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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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夢の影響

 異変に気づいたのは、訓練を開始してすぐのことだった。最初、それがどういう理由でそうなったのかまるでわからず、困惑したのだが……、


「ソフィア、これは……」

「はい、あの……できていますね」


 彼女と魔力を融通するという試みは、昨日までの牛歩が嘘であるかのようにすんなりといった。そればかりか、ソフィアの魔力を明確に感じ取れ、さらにそれを利用できるようになっている。


「ガルク……これ、どう思う?」

『にわかに信じられないが、完成だな……』


 他ならぬガルクについても、驚愕していた。


『昨日の今日で……と思うところだが、これは単に今までの成果が今日に現れただけではないか?』

「普通ならそう考えるところだけどさ……どう考えても、おかしくないか?」

『ふむ……確かに、ここまで急激な変化というのは、我も想定していなかった』


 と、ここでガルクは俺とソフィアを一瞥した後、


『ならば、現時点で我らが考慮している技法までやってみるか』


 ――そういう経緯で始めたのだが、これが驚くほどスムーズにできた。何度も俺とソフィアは互いの顔を見合わせ、ガルクもまた急激な変化に首を傾げる有様だった。


「朝、デヴァルスと技術の完成はまだ先とか言っていたのにこれか……」

『ルオン殿、今朝何か体の変化などはあったか?』

「ないと思うけど……でも、そのくらいじゃないと今日のこれは説明できないよな」

「夢、でしょうか?」


 ソフィアが告げる。それに対し俺は眉をひそめ、


「賢者の夢か? でも、ここまでずっと見ていたからな……」

『ルオン殿、夢の内容は?』

「魔王との決戦だ。いよいよ挑むという時になって、夢から覚めた」

『ふむ……強いて言うならそれかもしれんな』

「それって……別に今まで通り夢を見ていただけだぞ?」

『これは推測だが、もしかして夢を通して賢者殿は何かしら力を与えていたのかもしれん』


 言われ、俺はキョトンとなる。


『力、と言っても賢者殿の魔力ということではない。例えばそれは、何かしらの技術……魔力制御法や、魔法の生み出し方など、賢者殿が夢を通して力をルオン殿へ授けた』

「夢を見ていたから?」

『というより、夢を魔王決戦まで見ることができたため、と考えて良いだろう。ルオン殿はまったく自覚がない……夢を見続けるだけであったため自覚はないが、賢者殿の夢は何かしら条件がなければ夢を見続けることができないのかもしれん』

「条件って……」

『例えばある一定の技量を持っているとか、あるいは星神と関わりがあるとか……魔王決戦が何かしらのきっかけであり、そこからルオン殿に力を与えた……ルオン殿が行った転生について、直接関わっていた賢者殿だ。何かしら仕込むことだって可能だろう』


 俺からすれば、夢を見ていただけで……と困惑する話なのだが、まあ今日の変化についてはそれ以外に説明のしようがなさそうだった。


『ともあれ、思った以上に早く決着がついたと考えてよさそうだな』

「完成、でいいのか?」

『無論、練度を高めていく必要性はあるが、現段階でも相当なレベルだ。後は星神との戦い想定して、具体的な対策を講じていく……ふむ、ルオン殿。領主フォルナの所にいる者達も一度呼び寄せてもらえないか?』

「仲間を全員、この屋敷に、か……いよいよ本格的に、模擬戦をやるのか」

『うむ』

「ただ、俺達が完成したと言っても他の仲間達は……」

『そこについては、模擬戦と並行してやっていけばいいだろう』


 なるほど……まあそれなら、ということで俺は指示を出すことにした。






 さすがに呼び戻すには時間が必要であったため、最速で数日待たなければならなかったのだが……ここでさらなる想定外の出来事が起こった。


「え、できた……?」


 食堂で休憩していた際、リーゼと顔を合わせて会話したのだが……、


「ええ。あれだけ苦労していた星神の仮想敵……それを、今日はあっさりと倒せたわ」


 困惑した感じでリーゼが言った。


「時間稼ぎが目的だったのだけれど、まさか反撃して倒しきるとは……」

「本人が混乱しているみたいだけど……」

「今日は敵が弱かったのでは、と思わず神霊様へ尋ねたくらいよ。結論から言えば、昨日と同じ……神霊様達からすると、急激な変化らしいわ」

「急激……」

「といっても体が急に強くなったわけじゃない。技術とか魔力とか……雑味が減り、洗練されたってことらしいわ」

「それ、逆に言えば今持っている技術を洗練しただけだよな?」

「それだけで、戦えるようになった……ってことね。私としては自分の技術が通用して嬉しい限りだけど、なんだかしっくりこないのよね」


 それはまあ、そうだろう。


「ちなみに他の仲間は?」

「同じような感じよ。昨日、ルオンとソフィアも技術を完成させたのでしょう? 昨日の今日だし、何か関連性を疑ったけれど……」

「いや、偶然と済ますのは無理だな」


 俺は自分の手のひらを見た。別に意識して何かをしているわけではないのだが……どうやら、夢を見て賢者が何か施したことで、周囲の仲間達にも影響を与えているらしい。

 どういう理屈でどういう方法なのか気になるところだが……ガルク達に相談してもたぶん答えは出ないよな。


「まあ、不思議な現象ではあるけれど、これはこれでよしと考えよう」

「そうね……数日後に元に戻っていたというのが一番怖いけど」

「確かに、な。その辺りは他の仲間が戻ってくるまでに確かめればいいさ」


 ともあれ、決戦の準備はもうまもなく整うと考えてよさそうだった。問題は、ここからどう立ち回るのか。

 星神対策が完成した段階で、俺達はどう動いても良いという形になる。降臨を早めるリスクを背負っても構わないと判断すれば、リーベイト聖王国のために動くというのもアリだ。ソフィアやリーゼは賛同するし、基本方針はそういう形になるだろう。


 ただ組織に関する情報は……デヴァルスが動いているし、情報集めもそう遠くない内に終わると予想はしている。相手の組織を完璧に暴いてしまえば、後はどう動いても……ただ、なんだか嫌な予感もする。

 組織に対する懸念とは少し違う。何か……まだ、俺達の知らない何かがあるような気がする――


 それを払拭するために、エメナ王女とさらに連携を……そう結論を出しつつ、俺達は困惑の一日を過ごすこととなった。


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