特異的
「ルオンのことについて……気になったから尋ねてもいいかしら?」
リーゼに話を向けられ、俺は少し困惑しながら返答する。
「俺か? 身の上話とかはそんなに面白いことはないからなあ」
魔王の攻撃が始まる前は、ただひたすらに修行をしていただけだし。
「そうかしら? 私は興味があるけれど」
「……本当に、一人で黙々と剣を振っていただけだぞ?」
けれどリーゼは期待を込めた眼差しを向けてくる。そういえば、ソフィアとかにも修業時代何をしていたのかとか、概要はどこかで語ったにしろ詳細とまではいかないな。
今となっては転生したことなども語っているわけで、別に話をしても問題はないんだが……と、ここでリーゼは笑みを浮かべながら、
「あなたが強くなったのは色々と理由がある……けれど、強さを得た直接的な原因は、あなた自身が強くなろうと思ったことでしょう?」
「まあ……そうだな。ただそれは、自分が死なないようにという気持ちがあったから、だな。それに」
「それに?」
「ゲーム……この世界のことを知っている俺からしたら、魔王を倒せる条件を整えることは、現実になったら非常に難しいと思った。だからまあ、賢者の血筋でない俺は、賢者の血筋である人物に協力をしようと思い、頼られるだけの強さを得ようと思ったのも理由ではある」
「そこよ、大きな注目点は」
ピッ、と俺に指を差すリーゼ。
「転生したなんてことを喋るというのは非現実的なのはわかるわ。だから、ルオンとしては誰かを頼ることは難しいと判断した……けれど、協力者を見いだすことはできたかもしれないでしょう?」
振り返ってみると、一理ありそうだが……当時の俺はそう思わなかった。
「そもそも、魔王が出てくるといっても、信用してもらうどころか魔王の手先から目をつけられる可能性を危惧していたからな」
「そうね。でも、あなたほどの強さを得られるのであれば、協力者を探し、その人物が信用に足る……その判断くらいはできたはず」
俺は沈黙する……つまり彼女が言いたいのは、
「強くなれるだけの能力がある以上、方法は多種多様だった、と言いたいわけだな」
「ええ。死なないように強くなる……というのは、確かに筋が通っている。けれど、あなたは死にたくないと思ったわけでしょう? 戦う以上、死は常につきまとうもの。であれば、矛盾した感情だと捉えることもできる」
「そう言われればそうかもしれないけど……何が言いたいんだ?」
「根底にあったのは、ただ純然たる気持ち……強くなりたいという気持ちがあったから、ではないかしら」
「それは否定しないよ。実際、修行をしていて確実に強くなっていくことは、俺にとって快感と呼べるものだったかもしれない」
リーゼは納得するように頷いた。この時点で俺は話が見えないので、
「えっと、結局何が言いたいんだ?」
「あなたの力の源泉が何か」
「それは……賢者じゃないのか?」
「でも、あなた以外に知識をもらった人物はいたはずよ」
アランのことを言いたいのか……いや、賢者が蒔いた種はおそらく俺やアランだけではないだろう。
「でも、その中でルオンだけが星神と戦うために色々と動くようになった」
「それは……なんというか、結果的にそうなったと言うべきだぞ」
「強くなり、星神を打倒できる力を持つに至ったから、かしら?」
「そうだな。まず強さが前提だ。もし俺が、元々のルオン……つまり、物語の中にいたルオンなら、こうはいかなかったはずだ」
俺の言葉にリーゼはあまり納得していない様子だった。
「……感情に着目しているのか?」
なんとなく推測して俺は尋ねてみた。俗に言う想いの力というやつだ。アニメとかマンガにあった。巨大な悪……絶望的な状況でも、力を合わせみんなの思いが一つになれば、立ち向かえる……そんな感じだ。俺の場合は強くなりたいという信念を持ち続け、なおかつ賢者の仕込んだ能力が開花した、とリーゼは言いたいのだろう。
「……この屋敷に入ってから、色々と考えたのよ。改めて、ルオンという存在は例外的なものだと」
「例外?」
「星神と戦うためにこんな風に活動していることが、ではない。あなたの生い立ちから、強くなる経緯に至るまで……他に方法はあったはず。でも、あなたは自ら強くなり、結果として魔王とさえ戦えるほどに力を得た。賢者はおそらくこの世界に多数の転生者を呼んだ……けれど、そうまでして強くなったのは、ルオンただ一人だけでしょう」
「ああ、まあ……確かに」
言われてみると特異的な存在なのは間違いないな……例えばアランだって色々と知っていた。けれど、俺のような無類の強さとまではいかなかった。
「だから、ルオンがどんな風に考えて強くなったのか……その辺りを聞けば、何かヒントになるかもしれないって思ったのよ」
「俺は例外に次ぐ例外だと思うんだけどなあ……でもまあ、疑問ではあるな」
転生した当初、俺だけがこんな風に転生したと思っていたわけだが、実際のところは違っていた。となると、
「俺以外の誰か……そういう人物が現れてもおかしくはないよな」
「ルオンは、今いる組織のメンバー……賢者の血筋については知っていたのでしょう? なら、同じように物語の枠組みにおいて活躍する人物がいてもおかしくなかったはずよ。けれど、少なくともそういう人は組織内にはいない」
「そうだな――」
呟いた時……俺は一つ気づく。
「これは……」
「どうしたの?」
リーゼが問い掛けたが、俺は答えずおもむろに立ち上がった。思わぬ行動に目を見開く彼女を置いて俺はすぐさま食堂を後にする。
「ルオン様?」
後方からソフィアの声が聞こえるのだが、無視。早足で自分の部屋へ戻り、資料を手に取る。
それはデヴァルスからもらった敵組織の資料。既に聖王国へ連絡は済ませており、いずれ資料を取りに来るのだが……、
「ねえ、どうしたの?」
部屋まで来てリーゼが問い掛けてきた。見れば部屋の入り口に彼女とソフィアが立っていた。
「資料を今一度精査する。手を貸してくれ」
「一体、何に気づいたの?」
俺は二人の目を見返し、
「今は時間が惜しい。ひとまず食堂で資料を広げ検討をしたい……国の人が資料を取りに来るのは早くて明日くらい……それまでに、やれることはやっておきたい――」




