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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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混沌

 ビリーはエメナ王女へ向け、自分達の見解を述べる……ここで協力関係を結ぶことができれば、ローデンという人物を見つけ出せるかもしれないし、何より根本的な解決。つまり騒動そのものに終止符を打てる可能性がある。


 賢者が見た未来では、ここからレノ王子を絡めてもう一騒動起きる……が、既にその状況は覆されたと言っていいだろう。黒幕と思しき人物が浮かび上がっていることから、その調査に乗り出せば……騒動が起きる前に動けるし、何より敵の出方をある程度理解できているため、対策を打つことだって可能だ。


 となれば、星神降臨そのものが遅れる可能性も……ただ、ここは不明瞭であるため断定はできない。そもそもエメナ王女の暗殺騒動から始まる一連の事件と星神降臨とがどう結びついているのかがまだわかっていないためだ。エメナ王女が動いたことによって、降臨に繋がる……このプロセスは間違っていないと思うのだが、そこからどうやってそうなるかという過程については不明な部分も多い。


「……まずは、ローデンという人物の捜索からスタートですね」


 俺が考える間にエメナ王女が口を開いた。


「とはいえ見つけ出すことは非常に難しい……では、彼が騒動を引き起こした目的については?」

「そこについては断片的な情報ですが……古に実在していた存在である、星神。その存在が鍵となっていることは間違いありません」


 断定と共に、ビリーは深刻な表情を示し語り始める――俺達にとっては、既知の情報ではあった。

 彼らの近くには精霊もいる。そうした存在から情報を得ているのは間違いないが……こちらが保有しているものと比べて、やや曖昧な表現もある。まあ俺達は当時生きていた人間の情報とかを参考にしているからな。


「……私達が保有する情報は、精霊ウィスプから得られた情報もあります。よって、確度の高い話ではあるかと」

「わかりました……旅の中で星神という存在については認識していました。けれど、それを復活させる……そもそもローデンという人物はなぜ、そのような真似を?」

「動機についてはわかりません」


 正直なところ動機を知ったからといってどうなのか、という感じだが……確実に星神を降臨する存在がいるという情報だけで、俺達としては動くに十分すぎる理由だし、あまり意味のない情報か。


「ですが、まだ活動しているのは間違いありません。現に組織内で動きがある……ただローデンという人間はいるのかいないのかわからないレベルなので、構成員に深く干渉があればまずリーダーであるノヴァや私に相談は来ると思うのですが――」


 その時だった。突如俺の方に連絡が入る。エメナ王女やユノーからではない。デヴァルスからだった。


「どうした?」

『緊急事態だ』


 切羽詰まった様子に俺や近くにいたソフィアは彼の話を聞き入る。


『先に言っておくが、組織側と城が折衝しているという情報は組織の構成員は知らない。よって一部の人間が暴走した結果……ということらしいが――』

「ローデンという人物の仕業だとエメナ王女と話し合う組織の幹部は言っている」

『ローデン……? 名前は聞いたことがないな』


 組織内部に入り込んでいるデヴァルスでもわからないのであれば、本当に所属しているのか疑うレベルだな。


『だが、そいつの仕業かもしれないな』

「どういうことだ?」

『順を追って説明しよう。交渉が始まった今日ではなく、前日……遺跡調査へ向かおうという算段になったんだが、予定していた宿場町ではなく、大きな町に立ち寄って宿をとった。そこまでは特段おかしなところはないと思っていたんだが……』

「何があった?」

『今日、用事があり出かけた人間が多くいた。現在近くには構成員が全部で十名ほどいるんだが……その内の八人が未だに戻ってきていない。用があるとして向かった施設を訪れたが、そもそも来ていないと』

「は……?」

『不審に思い調べてみたんだが……行方不明になった人が使用していた部屋を調べると、妙な道具があった』

「妙な……道具?」

『行方不明になっている人物が漏れなく所持していたらしい……実際、残る二人はまだ持っていないため、被害を受けずに済んだらしい』

「洗脳魔法か何かを封じ込めていた、とか?」

『かもしれん。で、残る二人に尋ねてみると、まだ組織に所属して浅い……自分と似たような時期に組織に入ったメンバーだった』


 なるほど、つまり組織にしばらく所属していると、誰かから魔法の道具をもらうというわけだ。デヴァルスがもらえなかったのは、まだ組織に入って浅いから。


『つまり、ある程度の期間所属していた構成員は、魔法の道具をもらう……これをやったのがルオンさんの言うローデンという人物かもしれん』

「かもしれないな……どこへ行ったのか、足取りはつかめていないんだな?」

『ああ。構成員の動向が常にわかるように処置ができれば良かったんだが、星神の能力を保有する存在がいるかもしれないため、手出しができなかった』

「そこについては正しい選択だと思う……敵もいよいよ動き出したってことか」

『しかも会談の日にわざわざやった以上、敵側は組織の幹部が何をしているのか、おおよそ理解できているということだろう』


 当てつけという見方もできなくはないが、実際は幹部クラスの一人が城へ向かったため、手薄になったのを見計らってということだろう。


『ひとまずこちらは無事だが……とりあえず捜索願は出した。見つかるかどうかはわからないが……』

「わかった……そっちはもう、戻ってきた方がいいかもしれないな」

『かも、だな……ただ、組織の動向を逐一チェックする必要性もあるだろう?』

「うーん、微妙なところではあるけど……」

『まあいい。ともかく数日くらいは様子を見ることにする。何かあればすぐに連絡する』


 通信が切れる。どうやら事態が大きく進展している……いや、進展という言い方は微妙だな。状況が混沌とし始めた。

 その中で俺はどう動けばいいか……思案する間に、エメナ王女とビリーの話へ耳を傾けた。


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