異質な技術
ガルクが提案した新しい技法……それは話を聞くだけであれば共鳴――つまり、俺達が辿ってきた技法に近しいものではある。けれど、それは予想以上に異なる……異質のものだった。
「う、お……っ!」
「こ、れは……!」
俺とソフィアは声を上げながら四苦八苦して魔力を制御する。
ガルクに言われたとおり、俺達はその技法を使い互いに互いの魔力を融通し合う。その部分も現段階では魔法陣などを用いた補助があるため、いずれ生身だけで行う必要性があるのだが……違う人の魔力というのは、これほど違うのかと思い知らされた。
『うむ、初日はどう頑張っても苦戦するとは予想していた』
そしてガルクは俺達の様子を見てそんな風に言った。
『元来の魔法技術とはかけ離れた技法だからな……ただ、決して存在していないというわけではない。物理的に離れた状態でも扱えるように、という点で異質性が浮き彫りになっているわけだ』
ガルクが語る間に俺達は幾度も制御できないか試すのだが……バチン! と音がしたかと思うとソフィアから融通された魔力が弾け、霧散した。
『取り込みに失敗すると、大気中に放出され消し飛ぶ。つまり、確実に成功させないと魔力を消費しただけになってしまうぞ』
「なるほど……これは厄介だ」
俺が呟いた後、ソフィアも制御に失敗して魔力が弾けた。
「大変ですね、これは……」
『うむ、最初は仕方がない。で、体感してみてどうだ?』
「……確認だけど、これを実行することで本当に共鳴状態のような効果を得られるんだよな?」
『身のうちに宿らせることができれば、な』
ガルクは述べる。今の段階だと制御すら手一杯なので、果たしてそんなことができるのか疑ってしまうレベルである。
『まずは数日、これを試してみよう』
「前途多難だな……」
『慣れてくれば、おそらく上手く操作できるだろう』
「そうだといいんだが……でも、他者の魔力を組み合わせるっていうのは……魔力を取り込むのは、人体に影響がないのか?」
『問題にはならない。あらかじめ上手く溶け込むような術式にしてあるからな。ルオン殿としては、例えば……人間が他者から輸血を受ける場合、違う型式であれば問題が生じる、ということを懸念しているわけだな?』
「そうだな」
血液型が一致していないと使えないとかいうのと同じであれば、この訓練は徒労に終わるし危険もつきまとうわけだが。
『それについては違うと見解を述べておこう。魔力を身に受けても、それほど影響はない。もし危険な状態になったら魔力を手放せばいいため、問題になることもないだろう』
「そうか……」
『今日はここまでにしておこうか。まだまだ決戦の日までは時間がある。ここまで到達するまでに時間もそれほど使用していないため、余裕はたっぷりある。焦らず進めていこうではないか』
ガルクの言葉に俺達は頷き……訓練は終了。夕食の時間であったため食堂へ向かおうと廊下を歩きながら、ソフィアと話をする。
「いけそうか?」
「今の段階ではとっかかりすらつかめませんね」
「俺も同じだ……とはいえ、だ。ガルク達が練りに練って作り上げた技法だ。俺達はそれに応えないといけないな」
「はい」
ソフィアはしっかりと頷いた。苦戦が予想されるけど、俺達のやる気は満ちていた。
「そういえばソフィア、俺の魔力を身に受けてどうだった?」
「以前にルオン様の魔力は体感していましたし、それほど異質なものだとは感じませんでした。ただ、魔力を身のうちに……というのは初めてでしたし、苦労しそうではありますが」
「そうだな……」
頭をかき、今日の訓練を振り返る。大変そうだと内心で思いながらも、これが最後の試練かもしれない……などと思った。これを乗り越えることができれば、いよいよという気持ちも芽生えている。
しかし果たしてどれだけ時間がかかるのか……ただ焦ってはいない。ガルクが言ったとおり、時間的に余裕があるのは事実。
ソフィアも俺と同じく焦る様子はないため、じっくりやっていこうという気持ちで取り組むつもりのようだ……やがて俺達は食堂へ。既に多くの仲間がいて、食事をとりながら俺は仲間達に現況を説明する。
「当面、俺は作業に加われないかもしれないな」
そんな言葉を告げるとリーゼなんかは、
「作業そのものは順調だし、残る課題もそう多くないしこちらは大丈夫よ」
「そっか……なんだか気づいたらリーゼが仕切っているようになっているけど」
「むしろ私で良かったのかしら、と思ったけれど」
「いや、いい……リーゼの押しの強い性格なら、むしろ適任かもしれないな」
その時、俺の周囲に漂う天使の姿……ユノーが近寄ってきた。
「どうした?」
「そっちの様子はどうかなー、って」
ちなみに彼女は日中あちこち飛び回っているらしい……まあどうやら屋敷内をウロウロしているだけなので、誰も気にとめていないみたいだが。
「大変だが、これをクリアしないと星神と戦えないからな……」
「その意気ね」
と、今度は真正面にアンヴェレートがやってきた。ちなみに彼女は食器なども持っていない。
「……食事はいいのか?」
「先に済ませたのよ。そもそも私は人と違うから食事をする必要性は……と思ったけれど、復活してから体のつくりも違うし、一日に一回くらいは食べるようにしてる」
語っていると彼女の所にユノーが。それを見て彼女は微笑み、
「迷惑は掛けていないわよね?」
「大丈夫大丈夫」
「そう、ならいいわ……ルオン、機会があれば彼女と一緒に出かけたいのだけれど」
「……まあ、別にいいかもしれないが」
敵対組織の影響がない町なら問題はないか?
「ああ、戦いが終わってからの話よ」
「そうか。なら構わないよ。天使が物珍しいかもしれないし、そういう意味で気をつければ問題はないだろ」
「わかったわ」
「……ちなみに、そっちは順調か?」
「そうね。情報量が多くてまとめるのが大変なくらいだけど、なんとか……そっちは大変そうね。あんな技術、精霊ならまだしも人間が果たして使えるのか」
「使えなければ負ける以上、是が非でも習得するさ」
その言葉にアンヴェレートは沈黙し……やる気に満ちた俺とソフィアを見てか、
「なら、期待しているわ」
にこやかに、告げたのだった。




