冒険者と対峙する者
「ずいぶんとまあ、無茶をするな」
冒険者一向に近づいたのは、仲間であるアルトだった。その傍らにはキャルンがいて、さらにその奥にはイグノスがいた。
「ここまで強行に動くって事は、何か理由があるのか?」
「……騎士というわけではないな。何者だ?」
男性の問い掛けに対し、アルトは肩をすくめる。
「まあ、そうだな……王女様が旅を通じて知り合った人間とでも認識してくれればいいさ」
男性は目を細め――周囲の人間が散開する。それはどうやら、目前にいるアルト達を排除すべく囲もうとしている動き。
「待て」
だが男性は、周囲の人間を呼び止めた。
「奴らの始末は後だ」
「確認だが、指示しているあんたがローデンか?」
「……答える必要はないな」
男は応じると、剣を構えた。ただ魔力無効化の魔法がまだ効いている……それにより、剣による戦闘だとしても単なる力勝負にしかならない。
それでも勝てると思っているか……刹那、男が駆けた。まさしく電光石火の動き。体の内面で魔力強化は施しているため、常人を遙かに超える速度でアルトへ肉薄する。
だがアルト達も――鍛錬を経て、大きく成長していた。
「そらよ!」
彼の大剣が、男目がけて薙ぎ払われた。それは相手が懐へ飛び込むよりも速く……男はどうにか剣で弾いた。それで体勢を大きく崩し、苦悶の表情を浮かべる。
「貴様……!」
直後、アルトの横をすり抜けキャルンが男へ接近した。それは先ほど男が仕掛けようとした速度を凌駕する――途端、キャルンと男の間に割って入るように、別の男性が剣を構え立ち塞がった。
短剣と長剣がかみ合う。結果、男性の剣が大きく弾かれ、相手側は大きく引き下がった。
「……どうやら、生半可な相手ではないようだ」
すると男は――指示を飛ばす。
「町中に紛れ、作戦を遂行しろ」
一斉に冒険者一行が散り始めた。さすがにアルト達も予想外だったか踏み込もうとしたが、それよりも先に指示を飛ばしている男が剣を構えた。
「……ウッド=デイアーだ」
「名前を言うってことは……それなりに評価されたってことか?」
「お前達が厄介な存在であることは理解した。故に、ここで食い止める」
俺はそうした会話を聞きながら、ガルクへ尋ねる。
「町全体の時が止まっている、でいいんだよな?」
『うむ、被害をもたらすことはあるまい。魔力無効化についても発動しているからな』
「……大通りだけじゃなかったっけ?」
『我らが突貫工事で王都全体に張り巡らせた』
マジかよ。さすが神霊。ひとまず犠牲者が出ることはなさそうだが……まあ、建物に少しくらいダメージを与えてしまうかもしれないが……そこはエメナ王女に後で謝っておこう。
散開した戦士達は町中を駆け抜ける。裏路地や大通りから外れた別の通りへ抜け出し、ひた走る。人々は一様に動かないため、彼らは無人の野を行くように進むのだが、
「……敵の目的が何であるか。そこが最大の問題か」
『我らは色々と推測をしたが、それが正解かはわからんからな』
「星神に関連しそうな王都内の施設……さすがにこれだけ広いと、候補を守るのも大変だな」
『うむ。現在は霊廟のように、魔力が存在する場所は重点的に守っているわけだが……一部はそうした場所へ向かうようだ』
俺は使い魔で観察する。確かに王都の外れへ進んでいる人員も見られる。
『推測だが、予め役割を与えられていたのだろう。操っている組織の人員はあくまで時間稼ぎの役割を担い、時を止める魔法が通用しなかった際の妨害役とする。それ以外の者達は、事前に指定された場所へ赴くと』
「どういう理由にせよ、作戦は当初の通りってことか……ただこうなると、余計に敵の目的がわからないな」
『あるいは、王都内で必要な箇所を全て巡る……それこそ目的なのかもしれん』
「であれば、どこか一ヶ所でも守ればそれで終わりだが……」
ま、そんな簡単にはいかないだろう……。
「ルオン様、どうしますか?」
ソフィアが尋ねてくる。そこで俺は視線を変える。
真正面にテーブルがあり、そこに王都の地図が広げられている……先ほど王都内の施設で重要であろう場所は重点的に守りを固めているとガルクが発言したわけだが、そこには仲間もいる。どうやら修行の成果を出す必要に迫られているらしい。
今回は魔力無効化の状況下であり、派手な戦闘というわけではないが……そうこうする間に、アルト達とウッドの戦いが再開された。現状、彼の周囲には味方がいない。文字通り単独でアルト達に戦いを挑んでいる。
先ほど、アルトが大剣で突撃を押しのけたことを考えると、普通に戦っても勝てないと思うのだが……刹那、ウッドが握る剣が突如光り輝いた。
「おっと……?」
アルトは声を発しながら大剣を構えたのだが――ウッドの剣は突然光を失う。魔力が発露したことにより、強制的に霧散した。
「やはり魔力を無効化するか」
「確かめるためにやったってことか……わかっていると思うが、純粋な力勝負になるぞ」
アルトは大剣を構える。その風格は、これまでとは一線を画していた。
「一人で勝てると思っているのか?」
「……驚嘆すべき能力だ。どういう経緯でこんな場所にいるのかわからないが、こちらの目的を壊すだけの力はある」
ウッドは答えながら、アルトと相対する。
「この調子であれば、おそらく他に仲間がいる……が、構わない。その全てで、こちらが勝つ」
「信用しているんだな、仲間を」
「仲間……違うな。同士だ」
その言葉はずいぶんと重かった……星神を蘇らせるために活動する運命共同体。どういう意図で、なんのために――
「なぜ、こんなことをする?」
アルトが問う。それにウッドは笑みを見せた。普通に笑っている……だが、その表情には確実に、狂気が潜んでいた。
「そんなこと、決まっている……大いなる目的のためだ!」
叫び、ウッドは仕掛けた。先ほど以上に鋭く、なおかつアルトを一撃で仕留めようとするような雰囲気を持ち合わせており――直後、アルト達もまた動き出した。




