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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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極めた剣

 残る四人の剣士がオルディアへ迫る……対するオルディアは動かなかった。ロミルダが後方にいることも関係しているが、それよりも彼自身がそういう選択をしているのだとわかる。


 では、どうするのか……俺はふと現状を思い返す。魔力無効化により、オルディアもまた外部に魔力を出せないわけだが、この効果は魔族の血が混ざっている彼にとっては他の仲間達よりも影響がある。


 なぜかというと、魔族など人間以外の種族は魔力を多大に有しているが故に、魔力による影響を受けやすい――これはロミルダもそうなのだが、見えない部分で魔力を放出するなどして強化している。根本的に人間と魔族の特性の違いなどが関係しているため、魔力無効化によるデメリットなどは俺やソフィアなんかよりも受けている。

 だが、それでもなお町の中で戦う理由は――接近した剣士の刃が迫る。カウンターを中心に戦っている現状から、囲まれれば危ないか……と予想するところだが、彼は違った。


 勝負は、文字通り一瞬でついた。オルディアが持つ二振りの剣が、動いた。それは目にも留まらぬ速さ……俺はどういう軌道を描いたか使い魔を通して理解することはできたが、あの場で対峙する剣士達はわかっただろうか?

 刹那、オルディアの剣が迫り来る四人の剣士を全て吹き飛ばしていた。なおかつその全てを峰打ちで処理し、四人はまったく同じタイミングで地面に激突。動かなくなった。


「……ほう」


 感心するようにエズワは呟くと、


「なるほど、弟子では力不足だったか」


 心底感服した様子を見せながら、剣を構えた。


「その若さで、それだけの技量……どれだけの鍛練を積んだのか」


 ゆらり、とエズワは体を傾ける。正直、どっしりとした構えではないため吹けば飛ぶような雰囲気さえ感じられるが……いや、達人級であることは間違いないし、弟子を一蹴したからといって油断などはできない。


「ならば、こちらも相応の技を見せよう」


 エズワが動いた。次の瞬間、彼はオルディアの眼前に――!?


 まさか、と思うような速度だった。縮地、と表現すればいいだろうか。まるで時を一瞬だけ止めたかのような動き。おそらく、何かしら星神の技術を使っているとは思うのだが、それでもまったく予備動作もなく、完璧な攻撃だった。

 オルディアもさすがにこれは驚いた様子だったが、反応はできた。ギィン! と一際大きい金属音が鳴り響き、エズワは距離を置く。


「これを防ぐか」

「……こちらへ来る寸前、魔力を発したな」


 オルディアは全てを理解したように呟く。


「魔力を無効化している現状、魔法強化も最低限にしかできない……しかし、その強化を足先に集中させたか」

「ほう、気づいたか。いかにも。儂は元々保有している魔力が少なく、上手く賢く戦うしかなかった……元々多大な魔力を有している人間を、幾度となく嫉妬したよ。しかし儂は技術で全てを、はね除けてきた」


 エズワは剣を構え直す。先ほど同様に体を揺らせているくらいだが、


「足先に力を集中させる……無論、魔力をほとんど露出させずに。その動きに気づいたそちらはさすがだが、だからといって全てを見極めたなどと思わん方がいいぞ」


 オルディアは何も答えず、剣を構え直すことで応じる。


「魔力の無効化……魔法を使う身としては厄介極まりないが、あいにく儂には関係がなくてな。この効果があっても儂の力は十全に扱える……万に一つも勝ち目はないぞ」


 オルディアに明言すると同時、エズワが再び動いた。今度は横手に回り、剣を振り抜こうとする。

 だがオルディアはそれに応じ、剣を弾いた。対応はできているが……最大の問題は、その力を利用してロミルダに矛先を向ける可能性があることだろう。


 まだ後方にいる彼女を狙ってはいないが、不利になるか長期戦になれば遠慮なく剣を差し向けるだろう。驚異的な移動速度を考慮すれば、狙われればロミルダに対応できる術はない――


「心配いりませんよ」


 と、ふいにソフィアが俺へ発言した。


「ロミルダのことを心配しているのですよね?」

「……まあ、な」

「問題はありません」


 ソフィアが告げる。そこで俺は、ロミルダへ視点を変える。

 彼女はじっと動かないのだが、その目線はオルディア達へ向けられている……ん、もしや。


「見えているのか?」

「はい」


 俺の呟きにソフィアは答えた。


「いくら強大な力を持っているにしても、反応できなければ意味がありません。よって、ちゃんと反応できるよう、訓練しましたよ」

「なるほど……でも現在ロミルダは動いていない。これは敵の油断を誘う……?」

「そういうことです」


 どういう作戦なのかわからないが、ロミルダが狙われても……いや、逆に狙われたらそれで終わるかもしれないってことか。

 誘っているわけではないが、オルディア達はしっかりと対策を立てているというわけだ……エズワは再び後退する。オルディアの反撃をすり抜ける形であり、引き際を見極めている。


「……やれやれ」


 そこでエズワは声を上げた。どうやって倒すのか……それを思案している様子だが、


「時間は与えない」


 オルディアが攻勢に出た。途端、エズワはさらに後退して間合いを外す。それでもオルディアは追いつき、一閃するが……弾かれてしまった。


「うむ、隙がない……これでは首を狙うのは難しいか」


 あっさりとエズワは言うと、さらに大きく距離を置いた。オルディアもここで引かざるを得ず、すぐさまロミルダの近くまで戻ってくる。


「ならば、この力を出すしかなさそうだな」


 切り札を持っているのか……ガディアなど、他の場所で交戦していた人物達だって持っていてもおかしくないが……、


「こいつは特別製だ……条件さえ合えば、別の力を得ていたのだがな」

「別の、力?」


 オルディアが聞き返すが、エズワは取り合わない。むしろ喋りすぎたと苦笑するような態度を見せた。


「これ以上は語らんよ。さて、そろそろ終わらせてもらおうか」


 現在までオルディアが圧倒しているが……エズワは極めて冷静。しかし、来る――そう思った矢先、エズワがオルディアへ向け、走り始めた。


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