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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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賢者の介入

 全身に魔力が駆け抜けた直後、俺の動きは完全に止まった……いや、動けなくなったという方が正しい。


「なるほど、こういうことか……!」


 声を発しながら俺は、右手に意識を向ける。手のひらを一度握って開いてみたのだが……十秒ほど必要だった。

 体は立ったままなのだが、足を上手く動かすことができない……例えば、肩に重りがあって物理的に動けなくなっているとは違う。これは足の裏に何か、動けないように拘束魔法でも使われているような感覚だ。


『ルオン殿はこれまで、自身の力を利用して……その能力の高さから、我もはねのけるほどの力を得ている』


 ガルクが解説を始める。


『そもそも、他の武器防具などとも相性が良くなかった……という点もあるが、ルオン殿は基本的にそのように戦ってきた。もちろん組織の者達で星神の使徒を討ち果たしたという実績もある以上、ルオン殿が他者から力を借りていない、というわけではない。しかし』


 そこでガルクは言葉を止める。


『……前々から疑問に思っていたことがあった。それはルオン殿の転生は賢者によるもの。そしてその力の源泉は、星神にある』

「ああ、そうだな」

『だがそうであれば、本来ルオン殿はあらゆる魔力を受け入れるはずだ。星神の特性がそうである以上、ルオン殿は外部から力を取り込み強くなるという可能性の方が高いくらいだ。しかしそうはなっていない……これは賢者の介入があったためだ』

「つまり、星神のようにならないと?」

『うむ。はっきり言えば星神に取り込まれないように……星神側の人間にならないように、だな』


 賢者は星神を倒すために俺を転生させた……それは他の転生者だって同じのはずだが――


『ルオン殿以外にも、例えばアランについても同様のことは言える……しかし、唯一ルオン殿だけが、こうした舞台に立っている』

「それに理由はあるのか?」

『そこは結局、賢者の蒔いた種がルオン殿にだけ発芽したということなのだろう。ともあれ、ルオン殿の力は星神と相反するような力だと考えていい。星神由来ではあるが、賢者の介入によって、それとは異なる存在に。だからこそ、魔力が特殊……よほどのことをしなければ、他者と交わらぬものとなってしまった。これはメリットでもありデメリットでもある』


 そう語るガルク。その間にも俺は体を少しずつ動かす。


『他の魔力を交わらない以上、確かに星神に相対できる。しかし、安易に他者の力を……武器などに頼ることも難しい。ルオン殿はその難点を修行により補ったし、それが功を奏して無類の強さを得た。特殊な魔力だからこそ、そうして強くなれたのは間違いない』

「だが、星神との戦いでは……」

『うむ。だからこその、試練だ……といっても難しいものではない。簡単に言えば、我らが作成した魔法陣……我らの魔力などをルオン殿へ付与し、それをルオン殿自身が自らの魔力と同じように……擬似的に我が物とする。そういう術式を加えてある』


 その結果、現状がある……ガルクの魔法は半ば無理矢理俺の魔力と外部の魔力をくっつけようとしている。しかし、俺の体がそれを拒否しようと喧嘩しているような感じだ。

 体が思うように動かないわけだが、これは俺の魔力が外部の魔力を自分のものだと認識できないため、体の動作にも支障を来していることが原因だ……体が重いというより、自分の体が言うことを聞かない、という表現の方が正解に近いかもしれない。


『賢者も、単純に星神に人間が単独で勝てるとは思っていないだろう……だからこそ、様々な情報を提供した。結果的にルオン殿は我やソフィア王女……そのほか、様々な種族を巻き込み、こうして決戦準備をしている。これが賢者の予定通りだったのかはわからないが、彼にとって望んだ展開であることは間違いないだろう』

「今のように、色々と準備ができるからな……!」


 ズン! と、足を一歩踏み出す。ようやく足が動くようになったが、まだ普通に動かせるようには時間がかかりそうだった。


「ガルク、これって慣れたらどうにかなるのか?」

『我としても初めてのことであるため、わからない。しかし、その可能性は高いと思うぞ』

「で、この試練をクリアしたら……」

『星神対策の作戦を本格的に行う――』


 その時、視界が一瞬ぶれた。気を失うとか、そういうものではない。体は動きにくいが、別に体調が悪いわけではない。


「……え?」

『どうした?』

「ルオン様?」


 違和感を覚えたかソフィアも声を上げる。俺は幾度か瞬きをした。景色は何も変わらない。だが、先ほどの感触は……?


「いや、ごめん。まだ慣れていないから――」


 そう言いかけた矢先のことだった。目の前に……まるで、最初からそこにいたように、俺の真正面に誰かが立っていた。

 いつの間に……などと思った矢先、その相手は俺のことを見て何かを言った。それに対し俺は――


「あ……」

『ルオン殿!?』

「ルオン様!?」


 体をぐらりと傾かせた俺に対しガルクとソフィアは声を上げる。だが倒れるようなマネはせず、俺は足を整えて直立する。

 その直後、体がずいぶんと軽くなっていることに気づく。これはどうやら……両拳を閉じたり開いたりする。これはいつものようにできた。


 次いで、軽くジャンプをする。うん、普通にできるな。


『なんと……これだけ短期間に順応したのか』

「さすがですね、ルオン様」


 両者が賞賛の声を上げるが……俺は疑問だった。先ほどの人物……星神を模した姿などではない。あれは――

 ここで、ガルクが魔法発動を中断した。途端に力は消え……とはいえ、体が重くなったり軽くなったりはしない。最後の最後で、普通に動けるようになったから。


『最初の試練は完璧だな……ふむ、やはりルオン殿は特別というわけか』

「いや……どうなんだろうな」


 頭をかきつつ……なんだろう、手助けのようなものを感じた。なんというか、訓練でやらなければいけないことを、一足飛びに実行したというか――


『ふむ、このペースですんなり受け入れるとは想定外だが、嬉しい誤算だ。しかしひとまず休憩しよう。それと共に、体調に問題がないかを確認する』

「ああ、わかった」


 頷きつつも……先ほどの光景が頭の中に張り付き、離れなかった。


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