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賢者の剣  作者: 陽山純樹
動き始める物語
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とある人物の質問

 そういうわけで翌日。フィリはまた別のパーティーと組んでダンジョンへと潜る。

 記憶では確か四つ目のダンジョン攻略後にイベントが発生することになっていたはずなので、まだ余裕がある。


 一応他の主人公達がどう動いているか探ってみるがまだ変化はないし……ということで暇になってしまったのだが――


「あの、ちょっといい?」


 酒場でサンドイッチをつまみつつ暇していると、声を掛けられた。視線を送ると、カティだった。


「……どうした?」

「ちょっと、訊きたいことが」


 俺に? 首を傾げる間に彼女は俺と対面する席に座る。

 表情が割と深刻だったので、俺としては身構えるしかなく、じっと彼女の言葉を待つ。


「……洞窟に入り込んだ時の話だけれど」

「ああ」

「単刀直入に訊くけど、あなたが使用した魔法って『天の聖水』よね?」


 ……げ、そうか。しまった。


 彼女が何を言いたいのかすぐに察した。俺の使用した魔法を見て、なぜこんな辺鄙な場所にいるのか、という疑問が湧いたのだろう。


「私自身、あの魔法を直接見るのは二度目だったのだけれど……治癒系魔法の中でも難易度の高い魔法だったはず。それを使えるあなたが、なぜこんな村に居座っているの?」

「……いちゃいけないのか?」

「そうは言っていない。けれど、興味があって。この村は私の郷里でもあるからわかるんだけど……この辺りに強い魔物とかは少ないし」


 うーん……あくまで興味だとするなら適当な理由で誤魔化すというのも一つの手なんだが……変に噂されてしまうと面倒なことになる。


 仮にここで俺の能力を全て公開した場合、間違いなく魔王との戦いに祭り上げられるだろう。で、俺は幹部クラスである五大魔族を一人で倒せるレベルに到達しているわけだが……魔王を倒すことはできない。つまりどれだけやったとしても、俺が魔王との戦いの先頭に立てば、大陸崩壊ルートへまっしぐらなわけだ。

 フィリを無理矢理引きつれてというやり方もありそうだけど……シナリオが崩壊する可能性は高まるし、やり直しがきかない以上やりたくない。


 だからこの手は使えない……適当に誤魔化すにしてももっともな理由がないと彼女は納得しないだろう。それをきっかけとして噂になってしまったら元も子もない。ここは、シナリオ通りに進めるため口止めしておく必要がある。


「……そうだな」


 俺は小さく零し、視線を逸らす……それなりに理屈のある説明はどうにか思いついた。ただまあ無理矢理感もあるので、納得するかどうか――

 まあともかく、やるしかあるまい。


「えっと……まあ、話してもいいんだが、一つ条件がある」

「条件?」

「このことについては、他言無用でお願いしたい」


 俺の要求にカティはにべもなく頷いた。


「いいけど、そんなに深刻なことなの?」

「いや、なんというか……その、変人に思われるかもしれないというか」


 首を傾げるカティ。これ以上は本題に入らないと説明できないと悟り、俺は口を開いた。


「まず……そうだな、俺は大陸を色々と旅をする内に、預言者と名乗る人物と遭遇した」

「預言者?」

「自称だから本当の所はどうなのかわからないが……俺は面白半分でその人に運勢を占ってもらったんだ。そしたら――」


 俺は一拍置いて、なおかつカティを一瞥してから告げる。


「その人が言うには、俺は近い内に死ぬと言われた」

「それは……また……」

「普通なら馬鹿じゃないかと笑って済ますところなんだが、俺の素性とか、今後どうなるのかとか色々当てられその通りになっているもんだから……俺も、バカらしいと思いながらもその対処法を行っているわけだ」

「それは、何?」

「魔王を倒せる人間を探せってさ」


 そこで、コップを手に取り水を飲む。カティは沈黙し、俺はさらに話を続ける。


「つまりさ、その占い師によると俺は魔王との戦いの中で死ぬらしい。何かの戦いに参加したのか、それとも巻き込まれたのか知らないが……それで、素質のある奴を探しているわけだ」

「で、それらしい人は見つかったの? そもそも、あの魔法を考えればこの辺りにあなたを倒せる技量を持つ人だって少ないくらいだと思うのだけど」


 と、そこまで言うとカティは不審の目を俺に投げた。


「……あの洞窟だって、あなたが先頭に立てばもっと楽に戦えたはずよね?」

「素質のある人を探さなきゃいけないのに、俺が先頭に立つのもおかしいじゃないか……能力を見極めないといけないんだから」


 カティは納得したようなしていないような微妙な表情。なので俺は誤魔化すように「ああ」と声を上げる。


「で、なんとなく思ったんだけど、彼……フィリについては、もしかしたら強くなるかもしれないな」

「それは……魔王と戦える技量だということ?」

「潜在的な能力だよ。ま、俺の勘だから信じる信じないどちらでもいいよ」


 肩をすくめて答えた俺に対し、カティはなおも煮え切らない表情をしていたが……やがて、


「わかった。あなたにもここにいる理由がそれなりにあるというのは理解できた」

「おお、そうか」


 言葉とは裏腹に彼女は訊き足りないという表情を見せている……さすがに完全に納得はできないだろうな。けど、無理に尋ねようとする手段も思いつかなかったのか、彼女はこれ以上何も言わなかった。

 俺としては内心ドキドキしているのだが、必死に表情を作って対応できている。フィリと交わした最初の会話を引きずっているけど、どうにか……今後主人公達と関わることもあるはずなので、早い段階で緊張するのは是正しておきたいところだ。


 そこから多少ながら雑談を行う。内容はこの村周辺の情勢に始まり、大陸各地の状況について。現段階で悪魔達の目撃情報が増えているけれど、まだ人間と魔王が本格的に衝突はしていない。

 とはいえシナリオを知る俺からすれば秒読み段階に入っているのは間違いなく……ここから俺も本格的に活動していくことになるだろう。


 ひとまず方針としてはシナリオ通りに進めるために動くのと、あとは後味の悪いイベントを回避する。それについてはシナリオを変えてしまうことに繋がるので、主人公達に影響がないよう上手く動く必要がある――


 やがて、カティは席を立つ。だが、去り際に一言添えた。


「いずれ、何かしら協力をお願いするかも」


 ――魔族の襲撃のことを言及しているのかと思ったが、違うな。きっと魔族が侵攻してきていることから、場合によっては戦いに参戦してもらう、なんて感じだろう。


 俺は「ああ」と相槌を打つと、彼女は酒場から去った。そこでこちらは深いため息をつく……ダンジョンに潜るよりも、遥かに疲れた。

 今後もこうやって干渉してくるのだろうか……いや、そもそも色々と鬱なイベントを回避する上で人と接するのは当たり前。今の内に慣れるべきであるとは思う。


 俺は心の中で不安を抱えつつも、とりあえず気分転換に酒場を出た。そして村を見回してみるが……あと少しで、この村は襲撃に遭うのを思い出す。

 ゲームの終盤には復興しているのだが……本来なら襲撃そのものを回避したいところだが、それだとフィリが魔族と戦う動機が得られない。けど、俺としては知っていながら放置しておくのもなんだか――


 そこで、一つ思いついた。シナリオ通りに事を進める以上、村の襲撃は必要不可欠。ならば――そう思い、俺は宿に戻ることにした。


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