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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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賢者の子孫

 賢者は魔族を討伐した後に避難した人々と合流した。魔族を倒したことを報告すると、歓声が湧いた。それと共に騎士が、


「町へ戻ることは……?」

「魔物は全て倒したと思いますが、おそらく建物が崩壊している以上は、戻るのは難しいでしょう」


 その言葉で町から逃げた人達は意気消沈とする。


「……わかりました、あなたはどうしますか?」

「このまま別所へ赴き、同様の被害に遭っている人達を救います」


 賢者はそう騎士へ明言した。それにより彼は深々と頷き、


「そうですか……あなたほどの技量であるなら、この国を救うことができるかもしれませんが、無理はなさらぬように。ご武運を」


 そう言い残して騎士や人々は去った。それを見送りながら、賢者は呟く。


「……国を救う、か」


 賢者は自嘲的に笑った。そんなこと、できるわけがないと自分でわかっているような雰囲気だった。


「まだだ、まだ何も救えていない。そんなものは全て嘘だ……」


 きっと、彼は悔しくてたまらないのだろう。今できることは魔王が侵攻した大陸で、少しでも犠牲者を減らすことくらい。たぶんだが、彼がこうして魔族を倒して回っているのは、目立つ意味合いもあるのだろう。

 噂に上るくらいには、少なからず戦い続けていることがその証左だ。魔族間でも話に出てくるくらいである以上は、そう遠くないうちに目をつけられるだろう。


 その先にあるのは果たして何なのか……気になりつつも意識が遠のいていく。どうやら今日はこれで終わりのようだった。






 翌朝、夢の内容をソフィアへ話したら、どこか共感する素振りを見せた。それは彼女もまた魔王との戦いで無力感を抱いていたから。


「賢者様も、同じような考えで戦うことにしたのでしょうか……」

「どちらかというと、復讐に近いかもしれないな」


 ソフィアの意見に対し、俺はそう分析する。


「ソフィアの場合は、祖国を救うために……バールクス王国を取り戻すために戦っていた。魔王に対する怒りなどもあっただろう。けれど、どちらかというと人を救い、魔王から国を奪還するという意識の方が強かったはずだ」

「そう……ですね」

「一方で賢者の場合は、どちらかというと復讐が根底にある……相棒であった戦士が殺されたのをきっかけに、強くなった。その結果、人々を救い続けている……ソフィアは俺と旅をして色々なものを救っていたわけで、そういう意味合いでは賢者と似たようなことをしていると言えるけど、その動機については大きく違うかな」


 そう言いつつ、俺は腕組みをした。


「そもそもの話、ソフィアは王族で、賢者はこれから成り上がるという形なわけだから、違いが出るのは当然だな。賢者に国を救おうという意識があったかどうかはわからないし」

「ふむ、なるほど」


 ソフィアは納得の声を上げた後、


「明日も、夢を見るのでしょうか?」

「ここのところ連続だからな……まあ見ても見なくても、いずれは結末はわかるだろうから、焦ってはいないけど……で、だ」


 ここで朝食を食べ終えて、


「とりあえず進捗連絡とかはあるのか?」

「今はまだ……ここに入って数日ですし」


 それもそうか。まあ俺達は淡々と修行を進めることにしよう。


「さて、今日もやるか」

「はい」


 ソフィアと共に食堂を出る。ガルクのいる場所まで歩む間に、今度は彼女から俺へ言葉が飛んできた。


「賢者の物語……その真実というのは、気になりますね」

「他ならぬ賢者の子孫だから?」

「はい」

「でも、子孫なら何かしら伝承くらいは保有しているんじゃないのか?」

「王家に隠された情報なんてものはありませんよ。それに、賢者様と魔王との戦いについては、記録などもほとんど残っていませんし。情報レベルとしてはルオン様が見聞きしているのと同じくらいかと」

「そんなものか……」


 ある意味、歴史の真実に近しい場所にいるのか……賢者がどのように戦ったのかなんて、確かに人によっては狂喜乱舞するような話かもしれない。

 ただ、こういう夢を延々と見続けるというのは……条件があるとはいえ、結構大変なのでは。俺は一つどころに留まって修行しているだけなので問題はないけど、旅をしている冒険者とかは精神的に大変なのではなかろうか。


「魔王との戦いは……資料がないから対策も立てられなかったと」

「仮にそういう対策があったとしても……魔王が襲撃するなんて、予想なんてできなかったわけですし、どうにもならなかったでしょうね」


 ソフィアの目が遠くなる。戦いには勝利した。けれど、犠牲者だってたくさんいた。それを踏まえれば、彼女が色々と考えてしまうのは仕方がない。


 俺は魔王を倒す術を知っていたから、それを成すために自分のことを隠しながら戦っていたわけだが……俺の説明が良かったのか、それとも俺の考えをすぐに察したからか、例えば「どうしてそんな力を持っていたのに、全力で戦わなかったんだ」と言われたことはない。無論それには理由があるわけだが、見知った人が犠牲になったのであれば、そう糾弾する人間だっているはずだ。


 これは単純に、運だけの問題なのだろうか……などと思案する間に部屋へとたどり着いた。


『来たな……どうした?』


 ガルクが問う。俺達の表情がいつもと違っていたらしい。


「ああ、ちょっと賢者の話題になって色々と考え込んでいただけだ」

『そうか。何か有益な情報はあったのか?』

「まだ賢者が魔王と戦う前の話だからな。当時何が起こっていたのか……それくらいしか情報はないよ」

『わかった。もし何か……今回の修行に関連することがあるのだとしたら、是非とも言及してくれ』


 ……さすがに、俺達の修行について有益な情報というのはなさそうだけどなあ。とはいえ、魔王との戦い……ひいては星神との戦いにつながっていく以上、どんな情報が隠されているかわからない。よって、今後も夢については考察を続けていくべきだろう。


『では、始めよう』


 ガルクが言う。俺とソフィアは同時に頷いて……昨日の続き、修行を再開することとなった。


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