彼への試練
数日後、デヴァルスは出発した。同行者として従者としてネルが帯同することに。まあ彼女ならデヴァルスが暴走としてもなんとかしてくれるだろう……たぶん。
「十分に注意をしてくれよ」
「わかっているさ」
デヴァルスは頷き、俺達は見送ることに……俺は彼らの動向についてもチェックはできるようにしたので、後は進捗を待つだけだ。
「良い形にできることを期待しましょう」
ソフィアの発言に俺は頷き、
「よし、それじゃあ……俺達も始めるか」
「はい」
俺は彼女が頷くと同時に屋敷の中へ。そして廊下を進み地下へと足を向ける。
そこは本来、倉庫として使われている。もちろんそうした機能もあるのだが……その場所に、バールクス王国の王城に用いていた魔法を用い、異空間を作成していた。
そこで今回、俺達は研究の成果――星神対策を本格的に行うべく、鍛錬を始めることにした。
『来たな』
倉庫の一角、そこに作成した扉の奥で待っていたのはガルク。俺と行動している子ガルクではなく、本体だ。
『では早速始めるとしようか』
「他の神霊は?」
『ルオン殿が今から行うこと……それがきちんと成功せねば出番はない』
まずは俺が上手くいくかどうか……ってことだな。
『では、鍛錬を始める前に確認から始めよう。まず、我らは星神に最強の攻撃をたたき込むために、現在まで研究を進めている。その中で敵からの妨害についてなど、あらゆる可能性を考慮した上で、攻撃を決める必要性がある』
「ああ、そうだな」
『星神についてだが……賢者の情報に加え、様々な資料……それらを統合し、おおよそ姿形は判明した。といっても人や動物の形をとっているわけではない。光の球体……そのようなものだと想像してもらえればいい』
俺とソフィアは頷く。そしてガルクは話を続ける。
『我らは現状、星神が降臨するよりも先に攻撃を仕掛ける……つまり地底内での戦いを想定している。先んじて攻撃を仕掛け、地上に被害が出る前より倒す……ここまではよいな?』
「ああ。その方針で問題ないぞ」
『ならば次だ。地底に入り込み、星神を発見したら攻撃を開始する……とはいえ、だ。星の魔力を抱える存在であるが故に、光の球体……その外側から攻撃を加えて破壊できるかどうかはわからん。星神の使徒と戦った時でさえ、様々な策が必要だった。それを考慮すると、光を発見したのでルオン殿とソフィア殿の魔法を組み合わせて攻撃……だけでは、足りないだろうと予想できる』
俺とソフィアは再び頷く。うん、ここまでは想定している。
『では具体的に戦法だが……星神の核と呼べる存在へ攻撃を届かせるためには、強力な攻撃であることもそうだが一工夫必要だろうというのが現状の考察だ。単に矢を放つだけではない。そこに魔法を付与し、さらに言えばそれに回転をかけるなどして一点突破しうるだけの出力を与える……そこでさらにルオン殿は別の案を考案した』
「ガルクも賛同してくれた手だな……簡単に言えば、二の矢、あるいは二の太刀といったところかな」
俺は語りながら両手を見据えた。
「転生し、強さを得た俺でも巨大な相手。だからこそ、単純な力ではない……もっと、例えるなら毒のように、内部から破壊するようなものが必要だと考えた」
『うむ、外部からの攻撃と、内部……現状考えている戦法としては、魔法の照射と同時にルオン殿が考案した毒の効果を持つ魔法を付与する。外殻へ魔法を打ち込んだら、それを星神内部へ注入する……とはいえ、ありとあらゆる存在の魔力を取り込んでいるのが星神だ。単純に魔力を破壊するなど、普通にあるような魔法では間違いなく通用しない』
「ああ。でもガルクはその手法が通用すると考えた」
『可能性は十分にある。無論、これ以外にも策は用意する……今回ここに集まってもらったのはこういった作戦の前段階。まず何よりルオン殿自身の装備。ルオン殿は竜の大陸で剣を手に入れて以降、それを使用しているわけだが、さすがに星神相手ではそれも苦しいだろう。だからこそ、魔法で構築する』
俺はコクリと頷く……俺の技術、装備を全て星神との決戦仕様にする。それを成し遂げてから、ようやく本格的に策を始められる。
『この部屋に、想定する装備の魔力を模した魔法陣を仕込んだ。量が膨大であったが、再現はできたように思う。まずルオン殿がこれに耐えられるか……そこからスタートだ』
「俺にきちんと装備できるかってことだな……まさか聖剣を引き抜く勇者みたいなことをやるとは思わなかった」
『他ならぬ唯一無二の存在である以上、こういうシチュエーションがあってもおかしくないのではないか?』
「そうか? でも俺は……転生したという事情はあるにせよ、この世界にとってルオンという存在はごくごく普通の人間だからな」
呼吸を整える……これで上手くいかなければ俺はそもそも星神と戦う資格を持っていないことになる……やるしかない。
「で、今から俺はどうすれば?」
『魔法陣を形成しているため、その上に乗ってくれ。まずは魔力を体感してもらう……話はそれからだろう。ソフィア王女はひとまず待機していてくれ』
星神に対抗するための装備……世界そのものを相手にする以上、準備段階で既に限界を超える必要がある……ってところか。
俺は呼吸を整えて魔法陣の上に立つ。横を見れば少し心配そうに見つめるソフィアの姿があった。
そんな彼女に目線で大丈夫だと応じつつ、ガルクへ、
「それじゃあ……頼む」
『うむ。まずは実際に装備をする前の段階から始めるぞ』
俺が頷くと同時に魔法陣が起動する……それはひどく静かで、まるで水面の上に立っているかのような感覚だった。
てっきり衝撃が来るのかと思っていたので、少し戸惑ったくらいなのだが……いや、少しずつ何かがせり上がってくるような気がした。それはまるで、巨大な竜が俺へ向かって突進してくるような――
「……ガルク」
『うむ、そうだ』
主語のない会話だったが、俺は何をすればいいのか理解する。膨大な魔力。それを攻撃として認識するのではなく、受け入れる……今までとは違う戦いだと感じつつ、魔法陣が湧き上がる魔力を――俺は、受け止めた。




