目標となるもの
「ユノー、聞こえるか?」
問いに対し、ユノーは膝上に置いていた手を数度トントンと動かした。声が聞こえているという反応である。
「今から、エメナ王女に質問をしてくれ……内容は――」
事の詳細を告げると、ユノーは少し間を置いてから話し始めた。
「エメナ」
彼女には予め、仲間として接するように指示はしてある。そういう存在だからこそ、この場にいる――そんな意味合いを持たせているわけだ。
「敵の狙い……それがわかれば、ローデンという人物がどこにいるのか、あるいは何をしようとしているのか推測できるかも」
「狙い……?」
「ローデンという人物の目論見は、星神という存在を目覚めさせること……そして、リヴィナ王子と接近したことで、その目的を達成できると踏んでいた」
「そうですね……とはいえそれだけでは――」
「なおかつ、敵は組織内であっても準備はしていた……組織の構成員を操るような道具がどれだけ前から仕込まれていたのかわからないけど、今回行動を起こしたということは間違いなく、まだ活動して目標を達成できる目論見がある……その狙いさえわかれば――」
エメナ王女には賢者の未来に関する情報は伝えてある。ユノーがここまで発言したことでその意図はある程度理解できたはずだ。
結果、目論見通りとなる……エメナ王女は何かに気づいたように声を上げた。
「なるほど……王族と接触することで何か得ようとしている。今回の騒動についても、おそらくですが国が動くということを見越してのことになるでしょう」
「私達が交渉していることを利用し、ですか」
ビリーの言葉にエメナ王女は首肯し、
「組織に関する騒動を引き起こせば、国が動く……それを呼び水として、目標を達成するというわけです。元々、王族と接触し何かを成そうとしていたのではあれば、今回の一件の最終目標も王族に関わる何かだと考えられます」
「けれど、疑問もある」
と、ユノーがさらに口を開く。
「リヴィナ王子と接して活動する時と比べ、今回の件は国が動くといっても小規模なはず。それと、例えば王族由来の何かを狙うとしても、領地の端っこになるような施設を狙うために騒動を起こしたとは考えにくい」
「確かに……考えられるとしたら、城内でしょうか」
城内――俺達は何があるのかわからないし、これはエメナ王女が確かめる必要性があるわけだが……と、ここで彼女はビリーへ告げた。
「状況はわかりました。私達も動くことになりますが……あなた方のことは逐一観察させていただきます。よろしいですね?」
「はい、一向に構いません。どのような形であれ受け入れる……それがリーダーであるノヴァの意思ですから」
とりあえず、組織そのものは従順な姿勢を見せた。これでひとまず、組織内の調査については一段落といって間違いなさそうだった。
その後、ビリーは城を出た。加えてそれに随伴する騎士の姿も。組織側に敵対する意思がないのであれば、これ以上俺達が干渉する必要もないが……デヴァルスへ会談の結果を伝えると、
『なら、もう少し様子を見ることにしよう』
「いいのか?」
『万が一、ということもある。俺はまだ新人扱いだから、組織の人間からそこまで警戒されないだろ。もう少しだけ、留まることにしよう』
デヴァルスがいるのであれば、組織については問題ないだろう……では次に、
「で、何か候補はあるのか?」
俺はエメナ王女と連絡をとった。近くにはユノーがいて、改めて話し合いだ。
『はい、敵が王族を混乱させて何か得ようとしていた……それを前提とするなら、候補に挙がるのは霊廟かと』
「霊廟?」
『城内、地下深くに存在する歴代王族のお墓です。といっても棺桶が並んでいるといったものではなく、巨大な一つの墓標が存在する。それは城内の一角に存在し、一年に一度、魂を鎮める祭りを催し、私達はそこで祈りを捧げます』
「その場所に、何が?」
『霊廟そのものに特別な魔力が宿っているわけではありませんので、地下という部分に意味があるのではないでしょうか? 確かあの場所には、霊廟とは異なる不可思議な魔力が存在します』
「それが星神に関連するものだと?」
『可能性はあるかと』
調べるにしても……さすがに、立ち入るのは難しそうだな。
「普段、そこはどうなっている?」
『多数の騎士が常駐しています。霊廟を管理する騎士団も存在しているほどなので』
「なるほど、それなら確かに混乱を生まないと中には入れなさそうだな」
『やはりそこが敵の狙いでしょうか?』
「断定したことは言えないが、候補として十分あるだろうな……城内に存在し、なおかつ警備もある。普通の人間が立ち入ることができないし……俺達が予想した場所としても当てはまる」
「ということは、これから失踪者達を利用して霊廟へ踏み込むと」
「どうやって、というのはわからないけど……もし敵の狙いがそこであれば、そういう形になる」
レノ王子が中心となる賢者の予知における騒動については、一応理屈がつくようになる。エメナ王女とレノ王子が戦うようなことになれば、王城内は荒れに荒れるだろう。それに乗じて霊廟へ……というシナリオならば、賢者の見た未来に対しても大きな矛盾はない。
では具体的に今回は……考えられるとしたら一つだろうか。
「敵は、俺達がまだ狙いをわかっていないと考えているはず……まあ、霊廟を訪れるなんて目標はあまりに唐突すぎるし、さすがに情報がなければエメナ王女達でも予測は無理だろ」
「はい、その通りだと思います」
エメナ王女も同意する。そこで俺は、さらに続けた。
「つまり、ここについて俺達は有利な立場にある……相手が懐に飛び込んできても即座に対応できるような手はずは整えられる。でも、理想的なのは王城で騒動を起こさず、ローデンという人間を見つけ出して対処することだ」
「両輪で策を進めると」
エメナ王女の言及に対し、俺は「そうだ」と返事をした。
「首謀者の捜索と防備を固める……無論防備といっても俺達はあくまで推測しているだけだ。よってエメナ王女は、他に敵が狙いそうな候補をピックアップして欲しい」
「わかりました」
「その間に、俺達は俺達でローデンを見つけ出すために行動しよう――」




