双子の剣士
「大丈夫そうか?」
「ああ」
双子の剣士と相対するのは、シルヴィとクウザの二人。シルヴィが前に立ち、一方でクウザはやや距離を置いて敵を観察している。
オルディアとロミルダの組み合わせと同様、前衛と後衛の役割を持っていそうではあるが、クウザの無詠唱魔法については使えないため、彼については得意分野が完全に封じられている。ロミルダのように魔力の質を変えてという手法はさすがに無理で、完全にお荷物になりそうな雰囲気ではあるのだが、もちろん彼がシルヴィと共に立っているのは理由がある。
戦力的には、杖術の練度をかなり高めているため、接近戦についても可能は可能。ただ、今回のことでクウザは自ら志願した……どうやら彼なりに魔力無効化の空間でも戦える手はずを整えているらしかった。
俺がシルヴィとの帯同を許したのは、それについて自信を覗かせていたから……共に旅をした仲間だし、信頼できる。よって、彼を送り出したわけだ。
それにシルヴィとクウザは組んでいた実績もあるわけで……双子の剣士が一歩前に出る。それに応じるべくシルヴィもまた足を出した。
「……エルノ=ヴィーゼだ」
「フルオ=ヴィーゼだ」
双子は相次いで告げるのだが……声が重なってどうにか聞き取れたレベルである。正直、見た目がほぼ同じで見分けがつかないので、名前でどちらなのか判別するのは無理そうだな……。
シルヴィは剣を抜き、黙ったまま構える。彼女の切り札である『一刹那』については、魔力を外に表出する技法ではあるのだが、身体強化を施せば連撃と同じように体は動かせるため、威力は低くとも技は放てるだろう。修行を行った彼女の技量は以前と比べる方が間違っているレベルであり、魔王との決戦で放っていたレベルの威力を、魔力無効化の空間でも使うことができるはず。その域にまで達している以上、正直負ける要素がないし、場合によっては一瞬で終わるかもしれない。
ただ、シルヴィは最大限に警戒し、双子の動きを注視している……双子に強い魔力は感じ取れないが、彼女は感覚で理解している……手強い相手であると。
「……では」
双子のどちらかが言った。
『始めよう』
ハモった瞬間、双子は左右に分かれシルヴィを挟み込むように接近した。当然それにシルヴィは反応し、彼女から見て右の剣士へ狙いを定めた。
当然、左から攻め寄せる剣士については無防備で――しかしそれを阻む存在が。クウザだ。
「させないさ」
杖を構え、剣士の攻撃に応じた。幾度となく剣と杖が交差し、ほんの少し距離を置く。
一方でシルヴィもまた戦闘を開始していた。敵が放った薙ぎ払いをシルヴィは即座にいなすと、反撃に転じた。
連撃を見舞うと剣士は大きく吹き飛ぶ……が、完全に防御はできたようで無傷だ。そしてクウザの方は……杖と剣が幾度かぶつかった後、剣士が退いた。そしてシルヴィ達は背中合わせとなる。
「クウザ、いけそうか?」
「問題はない……とはいえ、こんなことはもうなしにしてもらいたいな」
「自慢の魔法が使えないからか?」
「そうだ。いくらなんでも魔法使いが前線に立つというのは――」
会話をする間に双子の剣士達が同時に攻撃を仕掛けた。直後、シルヴィ達は応じ……再び武器同士がぶつかり合う。
双子側としては、かなり攻めあぐねている様子だ……おそらく二人はコンビネーションで戦うのだろう。しかしクウザの存在によって、邪魔が入っている。本来ならばシルヴィもしくはクウザのどちらかを仕留めたいはず。しかし現状それはできない――ばかりか、苦戦している有様。このままでは勝てないと考えるだろう。
となれば、次の一手は……ここで双子の剣士が動く。同時に魔力を高め、魔力無効化の環境でも能力を高めた。
一方でシルヴィやクウザは動かない……シルヴィはいつも通りのパフォーマンスを見せ、クウザについてはこちらが予想していたよりも遙かに対応できている。彼の得意分野は無詠唱魔法なので、魔力無効化なんて環境でなければ杖さばきは日の目を見ないものと言えるのだが……星神との戦いにしくじりはできない以上、接近戦の修行にも手は抜かなかったというわけだ。
そして双子の剣士は……困っている様子。膠着状態に陥り、ここでシルヴィは口を開いた。
「この公園に、何の用で訪れた」
双子は無言。まあさすがに教えてくれるとはシルヴィだって思っていないだろう。
「……クウザ」
「ああ」
彼が返事をすると同時に、シルヴィ達は烈気をみなぎらせる。途端、双子はもう一歩分距離を置き、様子を窺う構えを見せる。
しかし次の瞬間、シルヴィが片方の剣士へ肉薄した。あっという間に詰められた剣士は対応できず――シルヴィの斬撃が、しかと彼の胴体へ入った。
これにより、あっさりと双子の片割れが倒れ伏す……と、クウザもまた攻勢に出た。杖を放ち、相手は剣で受け流そうとする……が、それを平然と突き破り杖の一撃が剣士の胴体へ入った。
それは確実に、一発で仕留められる威力……剣士の体が吹き飛ぶ。地面に激突し、動かなくなるとクウザは息をついた。
「……やれやれ、剣士相手はさすがに勘弁したいんだが」
「ボクも同感だが、敵は待ってくれないぞ」
ヒュン、と一度剣を素振りした後シルヴィは剣を鞘に収めた。
「周囲に気配はない。ここは二人で終わりだな」
「……他の仲間と合流するか?」
「オルディア達のところはさっきまで音がしていたが、それがなくなっている……そっちも終わったようだ。となれば、他に――」
言いかけた時、ドクンと一つ大気が震えた。何だ……と俺が使い魔を通して注視した矢先、シルヴィ達は同時に大きく後退した。
原因は、双子の剣士……気絶していたはずだが、両者はゆらりと立ち上がる。
「……意識は、ないようだな」
シルヴィの言葉通りだった。両者とも目は虚ろであり、誰かに操られているように見受けられる。
「気絶したら誰かが操作するように仕込みを?」
――俺はこれまで見てきた戦場を観察。他の場所は全員気絶したままであり、例外は双子の剣士だけだ。
これはどういうことなのか……疑問に思う間に双子の剣士が構える。それにシルヴィ達は応じ――戦闘が再開された。




