行方不明者
組織側との会談後、状況はさらに進展し始める……ただ、最悪な方向に進んでいるというわけではない。むしろ俺達のことを警戒し、事を進めているようにも思えた。
敵の居所についてはまだわからないが、敵の情報などはある程度得たし、加えて組織側が味方になった……そして会議の途中でリーゼが進言したように、状況を考えれば大々的に動ける。
とはいえ、とりあえず使い魔を用いての活動から。ローデンについての詳細はわからないが、敵の狙いなどをある程度推測できていることから、もう動いても大丈夫という判断だ。
「さて……」
魔王との戦いで行ったように、様々な場所に使い魔を配置する。とはいえ観察するにしても限界はある。魔王との戦いにおいては、観察対象がいたため使い魔の数は多いにしろ成果を上げられた。しかし今回はどこにいるのかもわからない敵を見つけ出す……これでは人海戦術を行うにしても限度がある。
「俺は使い魔を展開したけど……」
『我々も協力するが、さすがに敵の姿が見えていない以上は厳しいな』
ガルクが言う。ソフィアなんかもそれに同意するようで、
「現状、町を観察し何か変な動きがないかを探るくらいでしょうか……」
「行方不明者の人相については、デヴァルスから情報が回ってきている。使い魔にそれを記憶させることはできるし、怪しい人物がいたら反応できるようにしておくけど……国側が動くと踏んでいるのなら、さすがに町の大通りを歩くなんて真似はしないだろうな」
『現在はどこかに潜伏している可能性が高いだろう』
ガルクが続ける。俺も同意しつつ、
「特に注意すべきは王都周辺か……敵の狙いは王族にまつわる何か。エメナ王女から情報が色々ともらったから、そうした場所を観察する。護衛も増やすらしいけど、戦闘になったらすぐ急行できるようにしておかないと」
『具体的にどうする?』
「……この屋敷を引き払って、王都に移動してもいいな」
「それがベストでしょうね」
もう俺達のことを隠し立てする必要性も薄いし……その辺りのことをエメナ王女へ連絡してみると、場所を用意するとのことだった。
「この拠点はいつでも使えるようにしておいて、そちらへ移動するか」
『うむ、そうしよう』
「あ、でもさすがに神霊がいるとかは敵に察知されると面倒か? それとソフィア達のことも――」
「私達のことは、王族から説明してもらえれば問題ないでしょう」
「それもそうか……念のため、ガルク達のことは露見しないよう立ち回ろう。いざという時に戦力を隠しておく意味合いもある」
『ルオン殿達の実力なら、もう必要なさそうだが、な』
ガルクは言うが、手はいくつも残しておいた方がいい……というわけで、俺達は速やかに移動準備を始める。王都周辺には使い魔を設置し、王族ゆかりの場所について、ちゃんと見張っておく。
「さて、敵はどう出るか……」
こちらは着々と準備を進めていく……星神との決戦が迫っているためか、あるいはそれを止められるかもしれない戦いだからなのか……体に少しずつ、烈気が溜まっていくようだった。
数日後――急ピッチで動いた結果、そのくらいの時間で俺達の移動は完了した。エメナ王女に提供された屋敷は王都の一角であり、広さも申し分ない。異空間などを利用する手はずも整えたので修行についても問題ない。
『魔力を遮断する結界も作った。外側からは何も違和感がない屋敷になっている』
神霊達の協力もあって、あっという間に引っ越しは終わる。後は敵の動向を探るだけなのだが、
「ルオン様、修行などはこれまで通りに……」
「そうだな。基本的に動く人間についてはある程度決めて、他の人員はこの屋敷で好きなようにすればいいと思う」
こういう指示なら、仲間達は修行に明け暮れるとは思うけど……結果、作成した異空間内で好き勝手にやり始めた。星神との戦いも近いしそれでいいと俺は思った時、屋敷に来訪者が――エメナ王女だった。
「城を抜け出して良かったのか?」
「許可は得ていますので」
近くにユノーもいて、出迎えのアンヴェレートが彼女へ告げる。
「よく頑張ったわね」
「まあね」
ニカッと笑う姿を見てエメナ王女やソフィアは顔がほころぶ。
「作戦は成功……で、あたしはこれからどうすれば?」
「ひとまず城にいてくれ。護衛は近くにいた方がいいから。俺達はここを拠点とする以上、王城に何度も出入りできるわけじゃないし」
「わかった」
「ユノーはそれでいいのか?」
「そういう感じになるだろうなー、って予想はしていたからね」
ユノー自身が納得しているようなので、俺は「ではそれで」と頼み……エメナ王女へ口を開く。
「組織側は問題なしか?」
「はい、ただ、会議の席でも言及がありましたが、行方不明者が増えているようです」
「全員ローデンという人物が連れ去ったか……魔法を使っているから、こういう表現はおかしいかもしれないけど」
「捜索はしていますが、とっかかりもほとんどありませんからかなり難しいですね」
「敵がどういう手を使ってくるかわからないが、こちらはどうしたって後手に回るほかないな」
俺の言葉にエメナ王女を始め、この場にいた人間達は全員沈黙する。
「ただ、組織との話し合いを通じて俺達は敵の目論見なんかをおおよそ推測できた。守勢に回るほかないけど、やりようはある……リーベイト聖王国側は結構大変かもしれないけど」
「その辺りは、お任せを」
――国が全力で対応するみたいだし、ここは俺達が何か言及する必要性はなさそうだな。
「それじゃあ、話し合いをするか?」
「ここまでで色々と相談はしていましたし、問題はないかと。今日は挨拶だけなので、このまま戻りますね」
「まあまあ、暇があるのなら少しゆっくりしていったら?」
と、ユノーがおもむろに提案した。それに対しエメナ王女は少し驚いた様子を見せた後、
「……良いのですか?」
「いいって。ね、ルオン」
「まあ、そちらが良ければ」
エメナ王女は少し逡巡したみたいだが……多少なりとも交流はしたかったのだろう。やや躊躇いがちに頷き、
「では、その……少しの時間なら」
「ああ、いいぞ」
「案内しますね」
ソフィアが率先して声を上げる。それにリーゼが追随し……俺達は屋敷の中へ入ることとなって――劇的な変化が起きたのは、その日の夕方だった。




