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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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滅ぼす者

 治療魔法により怪我は治したが、さすがに魔力はすぐというわけではない。賢者は拠点にあった椅子に座り、呼吸を整える。

 それと共に、賢者はしきりに視線を向ける場所が。先ほど退却していく際に見た、遠くにある森に対する違和感。それが何であるか、確認すべきだろうかと迷っている。


「……一つ、いいか?」


 賢者は女性へ問い掛ける。違和感があるため、そちらの調査をしたいと申し出たら、女性は快諾した。


「けれど、気をつけて。現状では、あなたに追随できる人が――」

「わかっている。こんな状況で無茶はしない」


 女性に返事をした後、賢者は歩き始める。まだ魔力は回復していない。どうにか体を動かし、目標地点へと歩を進める。

 やがて到達した森からは……気配は確かにあったが、それは決して魔物のような凶悪なものではなかった。しかし、動物のような存在というわけではない。


「……何だ?」


 賢者は呟きながら、ゆっくりと森の中へ入る。少なくとも敵意はない。満身創痍だが問題はないだろうという判断により、茂みをかき分けていく。

 そうして賢者は――見たこともないものに出会った。俺もまた同じだ。極彩色の球体……形容すればそんな感じだが、そういったものが空中に浮いていた。


 魔力はそこから感じ取ることができる。賢者は武器を構えることも、興味本位で手を出すようなこともしなかった。ただ純粋に、疑問を感じた。


「魔族が残した何かか? でも、気配は――」

『ほう、この私を討った者が見つけるとはな』


 声がした。その球体が発したもので間違いなく、さらに賢者にとって……俺にとっても聞き覚えのあるものであったため、反射的に杖を構えた。


「その声は……魔王!?」

『まさかあれで終わりだと思ったのか?』


 冷酷な言葉が、もたらされる……賢者と魔王の戦いは、封印という形だったはずだ。俺達の時代まで魔王が存命していた以上、さすがにあれで決着がということにはならなかったようだ。


『人間、貴様はよくやった。いずれ私の手によって滅ぼされる身とはいえ、一度はここまで抵抗したことは称賛に値する』


 話を続ける魔王に対し、賢者は杖を構え打開策を考え始めたようだった……そもそも、賢者達が倒したのは偽物か? あるいは、本体だがこうして意識だけ脱出したのか?


「……なるほど、な」


 ただ賢者は魔王に何が起こっているのかを理解したらしい。杖を構えながら静かに魔力を込める。


「お前は、なぜこんなことをした?」


 そして賢者は問い掛ける。時間稼ぎをするためのものか、あるいはそれは純粋な問いかけだったのか。


『なぜそんなことを聞く?』

「俺のことを評価したのであれば、知る権利くらいあっていいと思わないか?」

『……ずいぶんと、おかしなことを言う。だが、冥府への土産に語っても構わんか。とはいえ、何も人間を滅ぼすつもりなどない。このような姿になってまで、戦い続けるのはひとえに、世界を救うためだ』

「何?」


 賢者は聞き返す。当然だろう。征服される状況にあって、その首謀者の口から世界を救うなどと語るのは、あまりに滑稽のように思える。


『事実だ。この世界にはとある存在が巣くっている……いや、いると言えばいいか。星神と呼ばれるその存在に、かつて貴様達人間の文明は一度滅び去った。古代の兵器……それを使いながら戦う貴様達ならば理解できるだろう?』

「俺達が生まれるよりずっと昔にあった古代の国々……それは星神によって消えたと?」

『そうだ。そして星神は今も存在し続けている。全てを滅ぼした後、眠りについたが……いずれ復活する』

「それを止めるために、と言いたいのか?」

『その通りだ』


 賢者としては、信じがたい話に違いない……突然星神などと言われて信用できるかと言われれば無理だ。まして喋っている相手は自分達を滅ぼそうとしている魔王なのだ。


『世界各地に、星神に関する情報は眠っている。今ならばまだ、調べられるだろうな。それを知り、絶望した……どれだけ繁栄しても、どれだけ力を得ても、結局は星神の前に潰えるだけなのだ、我々は』

「……だから、そいつを倒すためにこの大陸に侵攻したと?」

『そうだ。この場所で魔法を使う……魔王という存在を極限にまで強化する魔法だ。その力に耐えうるだけの体躯と精神を得た。体躯は消え去ったがまた作り直せる。なおかつ精神は残っている。そして、器を滅しただけで貴様達は限界が来た……ならば、終わりだ』

「代わりがあるとでも?」

『そうだな』


 冷酷な事実を突きつける。とはいえ、それをベラベラと喋る魔王は、ずいぶんと脇が甘いように見える。

 いや、その実賢者に見咎められたために、時間稼ぎをしているのか……? ともあれ、まだ戦いは続いている。しかし、賢者達に勝ち目はないように見える。


『人間としてはよくやった……その功績に免じ、貴様とあの女だけは、見逃してやってもいいぞ?』

「……悪いが、それはできない相談だな」

『戦い続ける気か? もはや満身創痍なのはわかりきっている。もはや勝ち目はないぞ?』

「そうかもしれないな」


 あっさりと認める賢者。それに魔王は少しの間沈黙した。驚いたのかもしれない。


「だが、自分の限界は自分で決める……なあ魔王、一つ賭けをしないか?」

『賭け、だと?』

「そっちが単なる世界征服でないことは、こっちも理解できた……そして、その信念もな。このまま順当にいけば、そちらの勝ち……しかし、まだ俺達は負けていない」

『事実ではあるが、この戦況で勝負になると思うのか?』

「どうだろうな……もし俺達が勝ったのなら、お前の言うとおりならこの世界はいつか滅びるというわけだな?」

『間違いない』

「なら……俺達が勝ったのなら、それを継いでやる」


 それを聞いて魔王は再び沈黙した。


「だから安心して滅べ、魔王」

『この状況下で、ずいぶんと大言壮語だな』

「ああ、そうかもしれないな……だが」


 賢者の魔力が高まる。限界を迎えてなお、それでも戦おうとしている。


「負けるわけにはいかない……俺から言えるのはそれだけだ」

『ならば……残念だが、消えてもらおう』


 宣告し、闇がとどろく。魔王が復活する――そう確信した矢先、賢者もまた動いた。


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