組織幹部
そこから先は、しばらく平坦な日常が続いた。俺とソフィアは訓練を重ね、牛歩ではあったがしっかりと進んでいく。十日も経てば成果が明確に現れ始め、これでよしと俺とソフィアは力強く頷いた。
一方で、賢者の夢についてだが……今まで毎日見ていたそれが、突然数日おきになった。内容自体も、竜と戦った時のように多数の犠牲を伴う戦場の光景……おそらくだが、今までと比べ非常にショッキングな内容であるため、賢者としては精神的に落ち着かせるために日にちを空けるようにしたのかもしれない。
それに、内容自体は戦争の悲惨さを訴えるような……いや、これは星神を放置すればこのような結末になる、ということを暗示しているのだろう。ともかく、そういう風に日々が過ぎていく……時間を消費した分だけ成果が出ているので、俺達は焦ることなどなかった。
そうした中、十日という時間でエメナ王女から組織に関する調査報告が入った。調査にしてはずいぶんと早い――のだが、情報を渡す前から調査が相当進んでいたということなのだろう。
「ルオン様、どういうことが?」
「人物の詳細が書いているな……これからゆっくりと精査していこう」
屋敷にある会議室。そこで資料を広げ、検証を始めることに。メンバーとしては、今日予定のあいていた面子を集めた。その中には以前、転生者がいないかと資料を引っかき回していた時に手伝ってくれたアルトやキャルンの姿もある。
ちなみに今日は資料が来たので俺とソフィアは鍛錬を休むことに。時間に余裕があれば、やるとしよう。
「とはいっても、転生者だとしてそうだとわかるような情報がここにあるとは考えにくいけど……ん、これは――」
資料とは別に、リーベイト聖王国の……より具体的に言えばエメナ王女や国王の考察があった。
「ふむ……怪しい人物がいくらかいるということだけど……お、待て。組織の上層部にいるメンバーの一人について詳細があるって書いてあるな」
「これではないでしょうか」
ソフィアが白い封筒を差し出した。他の資料とは別に用意したものらしい。
俺は中身を確認する。その人物の名は、
「オルゾ=ジェイン……えっと、リーベイト聖王国出身の人物で、現在は組織の幹部……その一人ということらしい」
「ずいぶんな人物の詳細がわかりましたね」
「資料によると、元々研究者だったみたいだな……その関係で早期に調べることができたってことだろう。他の資料とは区別されていた理由は……」
オルゾという人物について見てみるのだが、
「変なプロフィールだな」
「変、ですか?」
「幼少の頃より才覚を発揮し、その卓越した魔法技術により、明らかに他の人とは違っていた……年齢は現在二十三歳。しかしその若さで研究者として、また魔法使いとして重要ポストについている……」
「神童かつ、たゆまぬ努力でここまで来たって話だろ?」
と、アルトが俺へ言う。
「何か変なところ、あるか?」
「研究していた内容は、魔法技術に関するものだ。星神との接点がまったくない。その上、組織に入っていることは公表していない。どうやら組織の人員と関わっているから、こうして資料にまとめたみたいだな」
「関係がない……そこが、変だと?」
「俺達は星神を追ってここまで来たわけだが……正直、星神の技術を差し引くと、遺跡調査をやっている人間は考古学者の類いだ。そこに現在も使える技術があったから、考古学の範疇を超えただけ。組織『星宿る戦士』は、その技術に価値があると知り、人員が集まっていると考えられるけど……このオルゾという人間が星神に関する学問に触れる理由が見当たらない」
「古代の魔法技術に興味を持ったとかじゃないのか?」
「だとしたら、公にして調べるはずだ。星神の技術については、リヴィナ王子の存在からもわかるように、別に禁止されているわけじゃない。むしろ公にすれば予算だってつくかもしれない分野だと言える。研究者である以上、国から支援してもらった方が人員も資材も確保できるのに、わざわざ組織に所属して秘密裏に何かをやる理由はないだろ」
「――そうすると、可能性として二つ考えられますね」
と、ソフィアが口を開く。
「一つは後ろ暗いことだとわかった上で首を突っ込んでいる。もう一つは……何か隠さなければならないことがあって、あえて黙っている」
「どちらの理由にせよ、彼が星神の研究に関わっているというのは違和感がある……まあ、天才故に古代に興味を持っただけ、という単純な理由である可能性もゼロではないけど」
「転生者という可能性は?」
キャルンからの疑問。俺はそれに肩をすくめる。
「この情報から本人が転生者かどうかを断定するのは無理だな。ただ、プロフィールについては少し怪しい部分もある。転生する場合……これは俺の経験だけど、前世の記憶が残っていた。幼少の頃より、自分の意思で活動ができることが大きい」
「このオルゾという人は、転生したことで小さい頃から勉強し、魔法を体得したと?」
「そういう可能性もゼロじゃない……あるいは本当に神童で、その能力を見込んで組織が接触した……そんなケースも十二分にあり得る。この場合、そうした人物を引き入れた存在……それが転生者、あるいは星神を復活させようとする存在なのかもしれない」
「とすると、この人を中心に調べればいいのか?」
アルトの疑問に俺は資料をにらみ、
「現在この人は首都にいるらしいから……国側に調べてもらうっていうのが一番だな。エメナ王女なんかが主導して調査するみたいだし、無茶もしないだろ」
俺はそう言った後、資料から目を離す。
「現在首都はリヴィナ王子と関連している人物の洗い出しなどを続けている。だからまあ、調査するにしてもある程度人員は動かせるし、別の意図で調査員を出しても怪しまれる可能性は低い。敵が国の上層部にまで影響しているとしたら、ボロを出す可能性は低いが……それでも組織は遺跡調査に乗り出そうとしている。上層部の人間と思しきオルゾが何もしないわけじゃないだろう。うん、ひとまずオルゾの調査を継続する。俺達は、引き続き作業を進めよう――」




