王子と共にいた存在
「――ゴードン=ジェルダーさん、お初にお目に掛かります」
最初、リヴィナ王子からそう言われた……場所はゴードンの研究室。わざわざ王子が訪れたということで、ゴードン自身驚きつつ迎え入れたらしい。
リヴィナ王子は終始敬語で、ゴードンのことを敬いながら話をした。結果としてゴードンとしても感銘を受け、彼の「依頼したいことがある」という要望も、すんなり受け入れ話を聞くことにした。
「実は非公式ですが……とある場所で大規模な遺跡が発見されました」
「遺跡?」
「古代にまつわる遺跡です。その場所はどうやら、何かしらの研究施設だったようで、様々な機具が眠っている……しかし私達はそれを扱うどころか、触ることも危険で難しい。よって、解読作業を含め、あなたに協力を願いたい」
ゴードンは二つ返事で了承し、同行することになった――その道中で、彼は王子の周辺にいる者達に気付いたらしい。
「別に王子は隠している様子はなかった。側近の騎士や、配下の兵士、お抱えの宮廷魔術師だけでなく、独自に集めた遺跡調査のスペシャリストを雇い入れたと」
「スペシャリスト……? そんな人物、聞いたこともないが」
フォルナはそんな風に相づちを打つ……彼女も星神のことを含め古代の調査をしている身だ。そんな面々がいたら把握していることだろう。
「うむ、私も実を言うと本当かと半信半疑だった。調査場所へ赴く間に一行の姿を見て、本当に専門家なのかと……それを騙った詐欺なのではと疑うくらいだった」
他ならぬ同じ専門家であるゴードンも聞いたことがない面々だったみたいだな。
「しかし、いざ話をしてみると驚くほど遺跡について把握している……熟知していると言っても良かった。なぜ知識を得たのかという疑問に対し、彼らは元々遺跡潜りで、その過程で勉強した結果だと言っていた。また彼らは組織という形で活動していたらしいが、歴史が長いらしく、知識の集積があったようだ」
そう語った後、ゴードンは彼らが喋った内容をいくつかフォルナへ提示した。それは遺跡に関する情報……彼が嘘を言っているとは思えないので、古代に関して知識があることは間違いなさそうだ。
「彼らが言うには、私が知らなかったのは研究という観点ではなくお宝を発掘するという観点で活動しているため、交わることがなかったのだろうと」
「つまり冒険者ということか。ギルド登録などされている人物なのか?」
「実際にギルド証を提示してくれたよ。もし良ければ紹介しようか?」
「……見知らぬ人間を招くことは避けたいが、もし良ければ名だけでも教えてくれないか? 別にゴードンの紹介で会いに行くつもりはないから安心してくれ」
「ああ、構わないぞ」
そこから彼はいくらか名を告げる……もしこれが俺達が推測する裏組織であったなら――
「とはいえ、だ」
思考する間にゴードンはなおも語る。
「ギルドに所属する人物ということで一定の保証は得たとはいえ、王子の周辺にいることは……と最初考えた。しかし、彼らの存在を担保する者がいた」
「担保?」
「彼らは精霊を味方に付けていた……君も知っているだろう。精霊ウィスプだ」
ここでその名前が出るか……! となればおそらく、俺達が懸念していた裏組織という存在であることが確定か。
「他ならぬ精霊が手を貸している者達だ。少なくとも王子を害そうというわけでないことは間違いないだろう」
「精霊で、か……」
フォルナは応じつつ、腕を組む。ゴードンはどうやら精霊という存在に重きを置いているみたいだが、さすがにそれで信用するというのはないよなあ。
「なるほど、わかった。その人物達と接触するかどうかは不明だが、参考にさせてもらうとしよう」
「うむ」
「ちなみに組織で行動していると言ったな? 名はあるのか?」
「王子は『星宿る戦士』と言っていた。それが組織名かどうかはわからないが、少なくとも関連のある言葉だろう」
星宿る、か……星神関連であることを隠そうともしていない雰囲気だな。
「精霊ウィスプも組織の構成員らしい……彼らについて知っている情報はこのくらいだが」
「わかった。しかし、そういうことなら現在はどうしているのか、わかるか?」
「少なくとも研究関係の施設と関わっている可能性は低いだろうな。遺跡が見つかったという話はいくつも出ているし、そちらへ矛先を向けたのではないか?」
実際のところは不明だが……と、ここでさらにフォルナは尋ねる。
「リヴィナ王子と関わっているとなれば、雲隠れしている可能性もあるな」
「捜査の手が彼らに及ぶかもしれない、と。確かに。しかし彼らはあくまで王子の調査に協力しただけだ。遺跡調査の間に変な行動を起こすようなこともなかったため、おそらく少し調査されてすぐに解放されるだろう」
……現状ではあくまでリヴィナ王子が主導で騒動を起こしたという形になっている。そこに例えば国王が語ったように洗脳などという要素があるにしても、証拠は存在していない。
もし国側の調査が及んだとしても、ゴードンの言う通り即座にお咎めナシという形になるだろう。ただ、懸念点がある。仮に『星宿る戦士』という組織が俺達の推測した裏組織像と一致するのであれば、彼らは既に国の中枢にまで影響を与えることができている。リヴィナ王子が捕まり、次はレノ王子を標的にすることからも、それは確実だ。
ここで俺は今後の展開について考える。リヴィナ王子との戦いに終止符を打った後、時間が経過する……けれど争いの火種はくすぶり続けたまま。結果から言うと、王位継承者としてレノ王子を担ぎ上げる人物が出てくる。これが組織が干渉した結果なのか、それとも関係がないことなのか……確実に言えるのは、レノ王子やエメナ王女、そして国王とこちらが注意をしていても俺達はあくまで部外者。魔の手が伸びるのは相手方が早いだろう。
野放しにしていれば、間違いなく再び王族同士が争うことになる。レノ王子が拒否しても周囲がそれを認めない……それを止めたければ、そういう動きをする貴族なんかを止めるしかないのだが……できるのか?
フォルナ達の会話は続いていく。それを聞きながら、俺は今後の戦いについて思いを馳せることになったのだった。




