相談すべき相手
ソフィアについての説明は時間にして五分程度――結果、ラディはソフィアを見つつ感嘆の声を紡いだ。
「バールクス王国の王女か……なるほど、そりゃあ城に顔は出せないよな」
「現段階で知られると、王が存命であることも理解され、魔族に危害が加えられる可能性がある。まだ人間側の態勢が整っていない状況である以上、明かさない方がいい」
「ま、確かにな」
肩をすくめるラディ。そこで今度は俺と視線を合わせ、
「……正直王女様とは思っていなかったから、ちょっと戸惑ってもいるんだが……今後、そちらも戦い続けるんだよな?」
「そのつもりです」
「祖国を解放するためか?」
「はい」
頷くソフィア。ラディは「なるほどな」と呟いた後、さらに話す。
「わかった……ルオンさん達が来なかったのは、事情があってということで誤魔化しておくさ」
「悪いな、ラディ……こういう共通点が出た以上、いずれまた同じように共闘する機会があるかもしれない」
俺の言葉にラディとネストルは同時に頷いた。
「そうだな」
「その時はよろしく頼む」
――会話をしつつ城を出る。入口周辺に人の姿はなく、騎士達が報告に向かっているような状態なのがわかる。
「……それじゃあソフィア、シルヴィ。行こうか」
「はい」
「ああ」
「じゃあな、死ぬなよ」
二人が頷くと共に、ラディも俺達に声をかけ立ち去るべく動き出す。軽い別れではあるが、いずれ彼らとは共に戦うことになる……そう思うと、なんだか不思議な気分だった。
「……さて」
森に入った時、俺は声を発する。
「これからの予定だが……どうする?」
「まずは、修行を完遂させるべきかと」
告げたのは、ソフィア。
「まだイーレイさんの訓練は終わっていないので」
「……訓練の結果魔族を倒せることが証明できた以上、十分とか言われそうな気がしないでもないけど……ソフィアが言うのなら訓練に戻ろうか。ちなみにシルヴィは?」
「ボクも同意だ」
「なら、ガーナイゼへ戻ろう」
決定――というわけで、俺達はガーナイゼへ戻ることとなった。
戻る途中で、俺は今後のことを考える。
五大魔族のうち、二体は撃破した。残り三体だがシナリオ通り進めばこのうち二体を倒すことで南部で防衛イベントが発生する。ただこれについてはまだ先の話だろうか……今は他の主人公達が残る五大魔族と戦うイベントをこなすかを含め、観察を強化しよう。
そして……大問題なわけだが、賢者の力がソフィアとラディとで分散してしまった。これによってシナリオは魔王が強大な魔法を行使し、大陸が崩壊するという流れとなるのは決定的ということ。さらに魔王も強化される。
魔王が強化される点で一番の問題は賢者の力を用いた結界を行使することにより、賢者の血筋でなければ攻撃が通用しないという事実。この対策は一応考えてあるのだが……これについては、少々検証する必要もある。
次に魔王の放つ強大な魔法についてどうするか……さすがに俺が強くとも、一人では対応できない。魔王を倒す策と共に、検討しなければ。そのためには――
色々と考えつつ、俺達はガーナイゼへ戻ってくる。訓練場に入り、イーレイと再会し、五大魔族との戦いに参加したことを伝えると、
「さすがに訓練も十分じゃないか?」
そんな言葉がイーレイから漏れる……なんとなく予想はしていたが。
彼女の言葉にソフィアが首を左右に振る。
「いえ、まだ終わっていませんから」
「律儀だな……ま、いいだろう。なら完成するべく、訓練を開始しよう」
「お願いします」
ソフィアとシルヴィは訓練を開始する。それを黙って眺め始めた俺だが……両者が打ち合いを始めた直後、イーレイが近づいてくる。
「何かあったのか?」
「……何か、とは?」
「ずいぶんと表情が硬いじゃないか」
知らず知らずのうちに顔に出ていたらしい。
ここに来る道中、レーフィンとも話を行った。対策を講じる必要はあるのだが、それを行う上で必要なことは――
「魔族を討ち、めでたい状況だろう?」
「……そうなんですけどね」
俺はソフィアとシルヴィを見据えつつ質問。
「……イーレイさん、どのくらいかかりますか?」
「訓練を見たところ、そう長くはない。三日あれば」
「なら……その間、少し出ても?」
「構わないぞ」
俺は彼女に「よろしくお願いします」と告げ、建物を出る。レーフィンと相談した結果、対応するには間違いなく、神霊の力が必要だという結論に至った。
神霊と偶然知り合っていたのは幸運なのかもしれないが……もしそれでどうにもならなかったとしたら――
「ルオン様」
レーフィンの声。見れば、横に彼女が。
「ついてくるのか?」
「ガルク様と相談なさるのでしょう?」
「ああ。ソフィアの方はいいのか?」
「仕上げの訓練でしょうから、私は必要ないでしょう。一度同胞達の様子を確認すると言って、外に出ました」
「なら、大丈夫か……確認だけど、レーフィンってガルクと直接会ったことはないんだよな?」
「忍んで入り込んだのを謝罪と、事情説明に私の力が必要かと……」
なんだか逆に状況が悪くなりそうな気がしないでもないけど……まあいいか。
「わかった……相談しに行こう」
「はい」
俺は町を出て移動魔法を使用。そして――ガルクのいる森へと急いだ。
で、森へ向かう道中にソフィア達のことについて検証する。
「ソフィアに光が宿らなかったのは、ラディの言っていた通り魔力が拒否したからってことでいいのか?」
「それでいいと思います」
「だが、物語の主人公であるフィリも拒否したんだが……」
「問題はそこなんです。もしかすると私達は、大きな思い違いをしていたのかもしれません」
「思い違い?」
聞き返すと、レーフィンは深く頷いた。
「ルオン様の話によると、物語にはいくつも主人公がいて、五人それぞれの物語が存在しているのですよね?」
「ああ。物語というと小説とかをイメージしてそうだけど、厳密に言うと違う。ただこの世界の物とかで言い表すことが難しいから……とりあえずそれぞれの主人公の物語があると考えてくれ」
「わかりました。で、思い違いというのは、人の魔力が質的に変化することをわかっていながら、賢者の血筋であればすんなりと光が宿ると思いこんでいたことです」
……ああ、そうか。そういうことか。
「人の魔力というのは成長と共に少しずつ変化しています。さらにラディ様が仰っていたように相性の問題もある……ソフィア様も他の方々と同様、魔力が変化し続けています。その変化をきっかけとして、あの城で起きたようなケースが生まれたのでしょう」
体調により魔法が思うように使えないなんてこともザラにあるのが魔力だ。その中で賢者の力が全て同じような性質で、こちらの考えた通りすんなり言うことを聞くというのは――確かに、ナンセンスだったのかもしれない。
「もっとも、どういう仕組みであの光が宿主を選定したのか断定することは現時点では難しいです。ですが、今後のことを考えると検証が必要なことではあるかと思います……それは、精霊である私やガルク様に任せていただければ」
「わかった。頼む……しかし俺達は、結構な綱渡りをしていたというわけか」
「レドラスとの戦いでは何の知識もなかったためどうすることもできませんでしたが、運良くソフィア様に力が宿った。そしてベルーナとの戦いではラディ様に……そういうことなのでしょう」
「そうだな……で、やることがもう一つ増えたな」
「はい……その辺りも、ガルク様と相談したいところですね」
レーフィンが応じる――つまり賢者の力と相性が合っているかどうか、賢者の血筋を持つ者に対し確認する必要があるというわけだ。
これもまた難題……そう思いつつ、俺はひたすら森を目指した。




