作戦に適する者
「なあソフィア……俺達の素性がバレない形かつ、彼らの身辺を調査する方法なんだけど」
「何か浮かびましたか?」
「いや……例えばの話、向こうは遺跡を発見すればメンバーが集まるんだろ? だったら、こちらが遺跡の情報を流し、俺達は協力者という体を見せれば、いけるかもしれないって思っただけだ」
「それなら無理なく干渉できますね。とはいえ、問題は彼らと接触する人選ですが」
ソフィアも賛同している様子。ふむ、彼女の言うとおり誰にやってもらうのかが、問題か。
「俺を含め、ソフィアやリーゼに同行したメンバーは顔が知られているだろうからパスだな。となると、ここに新たにやってきたメンバーの誰かになるけど」
「遺跡に関して知識をを持っている人物でないといけませんよね。そうでなければ、話を合わせることも難しいですし」
遺跡に興味があるという体で話をするにしても、知識がなかったら怪しまれるよな……適任者が誰なのか、よく考察しなければいけない。
「とりあえず仲間に相談してみるか?」
「案としては良いと思いますので、他の方々も賛同するかと思います」
「考えられる中で一番穏当なやり方だからな……ただ人選だけは注意しないといけないな」
組織メンバーの中で妥当なのは誰か……胸中で考えつつ、
「じゃあ仕事に戻るか。俺の提案については、エメナ王女を介してのことだから、あっちと連絡を取り合った後に人選などは考慮するということで」
「はい」
ソフィアも承諾。よって、俺は星神対策に意識を戻すことにした。
そこからおよそ五日ぐらいで体裁は整え、研究が本格的に始まった。やはり遠隔による作業とは異なり作業ペースは相当な速度になった。この調子なら半年と言わずに決戦準備が整うかもしれない……そんな期待が生まれ始めた時、俺はエメナ王女から報告を聞いた。
「ルオン様の策について、こちら側も賛同します。どういった遺跡の情報を流すのかについては、相談しましょう」
うん、俺の案を実行するという方向に。よって、俺達は改めて作戦の人選を決めることにしたのだが……予想外の存在が手を上げた。
「なら俺でどうだ?」
そうして手を上げたのは、まさかのデヴァルスであった。ちなみに彼は二日ほど前にここへ赴き、作業に加わっていた。
「おいおい……ただでさえ天界の長ってことで異例の形で屋敷に入ったのに、その上でこの仕事もやるのか?」
「ああ」
あっさりと返事。ただ人間とは異なる存在であるため、向こう側にバレるのでは――
「バレないような処置はこちらで可能だ。それに、姿形も変えるつもりでいる」
「そこまでやれるのなら、デヴァルスがやる必要性はないんじゃないか?」
「いやいや、敵の組織について詳細がわかっていない……なら、詳しく調べる必要性がある。しかも短期間に、という条件付きで。単純に信頼関係を構築するのでは、次の事件を発生させるまでに間に合わない……とくれば、少し強引でも動いた方がいいだろ? こっちには心当たりもあるからな」
何やら作戦が思い浮かんでいるみたいだが……いいのか?
「敵にこちらのことが露見しないというのなら、それでも構わないけど……他ならぬ天界の長が自らやって、というのは――」
「それは違うぞ」
と、俺の言葉に対しデヴァルスはそう答えた。
「この作戦が非常に重要だから、だな」
「……だからこそ、デヴァルスが直接やると?」
「確実性を求めるなら、それがベストだろ?」
「そうかもしれないが……ちなみに、研究の方は大丈夫なのか?」
「ああ、そちらも問題はない。むしろ大丈夫じゃなかったらそちらに注力するだろ」
研究の進みが早いことが、デヴァルスも動こうと決意した理由というわけだ。
「他に適任者がいるならば辞退するが」
「いや……俺の方としてもどうすべきか悩んでいたくらいだ。デヴァルス、やってくれるか?」
「ああ」
天界の長は承諾。よって、彼が潜入役をやることに。
人選として良かったのかどうかはわからないが……彼なら何かあっても対処できそうな気はするし、これで良かったと思うことにしよう。ただ、なんとなーくいやな予感もするけど……ま、まあデヴァルスだって無茶はしないだろう。ここは彼に任せよう。
「なら俺は引き続き研究を……だな」
「そうはいっても、この調子なら一ヶ月もかからないんじゃないか?」
「テスト期間を含めると、それほど余裕はないさ……あ、一つ私見でいいから尋ねてもいいか?」
「ああ」
「組織をどうにかしたら、星神の降臨や王族の問題を防ぐことができると思うか?」
「微妙なところだな。能動的に賢者の未来を変えるわけだから……ただまあ、なんとなく介入したらどういう展開になるのかは理解できる」
「それは?」
聞き返すとデヴァルスは意味深な笑みを浮かべた。
「こちらが組織を倒したら、当然組織のリーダーか、あるいはそれに類する存在か……その辺りが暴走して、星神降臨のために独自に行動するんじゃないか?」
「……それを妨げることは……」
「どうだろうな。賢者の未来……その決定的とも言える星神の降臨について止められない以上は、根本的にどうにかするってことは難しいんだろ。ただ、その時期を遅らせることは不可能じゃないかもしれん」
「俺達としては、遅らせることができるだけでも十分だけど……」
「ま、その辺りについてはあまり期待しないという前提で話を進めるべきだと思うぞ……とりあえず、潜入した際の役目としては、聖王国の王族……彼らと関わらないようにする、ってことでいいんだな?」
「……そうだな」
俺は頷く。ともあれまずは組織の内情を調べなければいけない。
「第一に調査を優先してくれ。その後、どうするかはこちらで判断するよ」
「ああ。任せてくれ」
デヴァルスは自信たっぷりに返答――こうして、段取りが徐々に決まっていく。
決戦まで一歩一歩着実に迫っているのがわかる。その中で組織に対し……『星宿る戦士』に対する俺達の攻撃が、いよいよ始まろうとしていた。




