温度差
結論から言うと、修行については少し停滞した……が、ガルクから言わせればそれなりに進捗はあったそうなので、これはこれで良いかと思い直すことにした。
そして今日、進展したのは……デヴァルスから報告があった。なんと組織の構成について資料を発見したとのことだった。
「で、その資料が来たのか……」
「はい。デヴァルス様が記憶して、それを魔法で写したらしいです」
なんという無茶苦茶……まあこういう魔法があるから、星神との戦いに際し色々と研究できたということなのかもしれないけど。
「報告書によると……ひとまずバレてはいないと。組織の構成なんかを見つけたのにバレていないって……まあ、天界の長だ。そのくらいは簡単にできるってことか」
「相手は星神の技術などを有する組織ではありますけど」
と、ソフィアは俺の言葉に続く。
「相手が何しろ天界の長、ですからね……」
「さすがに敵からすれば荷が重すぎるか……これだと思った以上に早い段階で決着をつけられるかもしれないな」
場合によっては、半年と言わずに仕掛けて……と考えることもできるが、そこはリーベイト聖王国側と話し合って決めるべき事だな。
「組織の構成員については……リストと、組織内の枠組みか。ふむ、なるほど。ギルド内にいくつも部署みたいなのがあるのか」
歴史が古いらしいし、行動する上で組織として運営していく必要性があったというわけだ……それと構成員のリストを確認し、現在デヴァルスと共に動いているメンバーがどういう所属なのか把握することができた。
「えっと、現在動いている組織のメンバーは……結構多いみたいだな。ただ、上層部は誰も出ていないみたいだ」
「なら、今回デヴァルス様が動いても……」
「今回のことをきっかけにして……というやり方もありだな。ひとまずここで組織と接触するきっかけを……くさびを打ち込むことができれば、さらに踏み込んだ情報を得られると思うぞ」
ただ、現時点で組織に関する情報を得ているのだから……場合によっては組織を倒すために動くやり方だってあるかもしれない。
「後はデヴァルスの動き次第だな」
「元々の予定では、調査に加わってまずは内情を調査するところからでしたよね」
「その目標をもう達成したと言ってもいいんだよな……ならば信頼関係を構築すれば……」
「星神について情報を得ると」
「もし星神に直接関わっているとなったら、リスクがあるんだけど……」
現状、組織の幹部クラスが星神と会話できるとすれば、今回そうした面子がいないのはデヴァルスにとっても幸いだったかもしれない……まあ情報を得ようと動くならどこかでリスクをとる必要性はあるんだけど……さて、どうすべきなのか。
「ルオン様、報告書にはどうすると?」
「ひとまず観察を続ける……友好的に接しながら、という感じらしい。まあ無理はしないって心づもりみたいだな」
もっとも、現在やっていることは果たして無理をしていないと言うべきなのか……そもそもどうやって資料を手に入れたんだ?
「えっと、資料を手に入れた経緯とかは……探索できる範囲で調べた結果か。なんというか不安になるけど……」
「さすがに無茶なことはしていないと思いますが」
「信用はしているけどな。相手は星神である以上、最大限の警戒をすべきだと思うし」
一応釘を刺しておくか? わかってると言われればそれまでだが。
「念のため、こちらから連絡しておくか」
「わかりました」
「で、資料の分析とかをしないといけないな。リストに載っている名前とかを調べてもらうようにお願いしよう」
構成員を把握できれば、話は一気に進む……その中で敵がどのように動くのかについて推測できれば、こちらとしても対策を立てられる。
というわけで、俺は早速行動を開始する……話が一気に進展したことで、夢の光景など忘れるように、仕事に没頭することとなった。
夜、デヴァルスに連絡ととったら事の詳細がわかった。
『メンバーリストを保有していた人物がいて、試しに見せてくれと言ったらあっさりと』
「ずいぶんとまあ、簡単に見れるんだな……」
『相手はさすがに自分たちが調べられているなんてことは予想していないわけだし、気が緩んでいるんだろう。それに加え、今回調査に参加する組織のメンバーは、おそらく聖王国側と関連があまりない』
「どういうことだ?」
『構成員の中にも温度差があるってことだ。組織が歴史があり、相応に構成員も多い。組織内で星神と密接に関わりがあるのは、ごく一部。大半の人間はそもそもリーベイト聖王国へ介入している事実も知らない』
「……資料を見るに、確かに構成員が多い。それを踏まえれば、関係のない人間だって多数いるのは当然か」
『まあだからこそ、リストも簡単に見られたってことだろう。で、ルオンさんとしてはどうする?』
「まだ現状、なんとも言えないな……リストに存在する人間で構成員は全てと解釈していいのか?」
『あくまで下っ端は。上層部の人間は調査しても空振りに終わる可能性があるんじゃないかとにらんでいる』
「どうして?」
『さすがに星神と関わっていることを踏まえると、警戒はするだろう。まして国へ喧嘩を仕掛けているわけだ。しかもそうしたことは相当入念な計画がなければ実行は不可能なはず。偽名を使っている可能性もゼロではないだろう?』
なるほど、確かに……とはいえ、
「リヴィナ王子だって、組織を信用するにしても接する人間の身辺調査くらいはするんじゃないか?」
『それすらもパスしたという可能性があれば、厄介だと思わないか?』
なるほど……しかしそういう懸念があるのであれば、
「このリストを国側に送って調査してもらおう」
『ああ、それがいい。で、こちらは有益な情報を得たから、当面は信用を得るために動くぞ』
「それで構わない。ただ、上層部の人間と顔を合わせるときは――」
『わかっている』
その言葉で俺は何も言わなかった。デヴァルスの警戒度合いが、決して低くないと認識したからだ。
よって話は終了し……明日、資料をエメナ王女へ渡すべく動くとしよう――そう決意し、俺は就寝することとなった。




