敵と遭遇したら最悪犠牲者が出ると考えたら、それもまずいか。
「一応、想定はしていたしやりようはあるんだが……それをやると俺が動けなくなるんだよな」
『敵が何をしてくるわからん状況だ。現段階において、ルオン殿はいつでも動ける立場にいるべきだろう』
「少し様子を見るか? それともどうにかして調べられないか方法を検討するか……」
俺は頭の中で考える。使い魔などを利用しパワープレイは可能だが、ガルクの言う通りリスクもある。
現状、魔力無効化の魔法を解くわけにはいかない。よって魔力による探知などもできないため、俺が動かなければ完全に手探りでの捜索となる。これでは効率は悪いし、何より一方的にこちらの体力が削られていく。
その時、俺達がいる部屋にエメナ王女がやってきた。彼女は城内にいる騎士を指揮していたのだが、
「何かあったか?」
「城内に異常はありません。状況をお伺いしたく」
そこで俺は使い魔で見通した現状を解説する。
「なるほど、敵は隠れましたか」
「現時点である程度配下を倒すことができたけど……ここからはそう簡単にはいかない。敵側も何かやっている気配だ。こちらはただ守っているだけではまずい」
「そうですね……ならばこちらも投入しましょうか」
「投入?」
俺が聞き返すとエメナ王女は頷く。
「はい。とはいえ、きちんと効果が出るか試していないため、ぶっつけ本番ですが」
「何か道具を?」
問い掛けたのはソフィア。エメナ王女はすぐさま首肯し、
「はい、魔力無効化の魔法が効いている中でも、魔力を探知する……攻撃的な魔力を無効化する特性ですが、索敵魔法なども無効化します。けれど、古代の技術を利用した道具ならば、それをすり抜けることができる」
「そうした道具を開発していた?」
「完成したのは今日ですよ。正直、話すべきか迷っていたくらいでした」
なるほど、それじゃあ俺達に話すのも微妙ではあるな。
「敵が隠れるのは想定していたからこそ、開発していたわけです……効果については今から実際に試して確認しなければいけませんが」
「えっと、道具については城の中にあるのか?」
「信頼できる騎士に託しています。こちらが合図を送れば道具を使用するための行動を開始します。ただ敵の居所を発見した場合、当然ながら戦闘になる」
「なら、俺達の出番だな」
俺の言葉にエメナ王女は小さく頭を下げる。
「はい、お願いしても?」
「わかった」
――そこから具体的な手順を決める。俺達の仲間の誰かが騎士と手を組み捜索活動に入るわけだが、
「なら……フィリ達に頼もう」
俺はそう決断する――フィリはコーリとカティの三人でオルディア達と同じく公園にいる。三人の近くにも敵は近寄ってきたが、それは操られた冒険者だったためあっさりと撃退し、気絶した者達は騎士に任せている。
公園についてはオルディアやシルヴィに任せても問題はないだろう……ということで、俺はエメナ王女に指示を出し、彼女は同意。索敵能力を持つ騎士とフィリ達が合流を果たした。
騎士は彼らに説明を施し、フィリ達は了承。よって、早速騎士は道具を使う……それは腕輪のような物。魔力を発し、本来なら魔力無効化によって効果は途切れる、のだが――
「こちらです」
騎士はどうやら敵を発見したらしい。捜索時間が一瞬であることを考えると、おそらく公園からそれほど遠くはないな。
「公園によほど敵は執着しているみたいだな」
俺の言葉にエメナ王女は難しい表情を示し、
「血塗られた歴史……そうした中で特に濃い場所と言えるのが、あそこですからね」
「霊廟が狙いだと考えていたけど、実際は違うのか?」
「わかりません。あるいは、城へ入ることができないため、第二プランとして公園を……という可能性もありますね」
エメナ王女はそこまで言うと、踵を返した。
「私は一度戻ります」
「わかった。そっちは大丈夫か?」
「問題ありません。皆様、よろしくお願いします」
部屋から出て行くエメナ王女……ちなみに一人にして大丈夫なのかという意見はあるのだが、密かにユノーが護衛をしている。具体的に言うとエメナ王女の懐にいる。
本来の姿で、敵に気取られないように守っているわけだ……人間サイズになって護衛するのでも良かったのだが、他ならぬエメナ自身がこういう形を望んだ。何か考えがあるらしい。
その辺りのことは特に説明はしなかったが……道具を開発していたことを考慮すると、今回の戦いについてかなり予測を立てている。
なんとなく思うのだが、彼女は明らかに今回の戦いを通して成長している。それは戦闘に勝つという面だけではなく、政治的な意味合いで。しかもエメナ王女が王と共に動いている状況を考えると、やがてエメナ王女自身が女王に……というゲーム通りの展開まで十分考えられそうだ。
「ソフィア、エメナ王女についてだけど……」
「はい」
「本人は女王になることはあまり積極的ではないが……」
「この戦いの功績などを考えると、そのような形がもっとも自然かもしれません。とはいえ、王位継承権を持つ人間にとって、拒否というのはできませんからね」
「リヴィナ王子の処遇を考えると、それもやむなしってことか……」
何かしら提言した方がいいのか……いや、王族のしかも拠点にしているバールクス王国ではなく異国の事情にこれ以上首を突っ込むのはさすがにまずいか。俺達はあくまで星神の降臨を止め、決戦に挑むこと……それを至上命題としている。星神との戦いが本格的に始まれば、この国のことを考える余裕だってないかもしれない。
俺としては、どういう形であれ王族達が納得できるように……非常に難しいかもしれないが、それを願うことしかできず……ここで思考を切り替え、フィリ達の動向を注視することにした。




