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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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闇の斬撃

 人間達が思わぬ攻勢に出ていることから、魔王の心理としてはどうなのか……魔王がゆっくりと動き始める。賢者達へではなく、もっとも近しい部隊に進路を向けた。

 ここで賢者はどうやらまずいと思ったらしい。即座に魔法を放ち、目前にいた魔物を消し飛ばす。さらに、続けざまに魔法を繰り出し、まるで自分達こそ魔王を倒す者だと主張するように火力を引き上げた。


 それに対し魔王は……勢いのまま突き進んできた味方部隊と接触する。そして、


「――あ」


 誰かが声を上げた。直後、闇が……大地から噴き上がるように生じる。まるで巨大な斬撃のようで、空間を引き裂き味方部隊へ襲いかかった。

 そしてそれはどうやら、味方に致命的な一撃を与えた……魔王と激突した部隊の勢いが完全に消えた。それに伴い、魔物や魔族が攻勢に出る。たった一撃……魔王が動いただけで、戦局が大きく変化してしまった。しかもそれは、間違いなく人間側にとって相当な痛手だった。


「どうする?」


 誰かが問い掛ける。しかし答えられる人は誰もいなかった。

 魔王は次にどう動くのか……その矛先を手近にいた部隊へ切り替える。そこで賢者達は速度を上げた。魔王が動いた以上、こちらも応じなければならない……そういう気概が伝わってくる。


 けれど、次に狙われた部隊を救うことはできなかった――闇の斬撃が大地を駆け抜ける。それだけで、あっさりと味方が崩壊していく。

 その時、後方からの援軍が魔物と接触し、交戦が始まった。とはいえそれが勢いを維持して魔王軍の中核まで……とはいかない。むしろ最初の部隊と比べて進みが遅い。明らかに魔王の力を見たことによる士気の低下が原因だ。


 もしここで、一度態勢を立て直し……などと言っていたら、もう魔王と戦うことはできなくなるだろう。そう感じたからこそ、賢者達はさらに前へと出た。そして魔王もとうとう、矛先を賢者達へ向けた。

 その時――賢者は後方を向いた。音が聞こえたというわけではないと思うが、何かを察したらしい。後詰めにいた部隊が動き出している。その中には賢者と話をした女性の姿もあった。


 自分が出るしかないと感じたのだろう。賢者はそこでギリッと奥歯をかみしめた。無力感……そんな心情を抱きながら、魔王へ近づいていく。


「さっきの技は、任せろ」


 そして先頭を進む剣士が言った。直後、魔王がはっきりと見えた。全身を漆黒の鎧で覆った存在であり……その姿は俺やソフィアと戦った時とは異なっていたが、圧倒的な気配は、魔力を感じないながら伝わってきた。

 その魔王が剣を掲げる。再び闇の斬撃が来る――直後、剣が振り下ろされ、刃先から巨大な闇が生まれ、猛然と賢者達へ向かって駆け抜けた。


 それに対し、剣士が魔力を解き放った。周囲の空気を震わせるほどの……直後、闇と剣士がぶつかり合う。一時せめぎ合いを見せていたが――やがて剣士の剣が闇を弾いた。それにより闇は霧散して――消える。


『どうやら、貴様達が切り札か』


 剣士の所業を見て、魔王が声を発する。そこでようやく、賢者達と魔王が対峙した。


「魔王、覚悟してもらおうか」


 悠然と語る剣士。闇の剣戟を受けてもなお、まだ平気といった様子だった。


『余裕もあるか……ならば、我が力をしかと堪能していけ』


 魔王の魔力が高まる。ともすれば一撃で決まってしまうのでは……そう思ってしまうほどの雰囲気だ。

 この場にいる誰もが逃げ出したい衝動に駆られてもおかしくない。しかし、賢者達は魔王へ挑む……命を捨てる覚悟で、立ち向かう。


 どのような結果になるのか……杖を構え賢者が渾身の魔法を放とうとした瞬間――俺は夢から覚めた。


「……映画の予告編か」


 などとツッコミを入れつつ……とりあえず、夢も終わりに近づいているようだな。


「けど、魔王との戦いが終わって……そこから先も語られるかな? 星神との戦うように仕向けるのであれば、そうする方がいいよな」


 まあ、慌てなくてもいずれわかることだし……というわけで今日も支度をしてソフィアと一緒に朝食をとることに。

 夢の内容を話すと「結果を教えてください」と言われ、俺は承諾するだけで終わった。さて、今日は訓練を……そう思っていたのだが、デヴァルスから連絡が入った。


「どうしたんだ?」

『……資料を渡してすぐだが、結構重要な情報を手に入れたから、話をしたい』


 朝の時間帯にこうして話すのは珍しい。よほどのことみたいだな。


「何があった?」

『まず、幹部クラスの人間がやってきた。その詳細もいずれまとめるとして……結論から言うと、その人物はどうやら研究を行っているらしい』

「研究?」

『星神の研究だ。それは遺跡に潜って資料を集めるなどという話ではない。文字通り、星神のことを調べている』

「つまり……この大陸で起きている事件の首謀者だと?」

『星神を復活させるために動いている……と考えれば、その可能性も十二分にある』

「デヴァルスとしては、どう考えている?」

『微妙なところではあるが、どうやらリーベイト聖王国の都へ向け情報をやりとりしていることから、裏で手を引いているかもしれない』


 重要な人物だな……ただ、それだけではこちらが動くというのは厳しいな。


「……確実なことが言えないと、こちらとしても動けないぞ?」

『わかっている。それに変に干渉して動きがおかしくなれば……星神の降臨にも関係してしまう、だろ? ただかなり真実に近づいているのは確かだ。そろそろ決断の時かもしれない』


 決断……か。


「ただ、訓練についてはまだ――」

『ルオンさん達の方がまだ……ってことだな。わかっているさ。とはいえ、やろうと思えば動けるということだけは知っておいてくれ』

「わかった……ただ、こうなるとどうする? さらに調査を続けるのか?」

『もう少し深く調べてみる。組織のことを丸裸にできればミッション終了で構わないだろ?』

「そうだけど、無理はしないでくれよ」

『わかっている』


 デヴァルスとの連絡が終わる。やろうと思えば事態を早く進めることができる……選択肢が増えたのはいいけど、さすがにこちらの準備ができていない状態だと、な。

 とにかく、今日も訓練を……そんな風に思い、俺は動き出す――ただ一つ、俺は夢を見たことで起きた変化に気づくことはできなかったのだった。


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