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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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準備完了

 その後、賢者の夢による影響はどうやら俺が近しい場所にいると発揮するらしいことが、おぼろげにわかり始めた。

 というのも、カティなんかが滞在する屋敷に到着し、早速星神対策のために修行を開始したのだが……なんと、三日でこなしてしまったのだ。本人も驚くくらいの結果であり、毎日鍛錬していたのはなんだったんだ、とアルトが苦笑するくらいの結果だった。


 これは星神のことを研究していて、よく把握していたから……という理由では決してない。どうやら俺がいることで、そういう風になったらしい。

 まあ経緯がどうあれ、強くなれたことは大変喜ばしいので、今後どうするかを考えることにする。ひとまずガルク達が考案した模擬戦が行えるような状態にはなり、実際それをやってみたのだが……、


『うむ、上々だな』


 と、ガルクは告げた。仮想の域を出ることはないが、星神に対抗できるような戦いぶりを俺達は示すことができたらしい。


『これに加え、天界の長などを含め戦力を結集させれば、十二分に対抗できそうだな』

「……ひとまず、完成でいいのか?」

『あくまで形だけだ。ここからさらに練度を上げるわけだが……ルオン殿の影響により大きく進展するため、あっという間に区切りはつくだろう』


 喜ばしいことなのだが……賢者の夢をきっかけに、というのがなんとも引っかかるというか、首を傾げるというか……。


『そう険しい顔をする必要はない。賢者という存在が、本格的にルオン殿のことを認めたという話だからな』

「そうだと思いたいんだけど……」

『実際のところ、現時点でもっとも星神に詳しい存在は賢者だ。我々は断片的な情報を探りながらここまで来たわけだが……賢者自身、何かしら対策を打たなければ星神と戦う意思を示してもどうにもならないと考えたのだろう。夢はあくまできっかけに過ぎないが……ルオン殿がやってきたことを、成果として彼が示しただけの話だ』


 そう言うと、ガルクは俺をことを見据え、


『おそらく、賢者の頭の中における段取りとしては……何かしらの条件を経て夢を見始める。そして魔王と戦う状況を見せ、力を付与する……ここまでに力を得るに足るか、という選別が存在していたはずだ。その上で、星神に対抗するために動くことを期待する……いや、あるいはそのように動くように仕向ける』


 あんまり良い言い方ではないけれど、それが答えかもしれないな。


『ルオン殿の場合は、自発的に星神のことを調べ始めたので、順序が逆になってしまったが』

「そうだな……まあ、俺の場合は魔王という脅威を退けるために強くなることからスタートした。賢者にすればこの時点で例外的な存在って認識だろうな」

『とはいえ、時勢のことを考慮に入れるとルオン殿のような存在が生まれるのも可能性は十分あったということだろう。星神が降臨する寸前に魔王が人間に攻撃……さらに、他の大陸における騒動。それらを考慮すると、戦乱に乗じて星神に対抗できる人間を探すというのは極めて自然な流れだ』


 その中で俺が……まあ、理屈はなんとなく理解できた。


「本当なら、もっと早い段階で得たかったけどな……こんなギリギリにならなくても」

『賢者が示した条件が何なのかわからない以上、仕方がないな。それに、我々はあくまで状況証拠に基づいて推測しているだけで、このタイミングまで夢を見させない理由があったのかもしれない』

「確かに、そうだな……で、ここからだけど――」


 俺は横を見る。リーゼと話をしていたソフィアが戻ってきた。


「仲間達の様子は?」

「戦えると確信して自信がついたようですね……継続してここから訓練を行えば、星神対策……現状、できる範囲においては完璧になるでしょう」

「後は、俺達の想定が星神に通用するかどうかを祈るしかないな……さて、今のペースなら、練度を引き上げるのもそう時間は掛からないだろ。それを仕上げる間にエメナ王女から調査の情報が入ってくるはずだ」

「はい」

「……まだ、レノ王子の周りも動いてはいない。何かするなら……王族にこれ以上手を出させないなら、今のうちに動くしかない」

「そうですね」


 ソフィアの返事は強い意思を秘めていた。


「確認だけど、すぐに動き出すって考えているんだよな?」

「そうですね」

「状況が大きく変わった以上、それでも構わないか……万全な態勢であるなら、敵対組織を叩き潰す方向でも構わないし」


 例え星神の降臨が早くなっても……頭の中で付け加えると、俺は肩をすくめた。


「ま、調査の情報が今以上に集まってからだな」

「もし動くとしたら、どのようになるでしょうか?」

「デヴァルスからもらう情報によれば、組織『星宿りの戦士』に所属する者達は全員星神の復活を望んでいるわけじゃない……というより、星神復活なんて事象を知らない人も多い。だから、遺跡に潜りたいとか調査のために所属している人というのは、関係がゼロではないにしろ俺達の攻撃対象からは外れるな」

「構成員を可能な限り調べ、星神に関与している人間だけを倒す、と」

「そうだな。とはいえ、どんな風に戦うかは考慮しないといけない。王族に対し干渉している事実……その証拠を見つけ出せれば、戦わずして対処することだって可能かもしれない」


 むしろ、戦う前提でやるよりはそういう方針で動いた方が良いかもしれない……と思いながら話し合いは終了する。とにかく目前に迫った戦術の完成と、情報待ち……その二つを胸に、作業を進めていくことにする。


 ――この時点において、ずいぶんと余裕ができたな、という認識程度だった。余裕ができたことで選択肢が増え、俺達は相談して物事を決められるようになった。今までの状況を考えれば、これはかなりの変化だ。

 ただ――もしかして賢者は、次に何が起こるのかを予期して、こんな風に仕込みを行ったのかもしれない。いや、それはさすがに言い過ぎかもしれないが……ともあれ、この大きな変化が結果として、危機的状況を回避できた、という形になった。


 それがわかるのはもう少し……ほんの少し先。戦術が完成し、いよいよ組織の面々の詳細が判明し、エメナ王女から新たな情報がもたらされた時だった――


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