まさかの事態
その日、エメナ王女とソフィア達がお茶をして、和やかな雰囲気で交流をした。エメナ王女としては一時間程度の滞在のつもりだったようだが、ソフィアやリーゼがまだいいのでは、と言及して結局夕刻まで屋敷にいた。
きっと王族として積もる話もあったのだろう。あるいは、リヴィナ王子の顛末から、何か助言とかしたかったのかもしれない……俺は早々にソフィア達からは離れ、使い魔で王都周辺を観察していた……のだが、伝令が屋敷へ来た。それは俺達に向けられたものではなく、滞在しているエメナ王女へのものだった。
そして、ソフィア達に呼ばれ俺達は会議室へ赴く。仲間達は修行中でいないが、リーゼに加えてユノー、さらにアンヴェレートが同席した。
で、俺達にも関連することであったため、こっちに伝令が来たらしい。内容は、
「行方不明者が……?」
俺は驚きながら呟く。報告によると、行方不明者の姿を発見できたらしいのだが、その人間達が集まり王都へ向かっているとのことだった。
「それってつまり……」
「攻撃を仕掛けようとしているようです」
エメナ王女が答える――まさか、とは思う。けれど敵の動きは明らかにそれだった。
「組織側が王族の味方になっていることはローデンという人物もわかっているはずだ。その上で仕掛けてくる以上、何かしら策があると考えていいな……」
肝心の城の動きについては、状況がわかった途端に色々と慌ただしくなったとのこと。早急に準備を進めている……とはいえ、だ。本当に決戦になるのかわからないため、人々に露見しないようにしなければならない。
現在国はリヴィナ王子の一件があったとはいえ、政情不安というものはない。ただ、城の中で騒動ともなれば、王都は大混乱に陥る。ローデン達が攻撃を仕掛けてくるということは、下手すると王都そのものを攻撃し、混乱させてくる可能性も――
「エメナ王女、城にすぐ戻るか?」
「そうですね。私も色んな事に備えて準備しておく必要がありますね」
「ユノーはどうすればいい?」
「有事に備え、可能であれば私と共に城に入ってもらいたいのですが……」
「任せといて」
ユノーが応じる。俺やソフィア、さらにアンヴェレートも頷き賛同の意を示す。
「俺達も、決戦に際し城内に入るメンバーを選定しておく必要があるかな……」
「そこはお任せします。私は皆様が入城できる手はずを整えておきます」
「わかった。相手がここへ来る前に何か起きる可能性も否定できないから、ユノー。それまで護衛は頼んだ」
「うん」
「城側は城側でやれることをするけれど……」
アンヴェレートは言いつつ、一つ考察をする。
「王都の人間は避難させたいところね。敵との決戦に臨むなら、それが最善」
「だな……でも、何も起きていない状況で、敵が来るから避難しろはさすがに無理か」
「厳しいですね」
エメナ王女も同意する。何もない状況で避難命令は荒唐無稽……そもそも敵の数だって何百人といるわけじゃない。現時点で数十人といった感じであり、それで王城が混乱に陥る……非現実的だな。
「敵は戦いを仕掛けるなら」
ふいにソフィアが発言する。
「勝算があってのことですよね……具体的にどうするつもりなのでしょうか?」
「それについては、推測だけど……エメナ王女、行方不明者について捕捉できたらしいけど、その中に行方不明者とは異なる人間も同行しているか、資料でわかるか?」
「……ええ、確認できたようです。それも一人や二人ではない」
――ちなみに、組織側はおとなしくしている。というか、行方不明者続出で機能不全と起こしていると言うべきか。
肝心のリーダーであるノヴァも、組織内に生まれた混乱を収めるために四苦八苦しているとのこと。とはいえ情報はもらっているし、共有もしているから彼らも彼らなりに動くかもしれないが。
「おそらくその中にローデンがいるのでしょう」
「だろうな。ただそういう人間が一人ならローデンが行方不明者を率いて動いていると判断できたんだが、そうじゃない人間が多いってことは……たぶん組織と関係がない人間なんだろう」
「組織とは関係がない、ローデンに付き従う人だと」
リーゼの言葉に俺は首肯し、
「ああ、そして行方不明者の実力については、正直王都を襲撃するにはあまりに力不足だ。ローデンがどれだけ力を保有していようとも、さすがに数十人で王都を混乱させるというのは、かなり厳しい」
「策があるにしても、こちらは迎え撃てる態勢がある。奇襲は無理だし、敵としてはどうあがいても勝ち目がないはず」
「リーゼの言うとおりだ。それでもなお、攻撃を仕掛ける……敵の最終目標は王城を制圧するとかではなく、混乱を所持させて星神を降臨させる手はずを整えることだ。そのため、混乱させ王城内に忍び込めるだけの時間があればいいという判断……と、考えることもできるが、能力がなければ難しいだろ。ただ行方不明者ではない人間が相当な強さであれば、話は変わってくる」
「つまり」
と、ソフィアは硬い表情を示しながら、俺達へ言う。
「それこそローデンが策のために用意した戦力……」
「魔法で操っている人間は場をかき回すだけの要員で、そちらが主力かもしれない。ローデンという人物が見込んで味方に引き入れた。あるいは転生者であり、相当な能力を保有している」
「転生者……」
もし敵が転生者なら――アランの事例はあったが、これほど大規模なものは経験がない。
「一人一人がとんでもない力を持っているなら、話は別だろ」
「確かに、そうですね……しかし、それではなぜ星神を――」
「その辺りのことは正直わからない。直接尋ねてみるしか……ま、どういう経緯であれ敵に回っているなら、戦わなければならない」
俺は全身に力を入れる。行方不明者以外の人員が全て転生者かどうかはわからないが、全員がそうであると想定して行動した方がいいだろう。
「全員がルオン級なら勝てないわね」
リーゼが告げる。そこで俺は、
「いや、さすがにそれはないだろ。俺ほどの力があれば、わざわざ王城に取り入って騒動を起こす必要性がない。自分たちだけで目的を達成できるはずだ」
「それもそうね……けど、強いのは確かよね?」
「転生者は俺を含め、賢者や星神の影響を受けている……そう仮定すれば、強くなれる素質はあると思う。でも、本当に強くなるかどうかは本人次第だ」
俺はリーゼに答えた後、
「こちらも戦闘準備に入ろう。ローデン達の位置から、それほど経たずして決戦になる。俺達も――最善を尽くさなければ」




