異変と協力
「とにかく、ローデンという人物を見つけることを最優先にすべきですね」
エメナ王女はそのように結論づけた……既に相手が動き出していることを踏まえると、おそらく早急に動くべきだろう。
ユノーを介して連絡はできるので、エメナ王女にそれを伝えるか……? 色々思案していると、ここで王女が休憩を提案した。それにビリーは応じて、一度部屋を離れる。
そこで俺は通信魔法を用いてエメナ王女へ連絡をする。ちなみにやり方は元々ユノーを経由して使っていた通信魔法と同じである。
『そうですか……組織側が動いたと考えると、ビリーという人物が話を切り出す可能性はありますね』
「向こうが逐一組織と連絡をしていたら、おそらくは……その場合はどうする?」
『ひとまずローデンという存在が非常に怪しいということはわかりました。ルオン様達としても、そこは同意と考えてよろしいでしょうか?』
「ああ、それで問題ない」
『ならば、ローデンの捜索で協力関係を結ぶ……事件そのものの主犯者であるなら、私達がその情報を求めることは至極当然ですし、相手側もそれに従うでしょう』
俺は深々と頷く。ひとまずこちらがどうするかはまとまったな。
「一つ聞きたいんだけど、相手のことを信用するのか?」
『現状、完全に信じ切れていないのは事実です。ただ、彼らの行動についてはこちらも出方がわかっている以上、観察し続けることは可能だと思われます。よって、今後は協調しつつ、組織の動き方をしっかりと捉える……それで、問題はないかと』
王女の方針であれば、間違いはなさそうだな……俺達はそれで了承し、休憩も終わり部屋へと戻る。
そこで――ビリーは連絡をとったのだろう。切羽詰まった様子を見せた。
「すみません、緊急の用件ですが……」
「何かありましたか?」
エメナ王女には俺達から伝えたが、彼女はあえて尋ねる。そこでビリーはデヴァルスが語った情報をそのまま告げる。
「……おそらく、ローデンの仕業だと思いますが」
「由々しき事態ですね」
「はい。ここで重要なのは……おそらく私の動きと関連していることでしょう。つまり相手は、私達がこうして交渉していることを知っている」
「……では、どうしますか?」
「方針は変わりません。そしてリーダーであるノヴァはこの状況を理解し、動き出しています。組織内のことは組織内で片付ける……と言いたいのですが、ローデンについては私達でもわからないことが多い。おそらく私達が想定しているものとは別に人脈を保有しているかもしれません。よって、可能であれば協力が欲しい」
「いいでしょう……私達にとっても放置しておけばまずいことになる。それに、人が行方不明であれば……それはリーベイト聖王国の民が被害を受けていることになります。見過ごすことはできません」
これなら交渉はすんなりとまとまりそうだ……エメナ王女は協力関係を結ぶと同時に色々と条件を告げる。ビリーはそれにすんなりと応じ、話は綺麗にまとまった。
よって、ここからはローデンと行方不明になった人物の捜索活動に入るわけだが……、
「早急に、調査すべきかもしれませんね」
「調査ですか?」
ビリーが聞き返すとエメナ王女は、
「ローデンという人物がどこまで顔の広い人物なのかはわかりませんが、組織内だけを影響下に置いているだけでは今回のように動き出すことはなかったでしょう」
「つまり、他にも何かあると?」
「そう考えていいでしょう。行方不明者に何をするかはわかりませんが、一度に多くの人がいなくなればどうしたって足がつきます。けれど、忽然と消えているのだったら、かくまう施設などを用意している……そうしたことを彼が単独で、組織などの後ろ盾もなくできるというのは考えにくい」
「なるほど……あるいはローデン自身が資産を持っている可能性もありますね」
「そこについては、より慎重に調査します……今はひとまず組織について――」
王女とビリーは話を続けていく。それを聞きつつ、俺はソフィアへ尋ねる。
「行方不明者の捜索は手伝う……ってことでいいんだよな?」
「そうですね」
「問題は、どうやってという方法論になるけど……」
「私達としても単独で行動して見つかるとは思えませんので、組織側や国と協力していく必要があるでしょう」
俺は頷く……事態が混迷の様相を見せ始めている中、ビリーはある提案をした。
「リーダーと話をしますか?」
「え? 可能なのですか?」
「はい、このような形になった以上、ノヴァとも会話をしておく方がスムーズに物事は進むでしょう」
「そうですね……ちなみにですが、ノヴァ本人が交渉の席にいないのは――」
「彼がいなくなれば、組織内に混乱が生じる危険性があったことと、何より組織自体に異変がないか確認する必要性から、ですね。一連の事件について、組織の人間の大半が知りません。つまり関係のない人間が多い……その状況下で彼がいなくなれば……そして、何かしら罰せられるという可能性があるなら、彼がここに来ることは難しかった」
城側としては何を言っているんだという返し方もできるだろうけど……下手に出ている相手に対し高圧的になったら、反発を食らう可能性もゼロではない。まあ一番波風立てないやり方がこれだったというわけだろう……エメナ王女としても納得はしているようで、小さく頷いた。
「わかりました……捜索活動についてはこれから始めますし、その方が良いかもしれません」
「では……」
ビリーは懐から何かを取り出す。それは水晶球……にしてはやや小さいが、どうやら通信を行える道具のようだった。
「それは?」
「星神関連の遺跡を調べていた時、見つけ出したものです。対となる二つの球体……これはどれだけ距離があっても会話ができます。もっとも、技術的には非常に難しく、再現はできず見つかったのもこれ一組ですが」
そういう便利なものがあれば、俺達としても楽に通信できそうだけど……そんな風に考えている時、いよいよ通信が繋がった。




