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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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終わらない戦い

 ――星神対策が急激に進み始めた時から、夢についてはあまり見なくなっていた。見ても断片的であり、なおかつ魔王との決戦まで進んでいたのに、急に過去の光景になっていた。これにどういう意味があるのか……わかるのは、どうやら賢者についてのことをしっかりと語ろうとする意図があるようだった。

 彼のことについては、とにかく平凡であり、また同時に賢者という存在が特別でないと……そういうことを示しているようだった。


 そうまでして知らせたいのは、星神を討つ存在としても、夢を見ている君はできる……なぜなら、自分でもやっていたのだから、という風な感じだろうか。少なくとも俺はそういう風に受け取った。

 では、肝心の魔王との戦いについては……気にはなっていたが、ユノーの一件が始まるまでは何もなかった。


 しかし、とうとう今日動いた……気づけば、夢の中。魔王との決戦により、賢者達が戦いを挑んだ結果。

 周囲には多くの戦士が倒れていた。賢者と共に戦っていた者達……その中で、二本の足で立っている人間は決して多くなかった。


 誰もが負傷し、疲労もある。しかし、最後まで戦い抜く……そういう気概の戦士達が、魔王を取り囲んでいた。魔物は周囲にはいなくて、賢者の目の前には魔王だけが立っている。

 賢者は杖を構え、呼吸を必死で整える。その背後には――見えていないが、演説をしたあの女性がいるらしいことが感覚的にわかる。


『……これほど、までか』


 そして魔王は呟いた。恐ろしい戦いだっただろう。数多の犠牲を伴う悲惨な戦いであり、死屍累々の状況を見ればどれだけ絶望的な戦いだったのかは理解できる。

 だが、それでもなお賢者は立ち、杖を構えている……過程についても気にはなったが、今はそれよりも戦いの行く末が気になった。


「……まだ、勝ちじゃないな」


 賢者は言う。見れば魔王自身もかなり負傷している様子だった。鎧はかなり砕け、賢者を圧倒するような気配もなさそう……しかし、それでも存在感だけは変わらず、むしろまだまだ戦えるという風にも見える。

 そして、魔王の下へ魔物が行こうとしているのを横目で見えるが……それを人間側が必死で阻んでいた。その戦いもまた犠牲を伴うものであり、ここで魔王を仕留めなければ、人間側が勝つというのは不可能になるだろう。


「魔王、お前はここで仕留める」

『そちらの魔力もあとわずか……次で決まるか』


 魔王は剣を構えた。隣に演説をした女性が来る。それと同時に魔力を解放。切り札か何かを使う気なのか。


『どういう結末にしろ……終わりとしよう』


 魔王が迫る。暴虐的な気配。賢者は恐怖を抱きながらもそれをぐっと抑え込み、杖を構える。


「いけっ……! 自分の全てを――」


 杖の先端に光が生まれる。それはとんでもない速度で膨張を始め、賢者があやうく取り落としそうになるほどだった。

 同時に女性もまた魔力により……光の剣を生み出した。俺が扱う『ラグナレク』のような、巨大な剣。賢者の光と女性の剣。その二つが合わさり――同時に魔王へ放たれた。


 閃光と轟音が周囲を包んだ。賢者は必死に杖を握りしめ、自分の魔法による反動で飛ばされそうになるのを踏ん張って耐えた。

 そして女性も……しかし間近で炸裂した魔法によって、賢者達は数歩分は後退を余儀なくされた。やがて閃光が消えると真正面には粉塵。魔力が乱れ、気配探知で魔王を確認することはできなくなる。


 果たして……賢者は片膝をついた。おそらくもう限界なのだろう。だがそれでも、視線だけは決して変えなかった。俯くこともせず、ただ魔王のいる場所だけを見据える……やがて、目の前に魔王が現れた。

 姿形はあまり変わっていない。鎧がさらに砕けた程度だったのだが、


『……見事』


 刹那、バキバキとその鎧が砕け――魔力が弾けた。反射的に賢者は杖を構えて女性ごと結界を構築する。周囲にいた残る戦士達もどうにか防御した。

 それは言ってみれば魔王が持っていた魔力が器の消失と共に……目の前の魔王が消えていた。唯一立っていた証拠である鎧の破片も、やがてサラサラと黒い塵となって消え失せた。


「……終わった、のか?」


 賢者が呟く。それに隣の女性が小さく頷き、


「倒した……けれど、まだ終わってはいない」


 魔物の雄叫びが聞こえた。見れば、魔王が滅んだためか暴れ出す魔物の光景が。あるいは魔族が復讐のために命令したか……ともあれ、目前に迫る魔物達についても対処する必要があった。


「どうする、今の状況では――」


 その時、この戦場に人間側の援軍がやってきた。おそらく同時攻撃するということができず、遅れて参戦したみたいだが……賢者達が窮地を脱するには、必要な援軍だった。


「一度、退却する!」


 女性が叫ぶ。生き残りは非常に少ない。そうした面々をどうにかまとめ、戦場を離脱する。魔王を倒した以上、ここにいる理由はない。

 だから賢者達は援軍に全てを任せて後退することにした。やがて援軍と魔物達が交戦を開始し……魔王のいなくなった戦場は、混沌の様相を呈していく。


 休憩したらこちらも援護に出るべきか、などと賢者は考えたか握りしめる杖と自らの魔力を確認した。余力はもうない。しかし、弱音を吐いてはいられない――


「……ん?」


 賢者はそこで、何かを見つけた。それは遠くにある森。一瞬だが、何かがチラついたような気がしたのだ。

 ただ、それを調べるだけの気力はない。よって、賢者はあえて無視して……犠牲者の倒れ伏す戦場を、駆け抜ける。


「これから……どうするんだ?」

「考えないといけない」


 賢者の問いに女性は律儀にそう答えた。このまま怪我を治療した後、援軍の加勢に行くのか、あるいは限界だとして休むつもりなのか……様々な思いが巡ったようだが、最終的に賢者は決断した。


「怪我を塞ぎ魔力が回復したら、加勢に向かう」

「……わかった」


 女性も了承。やがて拠点まで後退し、怪我を治療する。

 その間に、魔物と人間の戦いは続いている……魔王を倒したという余韻はない。むしろまだ終わっていない……そんな風に感じさせる戦場だった。


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