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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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質の変化

 エズワの動きは、先ほどと同様に驚異的な速度を伴ったもの……いや、そればかりではない。全身から、まるで湯気を噴出するかのように魔力が湧き上がり、魔力無効化によって霧散する。

 制御し切れていないため、魔力が外に出ているが本質的には体の内側を強化するもの。その力の大きさは、今までとは比較にならない……どうやってこの力を出しているのか。そして、どのように――


「はあっ!」


 エズワは剣を振る。斬撃の鋭さは相変わらずであり……彼が行った強化は単純に身体能力を向上させるものではない。力押しに戦法を変えるのではなく、能力向上により技の鋭さが恐ろしいほど増すといった効果もある。そして彼の言う別の力……まだ正体不明ではあるが、それこそ一騎当千のような強者になるような技法だとしたら――


 こちらが思案している間にオルディアがエズワに応じた。敵から放たれた渾身の一振りを彼は見事防ぎきった。このまま力勝負になるかと思ったが、エズワはそれには応じず一瞬で後退する。

 しかしオルディアは警戒を緩めない――刹那、再びエズワが攻め立て、そこから彼の応酬が始まった。


「おおおおっ!」


 先ほどまでの老獪な声とは異なり、雄叫びのような声が周囲に響き渡る。声で内に秘めた力を少しでも発散させている……おそらく、少ない魔力で戦ってきた彼にとって、星神の技術による力は持て余すほどのものなのだろう。老練な技術によって今までは問題なく運用できていたが、ここにきて一気に力を出したため、制御しきれなくなった。

 しかし、エズワの技のキレはさらに鋭さを増す……オルディアはそれを確実に弾いているし、相手の速度に対応できてはいるが、果たして――


「まだだ!」


 エズワは叫び、さらに速度を増していく――が、オルディアはそれに対処できている。魔力無効化の影響を受けてなお応じているのを見ると、彼もまた鍛錬により恐ろしいほど強くなったのだと理解できた。

 そしてエズワの方は……少し、速度が鈍ってきた。さすがに持て余すほどの魔力であっても、断続的に使うのは難しい様子。一度距離を置くか、それとも無理矢理速度を高めて仕留めるか。あるいは――


 俺は何をするのか察した矢先、エズワは動いた。オルディアへ差し向ける剣はなおも苛烈だったが、その軌道に少し変化が――思った直後、エズワは目標を変えた。オルディアの背後にいる、ロミルダへ。


「これで――」


 終わりだ、とでも言いたかったのかもしれない。だがそうはならなかった。エズワが真正面からロミルダへ迫ろうとした矢先、彼女の右手に光が生まれ、それが放たれた。

 ドン――と音がして、エズワの動きが止まった。彼は虚を突かれポカンとした。原因は……ロミルダが放った魔法が、彼に直撃したためだ。


「……馬鹿な」


 そう呟くのは当然だろう。魔力無効化の影響がある以上、魔法は使えない。そう考えて当然の状況。

 しかし、ロミルダは違う……というより、竜の力を持っているが故に、魔力無効化の効力が少しばかり弱い……いや、違うな。


「ガルク、どう解釈する?」


 俺が問う間に、エズワの背後からオルディアが迫り、その体へ一閃した。それによって倒れ伏すエズワ。これで戦闘は終了だ。


『……おそらくロミルダは、竜の力を用いて魔力の質そのものを変えた』

「質を?」

『魔力無効化は絶対的だが、それをすり抜けるように魔力の質を変えたわけだ』


 無茶苦茶な手法だが……今のロミルダなら、それも可能ってことか。


『無論、そうであっても行使できる魔法は光弾を放つくらいだろう。それほどまでに魔力無効化の影響は大きいし、このリーベイト聖王国が構築した術式は完璧だ』

「けど、ロミルダはそれをかいくぐれる……」

「魔力の質を変えることも、訓練の一つでしたね」


 と、ソフィアから解説が入った。


「元々は、質を変えることにより星神に通用しやすい魔法を構築することが目的でしたが」

「応用が利く、ってことだな……で、今回はそれが見事炸裂したわけだ」


 予想以上の成果……加え、オルディアもロミルダも訓練を経てとてつもなく強くなっている。星神との戦いに際し、心強い味方になってくれるだろう。

 これでこの場における戦いは終了……やがて騎士がやってくる。オルディア達は倒れ伏すエズワ達を彼らに任せ、移動を開始。


 公園にはまだ敵がいる。そちらへ足を向けるかと思ったが、どうやら違うらしい。


「探すぞ」


 ロミルダへ彼はそう言っただけだが、彼女はすぐに理解した。


「あのエズワって人の……味方が他にいるってこと?」

「可能性の話だ。弟子を率いて……となったら、わざわざ目的を自分が果たさなくても問題ないと考えてもおかしくはない」


 ――使い魔で確認した限り、人はいない。しかし見逃している可能性もある以上、彼の行動は正しい。

 公園の別所ではさらなる戦闘が始まろうとしているのだが、そちらは問題ないとオルディアが判断してのことだろう……ロミルダはそれ以上意見することなく、オルディアに追随している。周囲の調査が終わり次第、別所の戦闘に参加することになりそうだ。


 まあこの調子だと、二人が来るより前に終わる可能性もあるが――


『ルオン殿』


 ふいに、ガルクが俺へ向け口を開いた。


『現時点で、まだ我らが推測している敵の存在は確認できていないな』

「……転生者のことか?」

『うむ』


 確かに、ここまではあくまで力を与えられた人間ばかりであり、転生者であると断定できる人間はいない。魔力無効化の環境下にあるため、仮に転生者だとしても満足に戦えるのかという疑問は存在するのだが……、


「……もしかして、いないのか?」

『その可能性も十分あるが、警戒はすべきだな』


 いるという前提で俺達は戦っているし、もし出てきても問題はないが……俺は公園にいる別の使い魔へ視点を移す。そこを訪れたのは、二人組の剣士。

 どうやらそれは双子……灰色の髪を持ち、なおかつ青い目という特徴的な剣士だ。装備などはさほど違いはなく、おそらく同じ剣術で戦うのだろう。


 それに相対するのは……双子の剣士を阻む俺達の仲間が、彼らと対峙した。


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