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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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神話との違い

 賢者の目前で、炎が舞い視界が赤色に染まった。後方にいた賢者にさえ届きそうな威力。これはさすがに竜の近くにいた戦士や騎士は……と、予想していた時、炎が突如かき消えた。

 それはどうやら誰かの支援魔法。炎の先にいたのは、ボロボロになり体がまともに動かなくなる中で、なおも絶叫を上げ攻め立てようとする騎士や戦士達の姿。そして竜の方も無事ではなく、無理な攻撃を行ったためか体勢を崩し、なおかつその皮膚からは赤い血がドクドクと流れていた。


 そして賢者と話をしていた戦士は――なおも魔力を高めている。その姿は……思わず呻きそうになるような状態だったが、それでもなお剣を手放さず、渾身の一撃を――竜へ振り下ろす!

 ゴアッ――重い音が確かに聞こえた。その斬撃は竜に直撃すると、とうとう巨体が倒れ始める。


 断末魔の声を発しながら竜はゆっくり倒れ込み――動かなくなる。倒した……多数の犠牲を引き換えに、打倒することに成功した。しかし、


「……勝った、と呼ぶのはまだ早いな」


 賢者は小さく呟く。後方からは後続の騎士や戦士がやってくる。そして真正面にいる……戦士や騎士はその多くが事切れていた。

 賢者と話をしていた戦士もまた……賢者は体に力を入れ、ゆっくりとした足取りで歩み始める。夢の中なので感覚的なことしかわからないが……どうやら森の奥にさらに敵がいるらしい。


 直後、魔物が飛び出してきた。周辺に転がっている人間達に視線を送り、そのまま食らおうと口を開けるのだが――賢者が魔法を放ってそれを阻止した。

 同時に騎士達が走り、魔物と交戦を開始する……ここで賢者は足下を見る。竜と戦い、散っていた騎士や戦士……それを見てぐっと右手に力を入れた。次いでゆっくりと竜のいた後方の森へ視線を移す。


 そして杖をかざす――おそらくこの戦いは賢者達が勝利する。そして希望をつなぎ、やがて魔王へ……とはいえ、多数の犠牲が伴った戦いであることは間違いない。

 きっと賢者はこうした戦いを一つ一つ憶えていたのだろう。こんな悲惨な状況を見るたびに心を痛め、さらに強くなろうとしていた……周囲に騎士や兵士が集まってくる。彼の戦いぶりを見て、賛同する人間が多いのだろう。時折声を掛けられ、助力を感謝する兵士達の言葉を耳にする。


 厳しい戦いであるが、決して無駄ではない……次へ続く道であることは間違いない。けれど内心、賢者はこれを間違い……とまではいかないにしろ、止めたいと願っている。悲しみの連鎖とでも言うべきか。それをどこかで止めたいと思いながら、魔物と戦っている。

 森から魔物が一斉に飛び出してくる。屍を踏み越えて騎士や兵士達が魔物を倒していく。無論、無傷ではない。魔物の襲撃により倒れ伏す兵士の姿が見える。それを少しでも減らすべく、賢者は杖を振るう。


 一人倒れるごとに、賢者の心がさらに痛むような……ここで声を張り上げた。負けるな、と自分を鼓舞するような雄叫びだった。

 そして後方から魔法も飛んできて……次第に人間側が押し始め、その勢いのまま戦いを終える。森から出てきた魔物の数は結構いたが、それをどうにか後続の騎士達で押さえ込んだ形だった。


「……これで」


 騎士が言う。声を上げ、勝利したのだと剣を掲げる。

 賢者はそれに従い杖を掲げた。終わった、と誰かが叫び歓声が響き渡る。もはや原形など留めていない平原で、人間達が勝利を祝う。


 とはいえ、美酒に酔いしれるような喝采ではなかった。それはむしろ、無理矢理勝ったのだと自分たちを励ましているような声だった。俺は夢の中の光景でしかこの戦いを知らないため、ひどく断片的なわけだが……きっと、恐ろしく悲惨な戦いなのだろう。

 こうして勝利する戦場など、少ないのだ。それで人間側は必死に抵抗し、勝利するためにか細い糸をたぐり寄せようと動いている。賢者の無力感は確かに理解できる。どれだけ自分が懸命に戦っても、犠牲が増えるばかり。同じ立場であれば、本当にこれで良かったのかと思うところだ。


 俺も……星神との戦いで、そんな風に思うのだろうか? いや、そうさせないために今、俺達は動いている。そのために、仲間達が必死になっている。だから……俺はこれ以上思考するのを止めた。信じようと思った。

 まだ戦いが始まっていない状況で弱気にはなれない……賢者が杖を下ろし歩き始める。そして変わり果てた姿の戦士の近くへ赴き、


「……ありがとう」


 礼を述べた。


「次の戦場へ向かう……託された思いは、全て持って行くから」


 そう告げた後、戦士に背を向けて歩き出した。騎士や兵士達もまた動き始める中で、賢者はただ静かに……歓声を耳にしながら、次の戦いに思いをはせた。






 ――そうして起床し、俺はいつものようにソフィアへと話をする。それを聞いて、


「おそらく……神話に語られるよりも遙かに、大変な戦いだったのでしょうね」

「賢者自身、強いのは確かだけど魔王に夢で見る段階で戦えるかどうかと言われると微妙だしな……これから強くなるのかもしれないけど」

「賢者様が強くなる経緯……それはこれから解き明かされるのでしょうか?」

「わからないけど、そうなのかもしれない」


 そうして話を終えると同時に朝食を終える。


「今日は訓練だな。昨日精査した資料は昼前には国側の使者に渡せると思うから、後は報告待ちだな」

「転生者……懸念が増えるばかりですね」

「まったくだ。ただ、デヴァルスの見解もあながち間違っているとは思えない……俺達が介入して止めることができれば、場合によっては星神の降臨も延ばせるかもしれない」

「それを試しますか?」

「正直、現段階ではどうとも言えないな。現段階では情報が少なすぎる」


 ただ、組織に関する情報がこれ以上出てくるのか……星神についての情報は、組織上層部だけが保有している考えて良さそうだし、そこまで深く接触するのは、できたとしても時間を要するだろう。


「ま、今はひとまずやれることをやって……少しずつ進んでいこう」

「はい」


 ソフィアは頷き、俺達は並び立って訓練場へ向かうことに。進展はしているが、まだ平和な状況……そう呼べる、穏やかな朝だった。


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