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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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強くなり――

 新たな修行を開始した夜、俺は再び夢を見る……毎日見ることになるだろうかという推測と共に、どこか続きが気になる自分がいた。

 賢者の過去……それがどういうものなのか。なんというか、映画の観客にでもなった気分なんだけど……まあ俺は登場人物のような感覚なので、リアルで体験しているような錯覚を抱くくらいだ。


 そして今回見た夢の最初のシーンは……賢者が一人、町を眺める光景だった。


「終わりだ……この世の終わりだ……」


 傍らで男性の声が聞こえる。目前に見える町は多数の煙が上がっており、建物もかなり崩壊していた。さらに魔物の雄叫びも聞こえる……魔王による侵攻で、完全に崩壊してしまったらしい。

 振り向くと、背後に結構な数の人がいた。騎士らしき人物がへたり込んでいる人達へ話しかけ、移動させようとしている。襲撃によってどうにか避難したってことだろう。とはいえ、町の規模と比較して人数は決して多くない。犠牲になった人が多数存在していることは容易にわかった。


 その中で賢者は……俺は町から魔物が出てくるのを確認。そこで、勝手に口が開いた。


「動き出したようです」


 その言葉に周囲の人々がざわつく。恐怖を抱いているのがわかり、中には襲撃された光景を思い出したかガタガタと震える人も見受けられた。


「私は魔物の殲滅に向かいます」

「大丈夫なのか?」


 と、騎士の一人が声を掛けてきた。町に常駐している騎士なのだろう。鎧があちこち壊れ、負傷したのか腕や足などに包帯が巻かれている。


「はい、問題ありません。皆さんは避難場所へ向かってください」

「……恩に着る」


 騎士は頭を下げた後、人々を誘導し始めた。そして賢者は彼らではなく町を見据え、今まさに来ようとしている魔物へ向け――駆けた。

 魔法を用いてのものだろう。ずいぶんと足が軽いように感じた。少し意識すると自分の考え通りに足を動かせる。よって色々と調整してみるのだが……どうやらこれは、ブーツに秘められた力が発揮して移動できているようだ。


 なおかつ、手に握りしめる杖も以前とは違っていた。木製の杖なのだが、それは純白で、なおかつ魔力を大いに秘めている。一体どこで入手したのか。

 考える間に魔物が迫る。数はおよそ十数体。とはいえ町中にはまだまだいるだろう。囲まれればいかに賢者でも戦うのがつらいはず。目に見える敵は瞬殺するくらいじゃないとおそらく勝てない――


 そう思った矢先、賢者の体が勝手に動き全速力で魔物へ迫りながら杖をかざした。途端、杖先から雷撃が迸り、敵へ直撃した。

 その威力は、昨日の夢とは比較にならないほど強力になっている……魔王降臨からどれだけの歳月過ぎたのかわからないが、賢者はどうやら鍛練を重ね強くなったようだ。


 魔物達が一斉に賢者の魔法によって消え去っていく。魔物達もすかさず応戦するのだが、それを一切合切殲滅していく賢者の魔法。その実力は、相棒だった戦士と比べてどうなのかは不明だが……間違いなく魔王を討つ力を得るための修行を行っていることはわかった。

 ただ、それが賢者にとってどれだけ目標に近づけているのか……やがて賢者が殲滅を終える。圧倒的な勝利であり、町からやってきた魔物さえも一蹴するほどの力だった。


「ふう……」


 息をつき、呼吸を整える賢者。比べものにならないほどの力を……ただ、装備が変わっているため、その影響が大きいのだろうか? とにかく、彼は魔王を倒すために戦っていることは明白だった。

 俺は自分の意思で逃げ出した人々がいた方角へ目を向ける。既に騎士を含め誰もいなくなっていた。とはいえけが人なども抱える状況だから歩みは遅いだろう。先ほどの移動速度を発揮できるのであれば、追いつくことも難しくない。


 そちらへ行くか、それとも町に残る魔物へ目を向けるか……賢者自身、この時おそらく迷ったのだろう。町と人々がいる方向をキョロキョロしていた時……声が聞こえた。


「ずいぶんと荒らしてくれたな」


 人間の声。魔族だと確信した矢先、賢者は杖を構えた。町の入り口から、ゆっくりと賢者に近づいてくる人影が。

 黒衣を着た銀髪の男性で、吸血鬼を連想させるような出で立ちだった。ただまとう魔力は魔族で間違いなく、圧倒的な存在感と畏怖を賢者へ向けてくる。


「そういえば、噂にあったな。魔法使い……どこの馬の骨ともわからん存在が、私達と戦っていると」

「噂に上ったか……ま、別にいいが」


 敵意をむき出しにして賢者は告げる。


「なら、次はお前だ」

「ふん、粋がるな人間……これまで倒してきた魔物と同じように思うなよ。私は、陛下より殲滅を任された存在。貴様に関わる時間も惜しい」


 と、魔族は魔力を発した。夢の中で判然としないが、それは人間を竦ませるほどの力であるのは間違いない。


「さっさと片付けるとしよう――」


 ゆらり、と体を傾けた矢先、魔族が賢者へ迫った。電光石火の移動。魔法が主体の賢者であれば接近戦はまずいだろう。雷撃を撃つか、それとも退避するのか。

 けれど、賢者は俺の想像を超える動きをした……杖をかざす。刹那、魔族が到達するより先にその先端が光り輝き、まるで槍のように光が収束した。


 それに魔族はどうやら驚いた……が、迫る速度は何ら変わらなかった。問題はない。さっさと潰して終わりだ……そんな心境を窺い知ることができたのだが――

 賢者の光が魔族へ向け、切り払われた。途端、それを受けた魔族は、


「ぐっ!?」


 声を上げ、逆に吹き飛ばされた。光にどれほどの力が集まっているのか……俺も内心驚愕するほどの力だった。

 そして魔族は立ち止まる。賢者の光が通った場所から、魔力がこぼれていく。


「な……」

「俺と相対した魔族は全部、同じ反応をしていたよ」


 冷徹に、賢者は告げる。


「人間が自分達を凌駕するはずがない……その慢心が、こちらの勝機だ」

「ガ……アアアアアッ!」


 魔族が消えていく。一撃……賢者の力は、驚くほど強化されているのがわかった。

 しかし胸には焦燥感が生まれる。彼自身納得いっていない……いや、これでは魔王を倒せないと考えているのだろう。賢者は再度呼吸を整えた後、歩き出す。その頭の中は、先ほどまでいた魔族のことなど、忘れてしまったに違いなかった。


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