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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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交渉開始

 エメナ王女は護衛に加えてユノーと共に、組織の人間が待つ部屋へと入った。会議室のような場所で、そこにはローブ姿の男性がいた。


「エメナ王女、ご機嫌麗しく」

「……世辞はいりません。話を始めても?」

「ええ……その方は?」


 護衛ではなくユノーへ目を向ける。まず、最初の関門だな。


「彼女は……ユノー=エリテンといい、私が旅をする間に知り合い、信頼に置く仲間です」


 そう答えた……旅、と聞いて男性は「なるほど」と小さく呟いた。どういう経緯で知り合ったのかは、すぐに理解したようだ。

 俺は男性を確認する。どこにでもいる研究者……という感じの学者風の人物。黒髪かつ黒目で、なんというか参謀タイプのような感じに見える。眼鏡とかは掛けていないけど、もしつけているなら怪しく光らせたりしそうな感じだ。


 年齢は二十歳を多少過ぎたくらいだろうか? 幹部だとしたらなんというか、彼が所属する組織は歴史が古いので、ずいぶん若い印象を受ける……いや、これはあくまで組織幹部がここに来たという想定で考えているので、ひょっとしたら幹部に縁のある人物が来ただけかもしれないけど。


「では、私も自己紹介を」


 ユノーの説明を受けると、彼は立ち上がって一礼し名を告げた。


「私はビリー=ロンテッド。組織『星宿る戦士』において、運営に携わる人間の一人です」

「……幹部、ってことでいいの?」


 ユノーが何気なく尋ねると、彼はすぐさま頷いた。


「はい、そのようなご認識でよろしいかと」


 正直、本当かどうかは微妙なところだけど……ともあれ、幹部と名乗る人物が来た以上は、エメナ王女達としてはしっかり向き合わなければならない。


「さて、エメナ王女とは一度お目に掛かって、その折話をさせていただきましたが、改めて説明しましょう。私達の目的は極めて単純です。組織の存続……どこまで調査が進んでいるかわかりませんが、少なくとも私達の組織にいる構成員が、リヴィナ王子と結託して動いていた……その事実はつかんでいるでしょう。けれど組織内にいる人間の多くは、関係がない。よって、組織存続のために話し合いをしたい」

「……まず、私達の見解から言わせていただきます」


 エメナ王女が口を開く。


「あなた方の申し出については、こちらも一定の理解を示しました。組織全体ではなく、組織の一部の人員が引き起こしたことであるなら、あなた方が組織を守るために動くというのは、筋が通った話かと思います」

「では――」

「しかし」


 ビリーの言葉を遮るように、エメナ王女は告げる。


「あなた方の話が――本当なのか、こちらは確認する術がありません」

「なるほど、確かにそうですね」

「正直なところ、あなた方が信頼に足る……少なくとも、交渉の席においてきちんと話をしてくれるのか。それすらわからないため、こちらとしては対応するのが難しい」

「……確かに、リヴィナ王子の一件を考えるのであれば、私達が信用における人物でないことは理解できます」

「では、どのように話し合いをしますか?」

「そうですね……私があなた方の欲している情報を提供するというのはどうでしょう? こうして話し合いのテーブルについた以上、そちらにも思惑はあるでしょう。であれば、あなた達が望むような何かを提供できるなら、少なくとも交渉するに足る存在であると認識するのではないでしょうか?」


 ビジネス的な取引みたいな形だ……とはいえ、落とし所としてはそれが良いか。


「情報、というのは?」


 エメナ王女が問う。それにビリーは、


「リヴィナ王子の一件にまつわる者の情報……そして、もう一つ。リヴィナ王子がどのような研究を行っていたか」


 つまり星神について、か。


「……前者はわかります。しかし後者の研究云々については、それで私達が納得すると?」

「王女はおそらく旅の中で、リヴィナ王子が研究していることについては知ったはずです」


 ――まるで、エメナ王女がどういう旅をしてきたかわかっているような発言。転生者がいるとしたら、その関連で情報を持っていると考えられるけど……、


「そして、研究内容が危険であることがわかった。現在、リーベイト聖王国で使われている技術……近年発展してきた技術はまさしく王子の研究によるものが多いわけですが、それは深入りすれば危険なものとなる。だからこそ、止めたという意味合いが大きいのでしょう?」


 微妙な語り口ではあるが……少なくともエメナ王女がなぜリヴィナ王子を止めたのか。暗殺されるのを防ぐためという意味合いはもちろんのこと、それ以外の要素もあると認識しているようだ。


「そうであれば、私達の情報提供は……何よりリヴィナ王子の研究と密接に関わっているため、必要なものでは?」

「……なるほど、確かにそうですね」


 エメナ王女は納得する。では何を聞くのか。


「二つの情報、両方求めても構いませんか?」

「はい。しかしそうであれば――」

「組織の存続については、可能な限り考慮はします……ただ、一つ疑問が」

「疑問ですか?」

「誰かが独断行動をしたというのであれば、それを何かの形に証明すれば、わざわざ交渉という必要性はないのでは?」

「万が一にも、組織を失いたくないという私達の思いです。今回の話し合い、文字通り異例中の異例でしょう。ですがこうでもしなければならなかった……私達は間接的にではありますが、王女に危害を加えようとした。つまり反逆です。本来ならば関係者全てが極刑で、組織解体が当然です。ですが王女達に話を持ちかけることで、存続の可能性を探るわけです」


 本来はリヴィナ王子と繋がるためのコネだったはずだが、それを利用して、今度は王女に……という構図なんだろうな。もしこの話が本当であれば、組織は一枚岩ではないことは確実。デヴァルスから受けた報告から考えても、それは間違いないだろう。

 では、エメナ王女はどう応じるのか……何より必要なのは、向こうの情報。まずは相手の出方を窺いつつ、どのような情報を聞けるのか。そこから確かめるべきだ。


 少し間を置いて、エメナ王女は口を開いた。


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