根深い問題
ガディアが足を動かした瞬間、周囲にいた冒険者達も一斉に動いた。それと共にリーゼとエイナも応じる。そしてまず、冒険者達が一斉に攻撃を仕掛けた。
完全なる同時攻撃。タイミングも完璧であり、リーゼとエイナへ向けられた刃の数はまったく同じだった――ガディア自身、二人が脅威であると感じ取って戦力を同等に振り分けた。そしてここまでの戦いぶりから、冒険者が一斉に仕掛けたら苦戦するだろうという予想をして、なおかつそれで十分だと考えた。
ガディアの視点からすれば、最善の策……ウッドの戦い方もそうだが、状況を冷静に分析し、最適解を出している。少なくとも作戦としては完璧で、戦う側からすれば本当に厄介だ。
けれど、彼の予想を覆すものがたった一つ存在する……それはリーゼ達の実力。ここまでの戦い。魔力無効化の効果が発揮されており彼女達だって全力を出すのは無理だ。しかし、それでもなお……全力を出さずとも、圧倒できるだけの戦力を持っている。
リーゼとエイナへ冒険者達が迫り――勝負は一瞬でついた。二人が豪快に薙ぎ払うと、それだけで冒険者達全員が吹き飛んだ。
「……え?」
ガディアは素っ頓狂な声を上げ――続けざまにエイナが肉薄する状況に、対応できなかった。
我に返った時はもう遅い。エイナの剣がしかとガディアの体に叩き込まれる。
「ぐおっ……!」
体をよろめかせ、どうにか耐えきるガディア。しかし大きく隙を晒したが故に、立て続けに迫るリーゼの攻撃を、見極めることもできなかった。
彼女の攻撃がガディアの脳天に入った。もちろん峰打ちだし、相応に加減もしている……それにより彼はとうとう倒れ伏した。
「終わりましたね」
「ええ」
エイナの言葉にリーゼは答えつつ、冒険者に近寄って調べ始める。
「操る系統の魔法は……感じないわね。ガディアが気絶したことで、効果が途切れたようね」
「彼が冒険者全員を操っていたとは考えにくいですよね」
「そうね。予めここに急行する人員を決めてあり、そうした冒険者達をガディアは任されたということで間違いなさそうね」
エイナは周囲を見回す。冒険者が倒れる姿を確認した後、
「……この場にいる人数だけを見れば、王都に入り込んだ冒険者のほとんどがここに来たという解釈ができるのですが……」
「そうではなさそうね」
リーゼは何かを理解したように告げると、俺――つまり観察する使い魔へ目を向けた。
「想像よりもこれは、根深い問題かもしれないわね」
彼女はそれだけ言うと、研究所へ向け歩き始めた。事情はもちろん説明してある。気絶した人を介抱するため人を呼ぶのだろう。
そこで俺は息をつき、リーゼ達を観察する使い魔の視点を外した。
「……どう思う? ソフィア」
一緒に状況を見ていた彼女へ視線を向けると、資料を確認する姿があった。
「どうやら組織に所属する人間以外にも、操られている人物がいるようですね。倒れている人物の中に、資料にはない特徴の人物もいますから」
「たぶん王都にいた冒険者ギルドの人間とかかな……ローデンという人物が事前に仕込んだにしろ、そこまでいくと単に『星宿りの戦士』という組織内だけで話が終わらなくなる」
『見知った人間をひっ捕まえるだけなら話はわかりやすいが』
と、ガルクが俺とソフィアへ告げる。
『道具を用いているのであれば、少なくとも多数の冒険者に信頼されなければならない』
「つまりローデンは、それだけ顔の広い人物か……あるいは、信頼されるだけの地位を持っているか」
『我は後者である気がするな。知り合いからもらった道具……を誰もが肌身離さず持っているとは思えん』
「権力者からの贈り物……あるいは冒険者ギルドに関係する何かとかだったら、手放すようなことはないって話か」
『うむ……しかし問題はローデンがまだどういう人物なのかわからない点だな』
「使い魔で散らばった人間は観察しているけど……特定するのは無理だな」
例えば一直線に霊廟とかに向かうなら、その人物かもしれないと推測できたりするのだが、現在ローデンの一味は例外なく町中を動き回っている。観察されている前提で追っ手を撒くためか、それとも他に何か理由があるのか。
『ルオン殿、次に重要施設を狙いそうな人物はいるのか?』
「ちょっと待ってくれ……あ、公園に向かっている人間がいるな。さらに冒険者も伴っている……」
公園――そんなところに何の用だと事情を知らなければ首を傾げるところだろう。けれどエメナ王女は重要場所として指定した。
理由は、公園の敷地内に巨大な魔石が埋め込まれているためだ。それが星神を降臨させる鍵という可能性は低いのだが、念のためということでエメナ王女は言及したのだ。
ではなぜ公園に魔石が……元々、この王都がある土地はいわくつき――歴史的に戦争が繰り返され、血を流した歴史があるらしい。そうした戦いで亡くなった人を慰め鎮めるために、慰霊碑などが王都内には存在する。
特にその公園は、歴史上意味のある場所だった。なぜならリーベイト聖王国に滅ぼされた王国の君主が処刑された場所であるためだ。そうした存在を慰めるために、そして亡霊達の力を抑えるために、魔石が存在しているのだ。
エメナ王女が懸念したのは星神関連ばかりではない。魔石が存在する経緯が経緯だけに、悪用されないとも限らない。例えばの話、王都内を混乱……動いている騎士や俺達の気を逸らすために、魔石を破壊する可能性もある。魔力無効化の効果が発揮されているため、仮に魔石を破壊されても影響は限定的という見方もあるのだが……エメナ王女は星神の技術について最大限の警戒をした。悪用される確率はゼロではない……だからこそ、守護するべきと判断した。
それに俺やソフィアは同意し、人員を配置した。敵がそこへ向かうなら、エメナ王女の懸念は的中していたことになる。また公園は大きいため、人数も相応なのだが――
「別働隊がいるな」
最初に公園へ向かっている人間とは別に、冒険者を率い動いている者がいる。どうやら激戦になる……そんな予感を抱くと共に、まず最初に観察していた人間と、俺達の仲間が対峙した。




