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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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王女と天使

 そして――俺達はエメナ王女とユノーを引き合わせることに成功する。事情を説明したら、彼女はあっさりと受け入れ、天使に対するカバーストーリーについてもすぐに飲み込んだ。


 で、レスベイルの力をわずかに付与して、その能力を行使することにも成功した。これによって俺とユノーはレスベイルの能力を介し連絡を取り合うことができるようになったし、なおかつ権能を介して映像をもらうことができるようになった。俺とアンヴェレートは色々試した結果、彼女の視点からものを見ることが可能になった。


「基本的に観察はアンヴェレートに任せるぞ」

「あなたはいいの?」

「あんまりプライベートなところは覗きたくないしなあ……重要な話し合いの時だけ、俺は見ることにするさ」


 というわけで、準備は完了……ユノーは緊張しつつも馬車に乗り、王城へ向かうこととなった。


「私達が常に見ているから、安心しなさい」

「わかった」


 ユノーは頷き、屋敷を去る……その間にも、デヴァルスから報告が入った。


『こちらに動きはなしだ』

「組織内で混乱はゼロと」

『少なくとも組織末端に影響はないな』

「なら、城側の構成員がどういう出方をするのか……それによって組織内にも変化があるかもしれない。注意してくれ」

『了解』


 次第に決戦が迫る……この展開の果てに星神との戦いがあるかもしれないし、あるいは遠のくかもしれない。どちらにせよ、賢者の未来から大きく外れた展開であることは間違いなく、だからこそ、細心の注意を払わなければならない。

 そこで屋敷内で、今後のことも話し合う。ひとまずユノーの観察を行い、後は緊急事態に陥った際、どうするか……といっても、問題はその緊急というのがどういうことがあり得るのか。


 こればっかりは出たとこ勝負だろうけどな……そんな風に色々考えつつ、俺達は星神との決戦に備え鍛練を積むことにする。戦術そのものは完成したが、まだまだ練度が足りない。よって、技術を向上させて研鑽を積んでいく……作業そのものはひどく地味であり、終わりがない。

 とはいえ完成したものを鍛えていくという状況であるため、気は非常に楽だった……そうこうしている内に、ユノーが王城へ入る。そこで連絡をとると、


『前にルオンがいた部屋に通されたけど……』

「立ち位置を考慮して、かな。とりあえず他の人に怪しまれるようなことはなかったみたいだし、そこは良かった」


 ユノーは小さく頷く……カバーストーリーとしては、以前リヴィナ王子との抗争の際に協力した人物ということにした。

 ストーリー構築には細心の注意を払い、王女の旅路を考慮し違和感のないように仕上げている。ここは王女ともすりあわせを行っており、少なくとも会話の上で矛盾がないようにはできた。


 転生者が知識を有している可能性があるとはいえ、エメナ王女のことを全て把握しているというわけではないはず。実際、俺の場合だってゲームと現実には差があったし、物語の大筋は同じでも細部まで全てがわかるわけではなかった。どういう風に知識を得たにしろ、さすがに事細かにというわけにはいかないだろうし、問題はないはず。


 魔力的な面で怪しいと感じられる可能性はゼロではないが、様々な技術を用いて隠蔽を行っている……星神のことを考慮に入れた上での処置であるため、こちらについても問題はないはずだ。


「アンヴェレート、もし敵方に怪しまれたら……」


 一応、俺は彼女へ尋ねると、


「その場合は、シミュレーションした通りの動きに」

「わかった……ま、使わないことを祈るとしようか」


 俺が返答した時のことだった。ユノーから該当の人物がやってきたという報告を聞く。


『話し合いの席は、明日設けるということらしいよ』

「城側も準備を済ませているか……組織の人間は、当然ながら滞在するよな?」

『今はひとまず、宿屋に泊まってる』

「それは……監視されているとかを防ぐために?」

「ボロを出さないように、かしらね」


 と、アンヴェレートが推測を行った。


「城側から観察されている可能性も危惧しているでしょうけれど、それ以上に報告などを行うため、盗み聞きされるのを防ぐとか、そんなところじゃないかしら?」

「ああ、ありそうだな……少なくとも、城の中で動き回るということにはならないみたいで安心した」

『あたしは何かした方がいい?』


 ユノーが質問してくる。そこで俺は、


「いや、ひとまず今日は休んでくれ。明日以降が本番だ」

『緊張しているし、眠れるかなあ』

「大丈夫だって」

「心配いらないわ、ユノー」


 そうアンヴェレートは告げ、ユノーもなんだか体が軽くなった気がした、と軽口を言えるようになって……ひとまず、会話は終わりだった。


「ユノーの観察は私が責任をもってやっておくわ」

「構わないけど……眠らないのか?」

「ええ、そのつもりだけど。夜半の内に敵が何かしてこないかを観察する人間は必要でしょう?」


 最大限警戒するなら、そのくらいはやるのが普通かもしれないが……、


「……体の方は平気なのか?」

「別に徹夜をしても問題ないくらいにはなっているわよ」

「そうか……なら、アンヴェレートに任せた」

「ええ、わかったわ」


 とりあえず、ここまでは順調そうだった。明日の展開次第で事態は大きく動くかもしれないため、こちらも臨機応変の対応できるようにはしておく。


「いよいよ、接触か……」


 実際はデヴァルスが組織の構成員と顔を合わせてはいるのだが……まあ彼と関わっているのは末端の人間。そこから上手いように組織のメンバーを調べ上げているのだが、今回顔を合わせる使者は果たしてデータとして存在しているのか。


 様々な疑問が浮かぶ中で、俺達もまた休むことにして……翌朝、ユノーが支度をして準備万端の状態になった時、王女に呼ばれた。


「行きましょう」

「うん」


 ユノーが小さく首肯する。その顔には緊張もあったが、何より使命感……様々な戦いを見てきたからこそ、今回の任務を必ず成功させてみせる……そんな気概を、確実に含んでいた。


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