光の挙動
「これは、もしや……」
レーフィンはそう言葉を発し、光を見据える。すると彼女が説明しようとしないためか、ソフィアが疑問の声を上げた。
「以前、光を得たためもう力を入れることができないと?」
――賢者の力に抱えられる限度があるのか? いや、ゲームでは主人公達はきちんと五大魔族の力を取り込んでいたが……ソフィアだからできないということか?
疑問が湧き上がる中で、次に声を発したのはラディ。
「今のは、魔力側の拒否反応だな」
「……拒否、ですか?」
ソフィアが小首を傾げる。ラディは「ああ」と返事をして、続ける。
「人それぞれに相性というものがあるだろ? それと同じで魔力についても質によって相性というのがある。今起きたのは、ソフィアさんと魔族から出た光の相性が悪くて、体の中に入らなかったということだ」
相性――賢者の血筋を保有しているだけでは体の中に入れることのできない場合もあるということなのか。いや、もしかしてゲームの主人公ではないソフィアだから……レドラスの時体の中に入ったのは偶然ということなのだろうか?
考える間に、後方にある扉が開く音――見ると、フィリと騎士達だった。
「魔物の姿が消えた……倒した、みたいですね」
フィリが言う。俺達が頷く間に彼は近づき、レーフィンと光を見る。
「どういう状況?」
そこでラディが説明。俺は視線を彼らからレーフィンに変え、問い掛ける。
「それをどうにかしてソフィアの体の中に宿すことはできないのか?」
「……ラディ様が仰ったように、拒否反応がでる以上難しいですね」
となると、ラディかフィリに力を渡すか……? ソフィアに力を与えられないというのならどの道、魔王が強大な魔法を使うことになるが、結果はどうあれ誰かに賢者の力を託した方がいい。
だが、検証の余地があるのならするべきだ……と思っていると、レーフィンがさらに話し出す。
「ちなみにですが、急いだ方がいいですね。これ」
「……それって、もしや」
俺の言葉にレーフィンは頷く。
「徐々にですが、魔力が薄くなっています。風の力で光を留めていますが、それでも魔力は漏れ出ています。時間は……一時間もあれば消滅するかもしれません」
しかも時間制限ありときた……検証も無理そうだ。
「もう一度試してみましょうか」
レーフィンはそう言い光をソフィアへ――だが結果は同じ。すり抜けて光はふわふわと漂う。
「この光に、どれほどの力があるんでしょうね」
ラディから説明を聞き終えたフィリが言う。そこで俺は、光を見て――
「……フィリ、試してみるか?」
「え?」
「どういう力なのかわからないが、少なくともフィリの役に立つはずだ」
――ラディとフィリ、どちらに力を入れるべきかを考えると、フィリの方がいいだろうと思った。彼の方が今後五大魔族と戦うことになるような気もするし。よってレーフィンへ視線を流す。彼女はそれに応じ、光をフィリへ投げた。
しかし、こういう展開になるとは……やはり主人公は賢者の血筋の中でも何かしら特別な位置にいたということなのだろうか。ともかく、話の展開としては魔王が強大魔法を放つ五人の主人公が別々の五大魔族を倒すというシナリオになるのは間違いない。対策のために動く必要がある。
光がフィリの近くへ到達する。周囲の視線が集まる中、彼の体の中に光が入り――
そのまますり抜けた。
「……は!?」
思わず声を上げてしまった。ちょ、ちょっと待てよ! 何でフィリまですり抜けるんだ!?
「ずいぶん頑固な光みたいだな」
ラディが光を興味深そうに見つつ告げる。それに対し当然とばかりにネストルが声を上げる。
「そもそもどういう力を持っているかわからん以上、この光が誰を選ぶかなんてわかるはずもないだろ――」
と、言っている間に光はふよふよとラディへ近寄り――彼の体の中へ、入った。
「……あれ?」
ラディが声を発する……すり抜けていない。間違いなく、彼の体の中へと入った。
「なんだか魔力が回復したような……俺が選ばれたってこと?」
「みたいだな」
ネストルが腕組みしながら発言。なんだか腑に落ちない様子……俺も心底同意だが、ともかく力が彼に宿ったのは紛れもない事実。
「ひとまず、力そのものが消滅することは避けられたので、良かったのでしょう」
レーフィンが言う。本音を言えばソフィアに渡したかったはずだが――ここでラディが発言する。
「魔族は倒した……凱旋といこうか」
「我らは先んじて報告をしよう」
騎士達が言う。俺達には「ゆっくり戻って来てくれ」と言い残し、足早にこの場を去った。
次いでフィリ達も「共に戦っていた人達が気になる」として、騎士を追随するようにこの場を去った。残る俺やラディ達だが……しばらくして、ラディが話し始めた。
「ソフィアさん、以前光を体の中に入れたと言っていたよな?」
「……はい。信じてもらえないかもしれないと思い、話しませんでしたが」
「居城を構えた魔族となると……ロベイル王国の一件か」
「まさしく」
二人が会話をする間に、俺は一つ思い至る……このまま城の外に出たら、凱旋ということで城にでも招待されるのではないだろうか。
ソフィアがいる以上、それは避けたい。前線に立つ騎士なら大丈夫だが、さすがに城に招待されるとなるとソフィアの顔を憶えている人間も多いだろう。特に今回のような連合しての戦い……魔族を打倒したということで、宴の一つあってもおかしくない。
そんな場所に出たら、ソフィアの素性がバレること必至……今後のことを色々と考えなければいけないし、ここは速やかに立ち去りたいところ。
「――しかし、外に出たら俺達は英雄扱いかな」
ラディが言及した瞬間、ソフィアも気付いたか「あっ」と声を上げ俺を見た。
「そういえば……前の時は騎士などもいなかったので問題にはなりませんでしたが」
「今ならまだ騎士が報告に行っている途中だし、大丈夫だろ」
そうした会話を行った時、ふいにラディが俺へ話し出した。
「一ついいか? ソフィアさんについてなんだけどさ」
「ソフィアについて? どうしたんだ?」
「いや、その佇まいから貴族か、騎士の家系のご令嬢かなと思っていたんだが……協力して魔族を倒し、なおかつ同じような光まで宿した。ちょっとくらい事情を聞かせてもらってもいいんじゃないかと思ってさ」
――おそらく、ずっと気になっていたんだろう。
「どうも城に入ることを嫌がっている様子だし、事情を把握したら協力もするぞ?」
「……ソフィア、どうする?」
「いいと思います。同じ光を宿す者……今後、何かの機会で共に戦うようなこともあるでしょうし」
「かもな」
ラディは笑い、ネストルへ首を向ける。
「そっちもいいよな? それと、今後も一緒に戦ってもらいたいんだが」
「ああ、構わないぞ。一緒に戦うことも含めてな」
返答した後、ネストルはニカッと笑う。
「言っておくが俺は義理堅い方だし、口も堅いぞ?」
と、シルヴィへ視線を向ける。
「俺はあいつが女であることを知っているが、誰にも話していないくらいには口が堅いぞ」
「ぶっ!?」
シルヴィが吹き出した。予想外といった感じだ。
「ちょ、ちょっと待て! ボクのことを知っているのか!?」
「本名はシルヴィだったか? さすがにお前も全員に誤魔化すのは無理だから幾人かに事情を話しているだろ? そいつが酒の席でうっかり話したのを聞いただけだ」
肩をがっくり落とすシルヴィ。するとネストルは笑い、
「ま、そいつには気を付けろと言ってあるから他に漏れてはいないだろ」
「……そうか、わかった」
「で、話してくれるか?」
ネストルが言う。俺は再度ソフィアと目を合わせ、彼女が頷くのと見て、
「……わかった」
というわけで、事情を説明した。




