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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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魔族と光

 仲間達へ使った『アースシールド』はあくまでダメージを防ぐだけで、岩が直撃する衝撃を防ぐことはできない。俺も岩を受け、ダメージはなかったが後退を余儀なくされた。


 魔法による衝撃によって入口付近まで退く結果となる。ゲーム上では攻撃を受ける度にノックバックするくらいで、フィールドの端まで寄せられることはなかったのだが……もしかするとベルーナが本気を出して使用した魔法だからこそ、この効果だったのかもしれない。


 魔法が終わる。俺の周囲には同様に後退させられたソフィア達がいる。怪我は――


「……大丈夫、みたいだな」


 ラディが言う。次いで視線を俺へと流した。


「寸前に魔法を使ってくれた?」

「身体強化しているようだから、地属性の魔法が得意なんじゃないかと考えて備えていたんだが……功を奏したみたいだ」


 言いながら他の仲間を確認。怪我らしい怪我はない。俺の魔法に加え各々で形成した魔力障壁により、事なきを得たようだ。

 次いで、ベルーナへ視線を移す。俺達が無傷であったためか、驚愕しているようだった。


「……予定外だな。まさかこれほどとは」


 ベルーナが言う。やがて驚きが表情から消え、代わりに見せたのは――好戦的な眼差し。


「だが、まだ終わりではないぞ」


 その言葉を聞いた瞬間、俺はこの戦いがさほど長くないと悟る――その言葉は、ゲーム上残りHPが少なくなった時に発せられるものであるためだ。

 俺は呼吸を整え、ベルーナを見据える……戦いは終盤に差し掛かったと考えていいだろう。


 ネストルとシルヴィが同時に仕掛ける。最後まで息の合った連携……二人が組んで戦わなければ、ここまで順調に追い詰めることはできなかっただろう。

 シルヴィが先んじて仕掛ける。刹那、ベルーナの気配がさらに濃くなった。さらに剣をかざし迎え撃つ構えを見せる。


 これは――後がなくなったと考え、捨て身の攻撃を仕掛ける気配。このまま激突すればシルヴィかネストルのどちらかは……考え詠唱を開始する間に、シルヴィの剣戟が入った。

 ベルーナはそれをわざと避けなかった。次いで放とうとしたネストルへと、その矛先を向ける。


 俺の考え通り、多少のダメージを犠牲にしてネストルを――考える間にベルーナの剣がネストルの盾に直撃した。

 単なる剣戟ならば受け切った以上問題はない――だがベルーナの剣には続きがあった。そう確信した俺はネストルに対し『プロテクション』を発動する。


 突如、衝撃波が発生する。白い光のようなそれは一瞬ネストルを包みこみ、彼の体を大きく吹き飛ばした。


「ネストル!」


 ラディは叫ぶと同時に詠唱を開始する。シルヴィも引き下がるかと思ったが、彼女は一歩も引かずさらに剣戟を放った。その剣が幾度となくベルーナを斬り……ダメージは与えたようだが、撃破には至らない。

 そこへ、ソフィアが駆ける。ネストルの穴を埋めるような形で彼女は迫り、魔力を収束させ剣を放つ。


 ネストルと比べれば力不足かもしれない一撃だったが……ベルーナは今度こそ回避できずそれもまた受けた。苦悶の表情に染まるのを見て、決着がつくのは時間の問題だと俺は直感する。


「――風よ! かの敵を滅せ!」


 刹那、ソフィアが叫んだ。同時に彼女の目の前に風が生じ、それが一気にベルーナへ収束する。

 これは風属性中級魔法『ドラゴンクロー』……! 風が名の通り竜の爪でも模すように鋭くなり、対象を切り刻む魔法である。威力は十分。これでベルーナはどうなるか。


 直後、ベルーナは吠えた。かろうじて人のような声音だと理解できるものであり、それが自身を鼓舞させるような意味合いを持つものであると理解できた。

 剣が放たれる。咆哮を伴ったものだが先ほどまでの鋭さはない。シルヴィとソフィアは同時に剣をかざし、放たれた剣を受け止める。


 戦いの最初は二人掛かりでも押し退けられた攻撃だったが……今はそうすることができないくらいに、残りの力が少なくなっているようだった。

 ソフィア達が反撃に転ずる。二人が放った剣閃はしっかりとベルーナを斬り、大きく後退させる。


「――これで」


 そしてラディが叫んだ。


「終わりだ!」


 言葉と同時に放ったのは『ブレイズレイ』。だが今まで放っていたものと比べても高い魔力を感じ取ることができ――彼の魔法とソフィアの追撃の剣が、ベルーナへとしかと入った。


「……私、は」


 呻く。それと同時にベルーナの体が――崩れ落ちた。


 やった、と誰もが心の中で思った時、俺はベルーナの体から魔力が漏れ出るのを理解した。最後の力を振り絞り、地下へ魔力を……そしてベルーナは、消滅した。


「勝った……」


 呆然とするような声を放つラディ。俺はそこで視線を転じ、攻撃を受けたネストルに目を向けた。

 彼が所持していた盾は多少損傷していた。だが俺の『プロテクション』の効果もあってか、怪我はない様子だった。


 終わってみれば、負傷者もない戦いだった。危ない場面も幾度かあったが、都度対処することができた。特にベルーナの切り札である魔法攻撃を俺が防いだことが、この戦いの結果を呼び込んだと考えていいだろう。

 小さく息をついた……その時、ベルーナが存在していた場所に突如、淡い球体を成した光が出現した。


「これは……?」


 ラディが呟く。知らないのは当然なので、説明しようかと思い口を開きかけたが、次の瞬間ソフィアの隣にレーフィンが出現する。


「ご心配には及びません。これはおそらく、魔族に捕らわれていた魔とは異なる力」


 その言葉と共に淡い光に対しレーフィンが風を生み出す。

 物理的な干渉は効果があるのかと思ったのだが、その風に乗って光が動き出した。どうやら操作できるらしい。


「操作できるのか?」

「みたいですね」


 ラディの問いにレーフィンは応じつつ、自身の目の前に光を引き寄せた。


「暖かい力……そう多くの力が残っているわけではありませんが、これは魔族と戦う上で重要なものとなるでしょう」

「居城を構えた魔族は、同じような力を保有しているってことなのか?」


 ラディが問う。するとレーフィンは「おそらく」と答え、


「この力を悪用して、色々と動いているということでしょう」

「で、その光は誰でも受け取れるのか?」


 今度はシルヴィが質問する。それにレーフィンは一時沈黙した後、


「誰でも、というわけではおそらくないはずです。判断がつかないのであれば、精霊である私から見た中で、託すべき人物を定めようかと思いますが」

「精霊は人間より魔力に詳しいだろうし、あなたに任せた方がいいかもしれないな」


 そうシルヴィが述べると、ラディやネストルも同意するような表情を示した。


 この場に賢者の血筋が二人いるのでどうなるか不安だったが、最終的にはレーフィンが上手くやってくれた。もしかすると光が出た瞬間対応すべく、心積もりをしていたのかもしれないな。


 ともかく、これなら――レーフィンはソフィアに光を差し出す。


「ソフィア様」

「は、はい」


 少々躊躇いがちにソフィアは応じ――レーフィンは僅かに風を吹かせ、光をソフィアへと向ける。

 レドラスの時のように、彼女の体へと――そう思っていたのだが、ここで想定外のことが起こった。


 光はソフィアの体に吸い込まれ――背中から出てきた。


「……へ?」


 まさかの素通り。俺は思わず間の抜けた声を上げてしまった。


「あれ?」


 レーフィンもまた驚く。光はふわふわと空中を漂っている。


「吸い込まれ、ないな」


 俺は半ば呆然となる。ちょっと待て、レドラスの時はきちんと体の中に入ったのに、なぜこの場では同じことが起きないんだ?


 レーフィンはソフィアと光を交互に見る。なぜこうなったのかという理由を考えているようだが――すると、何か察したのか表情を変えた。


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