疑問が多い中で
敵はどうやら自分たちの動向がある程度見られているとわかった上で行動しているらしく、王都へ近づくにつれ移動速度が増した。とはいえ、それでも馬車などによる移動であるため時間的な余裕はある……その間に、ローデンという人物が率いる面々についての調査を進め、なおかつ戦闘準備も行っていく。
「結構多いな」
俺はそんな感想を漏らす。デヴァルスや組織上層部から直接もらった資料に基づき、ローデンの仲間達について調査を進めたのだが……結果、約十数名ほどが組織に所属していないと目される人物だった。
「その十数名こそ、ローデンにとって主力ですね」
ソフィアが述べる。俺は小さく頷きつつ、
「問題はこの中にローデンがいるはずだけど、肝心の本人に関する人相が不明……まあ、全員捕まえればいいだけの話だが」
「私達はどう応じますか?」
「遠方から魔力を探ったりしているけど、さすがに能力まではわからない。よって、防衛網を構築し俺達はどんな形でも動けるようにしておく……加え、敵の狙いについても注意しなければいけない。霊廟であるとエメナ王女は推測したけど、それ以外の場所も守護し、万全にしておく」
「そして敵の動向次第で遊撃として動く……」
「それがベターだろうな」
「私達が城内に入っても問題ないような手はずにはなっているのですか?」
「エメナ王女からその点についても連絡はあった。結論から言えば、問題ないと」
後は……敵の目論見を防ぐべく尽力するだけだ。
「無論、懸念は残っている。これほど強硬な手段に打って出ているわけだが、つまりそれは今回の攻撃で星神を降臨できるだけの手はずが整っているということだ」
「例えば敵の狙いが霊廟だとして、何かをすれば目的が達成できる……ということですよね」
「その何かが俺達にはまだわからない。もし時間の掛かるものであったなら、さすがに止められるとは思うが……」
「戦闘に入って以降も敵の狙いを精査し、目標を阻止するしかなさそうですね」
ソフィアの言葉に俺は頷く。
「ソフィアについても、今回は頑張ってもらうぞ」
「はい、わかっています」
――そうして、俺達は急ピッチで作業を進める。気づけば国と連携し、しっかりと関係を構築することができている。結果的にソフィアやエメナ王女の仲も深まった……ひいては国同士の関係性も深くなったと言えるだろう。
そうしてこちらが戦闘準備を進める間に、敵は確実に近づいてくる……のだが、果たしてどういうやり方で攻撃してくるのか。まさか馬鹿正直に突撃してくるわけじゃないだろう。こちらが動向を観察していることを把握しているのであれば、何か策があるはずなのだが……、
「ガルク、怪しい動きは?」
『ないな』
今回は神霊達にも協力してもらい、敵の動向を探っているのだが……異常はない。
『真っ直ぐ王都へ突き進んでいるだけだな』
「他に怪しい点はなし、か」
『あえて目立つ動きをしているわけだが、それが囮である可能性は十分ある。よって、あらゆる事態を考慮はしているが……』
「既に敵が潜入している可能性は?」
『あり得なくもないが、リヴィナ王子の事件以降城側は相応に警戒している以上、潜入は厳しいと思うのだが……』
現在はさらに出入りを厳しくしているらしいからな。そもそもリヴィナ王子との決戦から王城は調査に乗り出していた。情報提供者については組織側から誰であると伝えられているし、王都内に潜伏できそうな場所はなさそうだが、
「あれだけ目立つように行動しているんだ。罠があると考えた方がいいよな」
『転生者の実力を見越しているのであれば、そのまま突撃する可能性もあるぞ』
「問題は、そこなんだよな」
『どうした?』
「以前、一報が届いた時も話し合ったけど、転生者がいるのであれば、強引に霊廟へ踏み込んで事を成すというやり方だってできたはずだ。にも関わらず、彼らはあえて物語に沿って動いていた……そこが引っかかる」
『そこは物語の流れでなければ実行できない作戦だったから、ではないか? しかし現実でそれが難しいと判断し、強引な手段に打って出た』
「仮にそうだとしたら追い込まれての一手だから、俺達としてはやりやすいはずなんだけど……それと、もう一つ疑問がある。この件について、星神が関わっているかどうか」
『そこは……微妙だな』
以前から、多少の介入は存在していた。ローデンという人物がどこまで星神と関わっているかは不明だが、出会っているという可能性も考慮して動くべきか。
「ガルク、あらゆることを想定し……というのは時間が足りないかもしれないが」
『構わん。これくらいの無茶は想定内だ』
「ごめん……俺としては、とにかく城内を注意すべきか」
『エメナ王女が候補に挙げた重要施設は全て城内なのか?』
「全部が全部というわけじゃないが……霊廟を始め、王城の内側にあるのがほとんどだ」
城は堀と城壁があるため、普通ならば侵入するのは難しいはずなのだが、隠し通路などの情報を得ている可能性は十分ある。リヴィナ王子の味方だったわけだし――
「いや、さすがにそうした道は封鎖しているか?」
『城への抜け道か? まあ閉じておくのが無難だろうな』
そうやって相談を重ね、準備を進めていく……これが果たして星神との決戦に繋がるのか。わからない状態ではあるが、ここで間違えれば取り返しのつかないことになるかもしれない……そんな危惧から、俺はとにかく考え続ける。
それはソフィアを始め仲間達も同じようだった……転生者が相手かもしれないということで、最大限の警戒をしている。むしろ星神との戦いにおいて得た鍛錬をここにぶつける……そんな考えさえ抱いている様子だった。
やがて、ローデン達が王都まで一日という段階に至り、俺達は準備を終えた。
可能なことはやったはず……敵がどう出るかわからない以上、果たして行き届いたかはわからないけれど。
王城側はかなり神経をとがらせて、敵が来るより前から警戒をしている。結局、他に怪しい存在はいなかった。城内も可能な限り調べたし、内通者などを考慮に入れた態勢を整えている。その結果、現時点で何もない。
不安はあるが、気にしていても仕方がない……俺達としても準備を済ませ――いよいよ、決戦の日が訪れた。




