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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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巨人と魔族

 戦士と共に城門まで到達すると、そこは既に戦場になっていた。

 多数の兵士が叫びながら巨人を見据えている。そして城壁の上などから魔法が雨あられと降り注ぐ。


 さすがに兵士レベルで対応できるような敵じゃないため、兵士はおそらく足止め役にもならないが……せめて気を逸らせないかと動き回っている様子。だが、巨人は淡々と進んでくる。

 その巨人だが……筋骨隆々の悪魔、といった風体だった。俺はその姿を見てあることを感じたのだが……それをひとまず横に置き、杖を構えた。


「いけるのか?」


 戦士が問う。それがどういう意味なのか疑問を投げかけるよりも先に、俺は魔法を放った。

 それは『ライトニング』のようであり、雷光がまっすぐ巨人へと突き進む――直撃し、バリバリバリと破裂音が発生した。


 とはいえ、巨人は我関せずといった様子だった。今の賢者ではさすがに対抗できないってことか? それとも――


「効いていないみたいだな」


 戦士は呟くと、ニヤリと笑みを浮かべる。


「このまま攻撃を続けるか?」

「そうだな……けど、さすがに食い止めることができるかは――」

「わかってるさ。少しでも気を逸らせればいい……俺もいくぜ!」


 声と共に、彼は抜き放った剣に魔力を収束させる。それがどれほどのものなのか夢の中であるため判然としないのだが……周囲にいた兵士からはどよめきが上がった。

 どうやら賢者と共に旅をする戦士は、相当な実力者らしい。もしかすると賢者よりも……? そんな推測が頭に浮かんだ時、戦士は巨人を見上げ、


「それじゃあ……始めるか!」


 気合いを入れた声と共に、彼は跳躍し――空を飛んだ。

 それはまるで、天使のような……背には擬似的に形成された羽を持ち、猛然と巨人へと向かっていく。これが……俺達は手に入れていないが、これが古代の兵器ってことなのだろうか。


 そして彼の剣が巨人に触れた瞬間、爆発が生じる。それによって漆黒の巨人は動きを止め、周囲からは歓声が上がった。

 それに負けじと賢者である俺も魔法を行使する。とはいえ、その威力は戦士と比べれば控えめであり……実力的に、今の賢者はレベルが低いのだと理解する。


 おそらくこれから強くなるのだろう……と、いよいよ戦士の攻撃が終わりを迎える。脳天にたたきつけた彼の斬撃により巨人の頭部が吹き飛んだ。首から上が消失し、ゆっくりと倒れ込む巨人。周囲にいた兵士達が待避する中、ズウンと重い音を上げて巨人は倒れ伏した。


「ふう、結構硬かったな」


 戦士が賢者の近くへ戻ってくる。彼のことを見て話し込む兵士の姿も見えるため、もしかすると有名なのかもしれない。


「しかし、あれだけ巨大な魔物だ。何かの差し金か?」

「何か……とは?」

「さすがにあれが自然発生したものとは考えにくいだろ」


 俺は素直に頷いた。となると考えられるのは一つなのだが……と、漆黒の巨人が消えていく中で、新たな人影を目にとめた。巨人が倒れたことにより砂埃が舞っているのだが、その奥から人に近い……いや、それは遠目だから感じたもので、おおよそ人間と比べ倍する大きさだった。

 しかし巨人と比べればずいぶんと小さい……俺の視線に気づいたか戦士もまた振り向く。そして、


「ん、新手か? それとも、巨人にくっついていたのか?」


 疑問を呟きながら戦士は一歩前に出る。周囲にいた兵士も槍や剣を構え、新たな敵を牽制する。

 だが相手は……漆黒の戦士は、我関せずといった様子で町へと歩み続けている。それによって兵士の一人が槍を相手へ向け突き立てた。


 だが次の瞬間、漆黒の戦士が腕を振り――兵士を吹き飛ばした。いや、そんな生やさしいものではなかった。吹き飛んだ瞬間、まるで風の刃が駆け抜けたように、その胴体がバラバラになった。


「……え?」


 それがあまりにも非現実的であったため、誰かがわけがわからないという風に呟いた。他の人もどうやら同じような反応。兵士であった存在が地面に激突した瞬間にはもはや原型など留めていなかった。誰もが沈黙し、槍を漆黒の戦士に差し向けていた者達も動きを止める。

 しかしそれは間違いなく悪手だった……次の瞬間、漆黒の戦士……いや、魔族が腕を振った。それにより周囲にいた兵士達が全て、最初の兵士と同じ結末を迎えながら吹き飛んだ。


「な――」


 誰かが声を上げた矢先、城壁の上にいる魔術師の魔法が、魔族へ降り注いだ。雷光や火球が着弾し、周囲が熱波に包まれる。

 ここで俺は大きく後退する。戦士もまたそれに合わせるように……だが、彼の瞳は漆黒の魔族を射貫き、離さなかった。


 そして魔法を浴びても、まったく魔族は効いている様子がない……夢の中であるため魔力を知覚しているわけではない。けれど賢者の記憶がそうだと認識してくる。あの魔族は……恐ろしい存在だと。

 魔王クラスではないにしろ、幹部クラスであるのは間違いない……しかし、なぜ町へ単独で……疑問に思う間に俺は杖をかざし魔法攻撃に参加した。さらに街道にも魔術師が動員されて、集中砲火を浴びせる。これで倒れてくれれば……そういう気持ちが魔術師達から感じ取ることができる。


 けれど、俺はなんとなく理解する。この状況、魔族の力量……魔力を感じ取ることが難しい状況であるため判然としないところはあるのだが、あの敵を倒すことは無理だ。

 しかし、あの敵は一体……疑問を抱いた時、ゴオッ――と、突風が発生した。それは魔術師達の魔法を全てはね除ける魔族の力。別に障壁を形成したわけではない……ただ気配を発しただけ。それだけで魔術師の……さらに賢者の力を完全に吹き飛ばした。


 これにはさすがの魔術師達も動きを止める。圧倒的な力……それを目の当たりにして士気が下がる。だがその中に攻撃を仕掛ける者もいた。けれど単なる雷撃では、魔族の歩みすら押しとどめることができなかった。


「あれは……一体……」


 俺は呟きながら思考する。周囲はとんでもない力の存在により、言葉をなくすしかない。


「……どうやら、気合いを入れ直さないとだめだな」


 そんな折、戦士が呟いた。何事かと思っていると、彼は魔族へ向け突撃しようとしていた。


 いくらなんでも無謀すぎる……そんな思考が生まれた時、賢者の胸の内にわずかな希望が生まれた。それは相棒である戦士のことを信頼しているという証明。どうやら彼ならやってくれるかもしれない。そんな風に考えている。

 それだけの実力があるということか。ならば俺は事の推移を見守ることに……そして戦士が魔族へ踏み込もうとした時だった。


『聞け、人間ども』


 戦場を震わす、重い声が聞こえてきた。


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