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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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追われる身

 その夜もまた、賢者に関する夢を見る……のだが、それまでの状況とは、大きく異なっていた。


「はあ……はあ……!」


 意識が賢者の中に入った矢先、俺は自分自身が息を切らせて走っていることを自覚した。苦痛は感じないが、体がずいぶんと鈍い。右手に握りしめる杖がやけに重く感じる。

 どうやら賢者は追われているようだ……場所は街道。周囲に人影はなく、たった一人で走っている。


 その原因は……これまでに見た夢から経緯は容易に想像できた。


「――おらぁ!」


 後方から声が聞こえてきた。それに気づいた賢者は体を横へ移し――立っていた場所に大剣が振り下ろされて、土砂が巻き上がった。

 ここで賢者はバランスを崩してこけてしまい、地面に倒れた。どうにか転がりながら体勢を立て直し、すぐさま起き上がると……後方に魔族の姿が見えた。


 先ほど大剣を放ったのは、賢者の上背を大きく上回る巨漢。さらにその後方には複数……全員が人間のような姿かつ、冒険者風の装備なのだが……夢の中でも、わかる。その気配が魔族特有のものだと。


「さっさと死ねよ、人間」


 巨漢の魔族が声を上げる。それに賢者は杖を構えながら――内心で、これで終わりかという言葉を確かに聞いた。どうやら賢者自身、予期していたようにも思える。

 そして賢者は……単独で活動する魔族ならば対抗できたけれど、複数で襲われればさすがに……といったところか。周囲に味方はいない。確かにこれは絶体絶命だが――


「なんだよ、魔族を倒して回っているというから少しは手応えがあると思っていたが……これで終わりか?」


 賢者は無言に徹しながら、静かに魔力を杖へ込める。その所作を見て魔族はニタリと笑い、


「まあいいか……快進撃はここまでだ。さっさと終わりにするぜ」


 巨漢の魔族が一歩で間合いを詰める。賢者は捉えられたのわからないが……俺は反射的に足を動かし、横へ逃れた。

 どうにか転がりながらも回避に成功する。大剣は街道へたたき込まれ、地面がひび割れる。もし直撃すればどうなるか……予想するまでもなかった。


 どうにか逃げられれば……けれど巨漢の魔族以外に三体ほど魔族が後方に控えている。今はまだ手を出していないが、逃げに徹すれば追撃を仕掛けてくるのは間違いなく、逃亡は無理だろう。


「どうする? せめて抵抗するか?」


 魔族が問う。賢者は黙ったまま杖を構え……反撃に移ろうとした。

 だがその瞬間、後方にいた魔族が手を振りかざした。それにより光弾が生まれ、賢者の杖に直撃する。それによりダメージはなかったのだが、動きを止められた。それは紛れもなく、致命的な隙となる。


「終わりだな」


 巨漢の魔族が大剣を振り上げ――賢者へ向け一閃する。終わる……そんな風に心の内で彼が呟いた、その時だった。

 ヒュン――風を切る音が聞こえたと同時、巨漢の魔族が持つ大剣に何かが直撃し、軌道が逸れた。賢者はその変化によりどうにか回避に成功する。魔族と距離を置き、杖を構え直し……後方から気配を感じ取った。


「間に合ったようだな」


 ガチャガチャという具足特有の音が聞こえてくる。見れば、騎士の姿。さらにその後方にはいつのまにか多数の騎士や魔術師がいた。


「ほう、面白い」


 と、巨漢の魔族は大剣を向けながら言う。


「今、空間そのものが歪んだな……転移魔法でここまで来たか」

「彼に死なれては私達も困るからな」

「なるほど、人間側も動いていたってことか」

「……なぜ」


 賢者の口から、自然とそういう言葉が漏れた。


「そちらの居所はさすがにわからなかった。しかし、街道で派手に戦闘があるのならばすぐに気づける……加え、こちらには急行できる手はずが整っていた。ただそれだけだよ」


 騎士が応じる。それに加え、


「さらに言えば、あなたの活躍は耳にしていた……特徴も一致しているとくれば、助けない理由はないだろう?」

「……助力、感謝します」

「ああ。まずはこの危機を脱して、落ち着ける場所で話し合うとしよう」

「形勢逆転とでも言いたいのか?」


 魔族が告げる。その顔は援軍が来たというのに余裕を見せたもの。


「俺の目からは、これでも少ないと思うぞ?」

「……貴様達の弱点は、人間を侮りすぎていることだ」


 と、騎士は魔族へ告げる。


「彼を仕留めることができなかった時点で、退却すべきだったな。それとも、ここで退いてくれるか?」

「そんなわけねえだろ」


 巨漢の魔族が答える。それと共に、後方にいた魔族達も殺気を発した。


「……そうか」


 騎士が一歩前に出る。同時、街道に風が流れた。


「ならば――後悔しろ」


 騎士が宣告する。刹那、魔族が立っている場所……地面から、魔力が溢れた。


「何!?」


 これには魔族も驚いた様子だった。攻撃魔法の類いか……などと思ったが、それはどうやら直接的に攻撃を仕掛けるタイプの魔法ではないようだった。


「貴様ら、もしや……!」

「魔族、お前達は我ら人間を、過去の遺物に頼り切っていると言っていたな」


 さらに騎士が言う。どうやら彼も、魔族と交戦したことがあるらしい。


「だが、人間にはお前達にはない力がある……魔族の魔力を解析し、対抗策を生み出した。彼など直接的に魔族を倒して回る人間に気をとられ過ぎていたな」

「ぐっ……!」


 魔族の表情が強ばる。どうやらこの魔法は、魔族の能力を制限するような効果を持っているらしい。

 後方にいた兵士や騎士が前に出る。彼らの武具は全て新調された物であるようだが……それはきっと、古代の兵器などを応用し生み出されたものなのだろう。


「反撃開始だ。お前達は、最初の犠牲者というわけだ」

「ほざけ! 人間の分際で……!」


 巨漢の魔族が動く。さらに後方にいた魔族達も、動き始める。さすがに観戦というわけではいかないようだ。

 騎士達が全員魔族に狙いを定め、魔法を行使する。光弾や火球が魔族へ降り注ぎ、それに対し相手は防ぎながら、賢者や騎士に狙いを定め突撃してくる。


 賢者もまた応戦を開始し、魔法を行使して敵の動きを縫い止める。ここに至り、魔族達の動きがだいぶおかしくなっていることに気づく。巨漢の魔族については大剣を振り下ろす動きはずいぶんと遅く、完全に魔法の影響で能力がダウンしている様子だった。

 それに対し賢者は……魔法の効果はどうやら人間側に利するものらしく、存分に力を発揮できた。巨漢の魔族へと魔法がたたき込まれる。それと共に咆哮が生じ……あれだけ余裕を見せていた魔族が、一気に消滅した。


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