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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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最奥の魔族

 迷路を抜けた先は、下り階段。俺は知っている。いよいよベルーナとの決戦が近づきつつある。

 その階段を進む間に俺はフィリと仲間達の自己紹介を含め多少ながら会話をする。使い魔で観察していた俺にとっては目新しい情報は基本的になかったが。


「――今回、居城を構える魔族と戦うということになり、参加した次第です」

「そうか。無事でなによりだよ」


 俺の言葉にフィリは「そちらも」と微笑を浮かべ、会話は終了した。


 そしてフィリは先んじて城に入り込んでいたにもかかわらず主導権は握らず、「そちらの方が力があるでしょう」と俺やラディ達に主導権を渡した。騎士もどうやらそれに従う様子。


 彼らなりに判断基準があって――いや、フィリも騎士も先ほどの攻防でソフィアやシルヴィの技を見て、自分達より強いと判断してのことだろうか……ともかく、結果として俺達が前を進むことになった。これはソフィアが順調に成長した結果と言えるだろうな。


 階段を下りきると、今度は真っ直ぐ伸びた通路が。同時に瘴気が濃くなり、この場にいた全員が警戒を示す。


「終点が近いようですね」


 ソフィアが言う。同意するようにラディが頷き――ここで、俺は合流した面々と仲間を見回す。


 人数が十を超えている。これだけの人数でベルーナと戦うとなれば、有利となるのか不利となるのか……一斉に仕掛けることでベルーナ撃破は容易になるが、フォローできずに犠牲者が出てくる可能性も高くなる。加え、これだけの人数がいるとさすがにベルーナの立ち回りも変わってくるかもしれない……できるだけサポートするつもりだが、この辺りはどうなるかまったく読めないな。


 ネストルやシルヴィを先頭にして、俺達は進む。何もない直線的な道なので警戒しているようだが――直後、後方から突如瘴気が生まれた。

 何事かと俺は思わず振り返る。さらに他の面々も気付いたようで、多くの人間が俺と同様振り返る。


 刹那、階段近くの床面に魔法陣が浮かび上がり――それと共に『ブラッドファイター』が出現。数は三体。俺達へ襲い掛かってくる。


「ちぃっ!」


 舌打ちしながらも騎士が魔物の進路を阻む。しかし、三体だけではない。階段から下りてくる魔物に加え、新たな魔法陣が生じ、襲い掛かってくる。

 迎撃を行うのは騎士達と、後方にいたフィリ達。俺達も加勢するべきか迷ったが、騎士がここで叫んだ。


「おそらく、ここの主の差し金だ! 退路を封鎖し魔物を出現させ、ここで食い止めようという算段なのだろう!」


 騎士や魔法使いは上手く対処している。さらにフィリ達も戦闘に参加し――今度は彼が言った。


「俺達が抑えます! その間に居城の主を!」

「――おそらく、分断するつもりで魔物を放ったな」


 フィリの声に合わせて、ラディが声を発した。


「冒険者である俺達に加え、騎士までいる。さすがに一度に攻撃されたらたまったもんじゃないってことで、分断させるつもりかつ退路を封じたということだな」


 分散させることで各個撃破という考えなのだろうか……進路を阻むように生み出すのではなく退路を封じるように魔物を発生させたのは、こちらを心理的に圧迫するためだろうか。


 際限なく出現する魔物。それに全てを倒しているとなると時間もかかるだろうし、また終わりが来るのかもわからない。なおかつ魔物を生み出し続けているという時点でベルーナのリソースを少なからず奪っている――戦力的にはソフィアやラディ達で十分対処できる。行くしかない。


「ソフィア、ラディ」

「わかっています」

「ああ。進もう」


 相次いで答える二人。シルヴィやネストルも賛同し――俺達は駆ける。

 迎え撃つ気なのか、魔物は正面に現れることはない。金属音が背後から聞こえる中で俺達は直進し、大扉に近づいていく。


 ベルーナとの戦い……ここでの目的はソフィアに賢者の力を与えること。レベルなどの要素についてはおそらくソフィアの方が上。レーフィンも魔力を誘導できるか動くと語っていた。今はその策を信じ、戦うしかない。


 そして辿り着いた大扉……前に立った直後扉が開く。そこには地下であるにもかかわらず太陽の光が窓から降り注ぐような部屋。窓の光はおそらく太陽を模しただけで、本物ではないだろう……奥には祭壇のようなものが存在し、さらに部屋の中央には、女性型の魔族がいる。


「ようこそ、我が居城へ」


 大人びた女性の声が発せられる。スリットが存在する真紅のドレスに、黄金色と言って差し支えない綺麗な髪。妖艶な雰囲気は世の男性を虜にするには十分だが、現在彼女から発せられる気配は紛れもなく瘴気。


 相手を視認した直後、ネストルとシルヴィが前に出て、剣を構える。ソフィアが続き俺とラディが最後に歩んだ時、後方の扉がゆっくりと閉まった。

 瘴気が俺達を包み――それに臆せず、ネストルが問う。


「女とは少し驚きだな……お前が、この砦の主ってことでいいのか?」

「いかにも。我が名はベルーナ……ここで、貴様らを裁いてやろう」

「それはこっちのセリフだよ」


 ネストル達は一歩前に出る。その後ろでソフィアが剣を構え、さらにその後方で俺とラディが構える。

 ベルーナとしては、フィリ達を食い止める間に俺達を撃破したいといったところか。さて、五大魔族二体目……どうなるか。


「行くぞ!」


 号令を掛けたのはシルヴィ。直後ネストルとシルヴィがベルーナへと駆けた。

 対するベルーナは、手に何かを生み出す……それは長剣。


「舐めるな」


 ベルーナが声を放った次の瞬間、ネストルとシルヴィの剣戟が同時に放たれる。それがベルーナの握る剣に直撃し……動かなくなった。


「見た目から、押し込めると思ったか?」


 ベルーナは問う。レドラスを倒してからそれほど時間が経過しているわけではないが、やはり彼よりも強化されているらしい。

 そして魔族は二人の剣を押し返す。二対一であっても平然と弾くその姿は、ネストル達にしてみれば驚くべきものだろう。


「なるほど、力押しじゃあ通用しないってわけか」


 ネストルが言う。シルヴィは彼と共に一度後退し……刹那、


「お二方!」


 ソフィアの声。シルヴィ達は意図を理解したようで、両者は左右に逃れた。

 それと共にソフィアから放たれたのは『ライトニング』。雷が真っ直ぐベルーナへ向かい――


「ここに来るだけの力は有しているのはわかる」


 ベルーナは声を発し剣を振る。本来なら雷撃を単なる剣で防ぐことはできないはずだが――


 剣に雷撃が激突。ベルーナはそれでも平然と振り払うように剣を薙ぎ……雷撃を、消し飛ばした。


「だが我が力、他の魔物と一緒なわけはなかろう?」

「一筋縄でいかないのは、予測済みだよ」


 攻撃的な視線を伴いラディが言う。それと共に繰り出されたのは『フレアボム』だ。

 炎熱が真っ直ぐベルーナへ向かう。だが五大魔族はそれも剣で受け……弾き飛ばす。


 ……確か、ベルーナの能力は魔法防御が高めに設定されていたはずだ。なおかつ彼女は耐性も複数有しており、きちんと通用するのは光と水と氷属性だけだったはず。

 そしてネストル達を易々と押し返した能力……ベルーナは地属性の力を持っていた。その恩恵により、身体能力を向上しているのは間違いない。


「その力、我が居城に踏み込むに足る実力なのは間違いない。だが、進撃もここまでだ」


 瘴気がさらに発せられる。いよいよ本気になったらしく――また先ほどのセリフはゲーム上でも確認できるもの。次は間違いなく全能力ダウンの効果を持つ『カオティックシール』がくる。俺はすぐさま詠唱を開始し、対応策を準備する。


「貴様達にふさわしい結末を与えてやろう」


 宣言に対しシルヴィが動き出す。一本の槍のように鋭い突撃であり、さらに続くネストルの動きにより今度こそダメージを負わせられるか――


「この魔法を前にしては、誰もが無力になる」


 魔法発動。突如漆黒がシルヴィへと迫り、彼女は避ける暇なくそれを受けた。

 ラディとソフィアが叫ぶ。だが漆黒はあっさりと霧散し、無傷のシルヴィが姿を現す。


 けれど、彼女の様子が――後退しようとした彼女の動きは、明らかに鈍っていた。


「くっ!」


 彼女が呻く間にベルーナの剣が迫る。それに対してはネストルが援護に入ったため事なきを得たが、彼女の様子に誰もが警戒を露わにする。


「何をした?」

「呪縛だよ。我が力に逆らえないように」


 ラディの問いかけにベルーナは答える。シルヴィは倦怠感でもあるのか肩を落とし、それでもどうにか剣を構えるが、見るからに辛そうだった。


「このまま全員、同じように縛ってくれる」


 そう宣言し、ベルーナがさらなる魔法を発動しようとした時――俺が、動いた。


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