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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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延長線上

 俺が考えたこと……それは今回調査している組織の中に俺と同じような転生者がいるのでは――ということだった。

 とはいえ、もしそうだとしてもこちらの動きが悟られる危険性は低いだろう。デヴァルスは何者なのか露見しないよう処置を施しているため、俺達がわざと正体が露見するようなことをしない限り大丈夫。


「星神という存在が関わっている以上……賢者の転生に関する能力が星神に絡んでいることを踏まえれば、転生者がいてもおかしくはない」


 食堂で資料を確認する間に俺は説明する。他にもソフィアやリーゼ……さらに、訓練中だったアルトとかキャルンとか、そういう人物も資料整理に手を貸してくれていた。


「いたからすぐに動くというわけではないけれど、そうした人物が呼び水になって星神が……という可能性は否定できないため、わかるのであれば考慮はしておきたい」

「といっても、現在入手できている資料だけでわかるかしら?」


 リーゼはテーブルの部屋に広げられた資料を見据えながら呟く。

 キャルンなんかも資料とにらめっこしているのだが……ふと俺の顔を見上げ、


「どういうところを調べればいいの?」

「来歴を中心に調べるくらいかな。とはいえ、資料に書かれているレベルのものから推察するのはかなり大変だとは思うけど」


 正直、俺としては期待が薄いと思いつつ作業に取りかかるつもりだったのだが……リーゼやソフィアなんかは真剣に資料を見据えている。


「生い立ちがおかしい……という観点から見るのもないわよね? だってルオンなんかはごくごく普通でしょう?」

「確かにそうだな……例えば俺は子供の頃から強くなるため修行を繰り返していたわけだけど、それは誰にも語っていなかったし、自分のアジト……つまり素材をため込んでいた場所も秘密にしていた。だから、プロフィール上でそれを推測するのは難しいが……」


 俺は適当な資料を手に取る。結構詳しい情報なのは確かだが、これだけで断定できるかと言われると微妙だ。


「疑問なんだが、もし転生者が紛れ込んでいるとしたら……それは組織の人間に言うと思うか?」

「立場によると思います」


 俺の質問に対しソフィアが即答した。


「純粋に遺跡探索をしたいという人なら、例え転生者だとしても自分の素性を公に語る可能性は低いように思います」

「歴史の古い組織だし、星神に与している人間ばかりではなさそうだからな……で、もし組織のことを知識として把握していたのなら――」

「話す可能性は十分あるでしょうね」

「となると、重要人物として上層部とも話ができるかもしれないな」

「仮に転生者がいるとして」


 と、リーゼは腕を組みながら言及する。


「その人間はどういう行動をとるのかしら?」

「ソフィアの言ったように立場によって変わるとしか言いようがないな。元々転生者として組織のことを知った上で入ったのであれば……星神を討つために活動しているケースもありそうだし、だとしたら俺達の味方になるかも」

「ルオンとは別に、賢者の呼びかけに応じて、といった形でかしら」


 リーゼの言及に俺はコクリと頷く。


「その場合は、デヴァルスのように色々と動き回っている可能性がある。となったら、デヴァルスに今回遺跡探索を行うメンバーを観察するように、と言えば怪しい人物が見つかるかもしれない」

「そうね……でも、星神に与する者の場合――」

「なあ、一ついいか?」


 ここでアルトが手を上げた。


「俺は転生云々のことについては聞いたが、完璧に理解しているわけじゃないんだが……それは賢者様が実行したものだろ? だったら基本、星神を打倒するために動くんじゃないのか?」

「……正直、そこについては微妙だと俺は思うよ」


 他ならぬ転生者の言葉だからか、一同俺へ視線を向けた。


「俺については……リーゼにも言われたけど、かなり特異的な存在だと解釈していいと思う。誰かに協力を仰ぐことなく、独力で力を得た……賢者が星神を打倒するために用いた策であったために、俺は無類の力を得るまでに成長できた。問題は、その力をどう使うのか……」


 俺は自分のことを振り返りながら話す。


「俺の場合は、まずルオンという人間がこのままいけば死ぬとわかっていたから……そして、魔王により世界が蹂躙されることを知っていたから、その手助けをしようと思ったわけだ。人はそれを正義感とか呼ぶのかもしれないけれど……なんだろうな、俺としては目先の脅威を倒すために動いた結果、星神にまで目を向けた……魔王との戦いの延長線上に今がある。だからまあ、人間のために戦っているのは間違いないけど、そこに確固たる強い意志があったかどうかは……正直、わからない」


 わからない、と言っても仲間達の視線は揺るぎないものだった。


「でも目先に脅威が存在せず、思うがままに強くなれるとしたら? 自分の名誉や名声のために動く人間だっているだろう。望むままに……転生前にやりたかったことを実行する人間もいるだろう。その中で……例えば、悪人のような心を持っている存在が転生したなら、星神を復活させるために動いている可能性は否定できない」

「そこは、賢者様も観測できなかった、ってことでいいのか?」

「あるいは、心変わりをした……アランの例もあるし、一概に言うことは難しいな」


 俺は改めて資料を見据える。仮に転生者がいる場合――


「それともう一つ、重要な問題がある。もし組織の中に転生者が……俺と同じように情報を持つ転生者がいるとしたら、それは賢者から直接情報をもらった俺達と比べて同等の情報を保有している可能性がある」


 こちらの指摘にソフィア達は沈黙する……俺ですら賢者が残した情報に触れなければ、この大陸の出来事はわからなかった。しかし今回の転生者はもしかしたら――


「これから何が起こるか知っている……現時点でそういう存在がいるという証拠はどこにもないが、もしいたとしても現時点では何も未来は変わっていないと認識している、と思う」

「あくまで物語に沿った動きをしているからね」


 リーゼが言う。俺はそれに頷き、


「資料を洗い直すけど、怪しいと思ったことがあったらすぐに言ってくれ。次のデヴァルスとの連絡で、転生者云々のことを含め情報を伝える。とにかく、失敗はできない以上、あらゆる可能性を想定し、動くようにしたい――」


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