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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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組織の見解

「まず、そうですね……あなた方が関わった貴族。そうした人達についての情報提供を求めます」


 エメナ王女が要求する……リーベイト聖王国にとって何より一番知るべき事柄だ。するとビリーは、


「一連の事件に付随して、というわけですね。そこについては資料などを提供すべきでしょうか?」

「それも良いですが……口頭で説明可能であれば教えてください」


 ――王女の発言には、意図がある。というのも、ここで即座に情報が得られるのであれば、少なくとも彼女と向かい合っているビリーという人間は、貴族関連の情報を持っている……幹部クラスの人間であることはわかる。

 そういう考えをどうやらビリーも認識したらしい。彼は小さく頷くと、話を始めた。


 俺達にとって関与した貴族の情報は興味がないので聞き流していたのだが……そこで、エメナ王女が何事か護衛の一人に指示を出した。すぐさまその人物は部屋を出て行き、わずかながら沈黙が生じる。


「……今から、確認というわけですか?」

「はい。説明が本当であれば、屋敷へ急行するだけで証拠が出てくるはずですし」

「用意は周到というわけですね」

「あなた方が本当に組織存続を望んでいるのか……それを確かめる術を用意していただけですよ」


 交渉であるため、双方とも互いの話を聞くようにはしているが……険悪ではないだけマシというレベルではあるな。

 まあエメナ王女はある程度演技をしているような感じだろうけど……そこからビリーはさらに貴族に関する情報を話し続ける。合計で四つの情報を落とすと、エメナ王女は護衛の騎士に呼びかけ、慌ただしくなる。


「少々お時間をいただけますか?」

「はい。どこまでも待ちましょう」


 ビリーは笑みを見せながら応じる――とはいえ、すぐに結果が出た。しっかりと準備はしていたのだろう。一時間も経たない内に、貴族が関与していた証拠を押さえたとのこと。

 四つの情報全てが正しいようで、少なくとも組織側が本当のことを言っているのは間違いないようだった。


「……確認ですが」

「どうぞ」

「あなた自身は私達に対する主張内容からして、騒動に関連していたわけではないのですね?」

「はい。別の組織幹部がやったことです」

「ではなぜあなたがこのような情報を所持しているのですか?」

「盗み見た……というより、奪ったと言った方が正確ですね」

「それは、あなた自身組織の存続が危ういと感じたからですか?」

「その通りです。正直なところ、謀略を巡らせていた人物が何を考えているのか私にはまったく理解できませんでした」


 ここでビリーの表情は険しいものへと変わった。


「そもそも、私達がリヴィナ王子に近づいたのは古代の研究で協力してもらえると考えた……つまり、支援してもらえるという思惑からで、それ以上でも以下でもありませんでした。王子と組織とを引き合わせた人物こそ、事件首謀者ですが……王子は国を繁栄させる技術ということで興味を持っていたため、そこから出資者になり得ると考えたわけです」

「実質国のバックアップを得られるということですから、必死になるのはわかりますよ」

「はい。私達もそのように認識し、王子との結びつきを強くするために、取り巻きの貴族達とも関係を結びました……ただどうやら事件首謀者である彼は、それだけではなかったと」

「その人物の名は?」

「……ローデン=ヴェルッド。現在、組織の中で一番の古株です」


 エメナ王女は一時沈黙した。彼こそ、星神を降臨させようとしている張本人とみていいのだろうか?


「……その人物の詳細は?」

「素性などはわかりません。おそらくもっとも警戒心が強く、組織内においても情報が少ない人物です」


 俺はデヴァルスから受け取った資料や報告書などを調べる。組織の名簿なんてのもあったが……名前すら載っていないな。


「ソフィア、組織の情報を整理していて名前を聞いたことは?」


 近くにいる彼女へ問い掛けるが、


「いいえ、記憶にありませんね」


 首を左右に振った……組織内でも、厳重に情報が秘匿されているのか。


「彼に関する情報は、ほとんどないといってもよいかと思います。身内に対しても情報を隠している……普段どのような活動をしているのかすらわからない」

「そのような人が……幹部を?」

「実際のところ、組織の運営についても表に出てくることが稀なのです。よって、組織の構成員もいないものとして扱っています。ですが、今回騒動を引き起こした」


 ……ずいぶんとまあ、用心深いな。ただそういう立ち位置で組織に所属しているということは、怪しく思えてくる。


「私は彼が元々貴族であり、王族と結びつきのある人物なのではないかと考えています……どうにか資料を探して名前を見つけたわけですが、この名に心当たりはありませんか?」

「記憶にはありませんね。偽名でしょうか」


 エメナ王女は口元に手を当て考え込む。


「容姿などは……いえ、幻術などを使えば見た目もごまかすことができる」

「そうですね。よってローデンという名前についても虚偽である可能性があります……その人物を特定するのは非常に困難でしょうね。ここまで来ると実在しているのかすら疑うような話ではあるのですが……」

「その人物が何かしら動いている根拠はありますか?」

「ローデンという名を使ってリヴィナ王子と接触していたのは間違いありません。この辺りのことは、私が口にした貴族を調べれば出てくるとは思います」


 ふむ……組織としてはむしろローデンという人物が異端であり、リヴィナ王子に対する活動は寝耳に水といった案配だろうか。

 彼の話が本当であれば、組織の構成員はおそらく俺達に味方してくれるだろう。やるかどうかは別問題として、組織自体は協力的な雰囲気だ。


「……組織のリーダーはどう考えていますか?」


 エメナが問う。そこでビリーは、


「リーダー……ノヴァは交渉するようにと私をここへ派遣しました。彼も同じ考えです。まずは何より、組織の存続を優先する……古代の技術については、確かに危険もあります。ローデンが活動したことにより、それが証明されたでしょう。けれど、こうした技術そのものには罪はないですし、そうしたものを見つけることが私達の活動目的です。少なくとも、今後組織については監視を受け入れ、国と繋がりを持つことができれば、良い方向へ進んでいけるものと考えています」


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