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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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ストーリー

「わ、わかった…やる。やってやろうじゃん!」

「なんか、無理矢理自分を鼓舞している感じになっているけど……」

「ま、なんとかなるでしょ」


 アンヴェレートが言う。今まで屋敷の中を自由に飛び回っていただけなのに、突然矢面に立たされて大丈夫なのかと不安になるが……、


「ちなみだがアンヴェレート。ユノーに何で人になるような機能を?」

「町中で並んで歩いていたら姉妹みたいに見えるでしょ?」

「お、おう……?」

「そういうのに憧れて」

「ずいぶんとまあ、俗物的な理由だな……」

「ま、そんな事態には一度もなれなかったけど」


 ならなかったではなく、なれなかったという言葉に若干の闇を感じるけど……まあいいや、話を進めよう。


「えっと、とりあえずアンヴェレートの方針に従ってやりたいところだけど……ユノー、本当に大丈夫か? 気合いだけあっても――」

「まあまあ、こちらで色々と処置はできるから」

「……確認だけど、看破されないんだよな?」

「星神と関連のない技術だし、なおかつ違和感を抱いたとしても相手は気にしないでしょ」

「どうしてだ?」

「魔力を保有している……単なる魔法使いと見られるだけで終わるわよ」


 ……なるほど。不安がないわけではなかったが、ガルクを始め神霊さえもリスクがあると考えるなら、ユノーを選ぶというのは一番バレない可能性があるのは事実。


「それと、何もユノーに全てを押しつけるわけではないの。こちらで露見しないよう色々と処置できる……ま、信頼してもらえれば」

「なら、この作戦はアンヴェレートを中心に据えていいか?」

「ええ」

「というわけだ……エメナ王女へこちらから人を派遣する旨を通達しておく。期日までに、準備を整える……それに尽力してくれ。以上だ」


 その言葉と共に仲間達は動き始める。ユノーはなおも困惑したままではあったが……その瞳の色は、やる気に満ちていた。






 何よりまず、確認しなければならないことはユノーが人間サイズに変化する点について。ソフィアとリーゼが洋服を見繕い、アンヴェレートに渡して準備をしてもらう。その姿を確認する役目は、ソフィア達に加え俺とガルク……といっても、ガルクは別所で作業をしているので子ガルクで右肩に乗っている。


「大丈夫かしら」

「ユノー自身がやるって言うんだ。ここは信じようじゃないか」


 リーゼの言葉に俺は応じ……やがて、人間のような大きさになったユノーが登場した。


「ど、どう?」


 服は魔法使い然としたローブ姿。取り立てて特徴のある格好ではないし、なおかつ感じられる魔力は、人間そのもの。ちなみに翼は見えないが、


「アンヴェレート、ユノーの翼は?」

「体内に格納する形になっているわ。小さい状態ではあの羽を介し周囲の魔力を探知、さらに魔力を取り込むことで生命を維持できるのだけれど、それを魔力の核にして動けるようにしてあるの」

「へえ、そうなのか……うん、見た目的に人間にしか見えないな。気配もだ」

『我の目からも、人間にしか見えんな』


 子ガルクが言う。うんうんと同意するようにソフィアやリーゼも頷いている。


『天使という特性は、完全に消失しているな』

「ま、この子は厳密に言えば天使とは少し違うからね」


 と、アンヴェレートは解説する。


「天使の能力を付与しているだけで、それがこの子の生命維持に不可欠というわけではないのよ。彼女がどういう形で命を維持しているのかは私の独自技法だからね。その魔力を見て怪しまれても、固有の能力を持っているとか、血筋の関係で、とか誤魔化し方はいくらでもある」

「なら、尋ねられた時に備えてストーリーを考えるべきだな。ユノーの生い立ちを含め、どういう経緯でリズファナ大陸にいて、さらにエメナ王女と知り合ったのか」

「理由付けは重要ね」

「何か良い案とかあるか?」

「そうねえ……エメナ王女と口裏を合わせる必要性はあるけれど……」


 アンヴェレートはいくつか候補を出す。ふむ、ユノーの演技については指導の必要性はあるが、なんとかなりそうだな。


「問題は、このことをエメナ王女に即座に伝えないといけないか」

「ま、その辺りはどうとでもなるでしょう」

「期日までに、ってなると向こうとも打ち合わせしておくべきかもしれないけど……」

「そう心配はいらないかと」


 俺の不安に対し、発言したのはソフィアだ。


「こちらの事情を説明すれば、キッチリ話を合わせることはできますよ」

「……何か根拠が?」

「大なり小なり王族というのは、平静を保つように訓練していますし、こちらの事情をくんでくれるくらいの応用力はあります」


 ……コミュニケーション能力が高いってことだろうか。まあ確かに、王族と接していて向こう側が言いよどむとかあんまり見たことがないな。


「重要なのはユノーに関するストーリーですね」

「そこが完璧じゃないといけないか……よし、プロフィールから作ろう」

「なんだか壮大になっているけど」


 ユノーの冷静なツッコミに対し俺は、


「一番大切なのは、それを憶えることだからな?」

「うー、まさかの暗記……」

「ユノーならできるわよ」


 と、アンヴェレートが言う。それでユノーは触発されたのか、


「わ、わかった……頑張るよ」

「それじゃあ、仲間を集めて色々と考えるか。ユノーも意見があれば言ってくれ」

「うん」


 ……正直、本来は小さな天使に重荷を背負わせるのはどうなんだという考えもあるんだけど……状況的に一番良い選択肢だろうから、ここは頑張ってもらうしかない。

 アンヴェレートやソフィアがユノーについて色々指導するのを見ながら、俺はこれからのことを考える。本来の物語にはない展開だが……こちらの状況は悪くない。星神の降臨に対し対応できるだけの準備はできた。


 残るは……胸中で問題をリストアップしていく。星神と戦うまでに、何が障害となるのか……そして、今回の作戦については大丈夫なのか。不安と期待が入り混じる中で、俺は気づいた点をソフィア達へ指摘していく。

 そうして会話を続け、あっという間に夜を迎え……明日も同じように激論を交わすことを想像しながら、俺は眠りについたのだった。


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