未来を知る者
「では本題といこう。リヴィナについてだが……不肖の息子がなぜ凶行に走ったのかについては、ルオン殿達は理解しているはず」
「ええ」
相づちを打つ。王子の目的は、病を治す。そのために妹の犠牲が必要だった。
「エメナからそれを聞いた時、私としては複雑な心境だったのだが……違和感を覚え、いくつか調査をした。その結果、思いも寄らぬ結論を得た」
思いも……? どういうことなのかと言葉を待っていると、王は予想外の発言をした。
「結論から先に言おう。リヴィナの病気は……嘘だ」
「……え?」
俺は聞き返し、沈黙してしまった……嘘?
「リヴィナの話によると、遺跡から病気などを検査する装置が発掘された。精霊ウィスプの翻訳により、扱い方などがわかり、幾人かが試しに起動してみた……その中でリヴィナが試すと、異常な値が出た」
「それが病気だったと?」
「さすがに遺跡に存在していた機器である以上、本当に正しい結果なのかわからなかったため、その時点でリヴィナは大して懸念はしていなかったが……その後、遺跡調査をしていた者に薦められ、念のため検査をした。現代の技術で調べたところ――」
「病気が発覚した、と」
俺の言葉に王は頷く。しかし、
「それら全てが……嘘だったということですか?」
「いかにも。その場に居合わせた精霊ウィスプか……誰かが王子の時だけ異常な値が出るように細工をした。そして、検査をして病気と認定した」
「そうすると、検査した医師もグルということになりますが……」
「その者を調べたところによると、既にいなくなっていた」
ずいぶんときな臭いな……王の言葉に俺と同じ事を思ったのか、ソフィアが口を開いた。
「つまり、リヴィナ王子が病気だとして、エメナ王女を狙うように仕向けたと?」
「その可能性が極めて高い」
「なぜそのような……」
「理由も不明確だが、それよりも先にどうしてリヴィナをそうした行動に向かわせたのか……それ自体に疑問がある」
「それは……」
ソフィアは言葉を濁す。王が何を言いたいのかはわかった。とはいえ、本当にそれはあり得るのか――
「エメナから聞いている。何かしら、裏組織のようなものが存在しているのではないか……それはあくまで仮説とのことだが、私はリヴィナを罠に掛けた存在がいる可能性が高いと考える」
「俺達の推測が……」
「合っている、と思われる」
精霊ウィスプを始め、リヴィナ王子を利用しようとした……そして目的は、
「仮に裏組織があったとするなら、その目的は星神の降臨……?」
「ということになる。しかしここにおいてもまだ疑問がある。なぜ裏組織は、リヴィナを利用しようとしたのか。そして、なぜエメナを狙ったのか」
王はそこまで語ると、腕を組んだ。
「私は……ルオン殿達とは別の形で、未来を知っている人間がいるのではないかと考えている」
「未来を……」
あり得ない話ではない。魔王や賢者は予知能力を持っていた。何かしらの形で、そういう能力を保有する存在がいてもおかしくない。
「とはいえ、ルオン殿の動きを察知している様子はない……これは推測だが、星神からこのように行動すれば地上に出られる……と、吹聴された者がいるのではないか」
「なるほど、それなら辻褄は合いますね」
未来を知っている、という言い方よりは教えられたという人間だろうか。俺達も賢者により未来を知らされた。それに対し相手は、
「無論相手も全てを把握しているわけではない……というより、ルオン殿達の存在はイレギュラーだと捉えるべきだろう」
「星神が降臨するという結末は同じでも、対策をしているか否か……ここは大きいでしょうね」
「まさしく。しかし、だ。現時点ではあくまで推測。リヴィナが捕まったことにより尻尾を出すような真似もしないだろう。おそらく次の一手に出る」
賢者が見た未来……物語ではレノ王子に次は干渉してくるはず。となれば、
「俺達は次に何が起きるのか知っている……それを利用し、組織について探ると」
「うむ、そういうことだ……もし裏で何かを操っている存在がいるとすれば、国家としても由々しき事態だ。何せ、私達王族すらも利用しているわけだからな」
星神の存在とは関係なく、脅威と見なすわけだ。
「ただ現状、ここで話をしていることはあくまで仮説……見えない敵と戦うわけにもいかないため、もう少々調査をしてから動くことにする。情報によれば、少なくとも半年は時間が確保されていると聞く。もし組織が存在しているというのなら、その期間で何か動きがあるだろう」
……どこまで調べられるのか。組織があるとして、どれほどの規模なのか。リヴィナ王子に食い込むほどだし、下手すると王族周辺に組織の構成員がいるかもしれない。
「非常に難しいが、気取られないよう情報を集めさせてもらう」
「わかりました……こちらはその間に星神の研究を進めます」
「わかった。もし半年よりも前に組織の状況がわかれば――」
「動きます。ただ、可能な限り時間も稼ぎたい……組織の実情がわかった上で、どうすべきか改めて相談しましょう」
俺の言葉に国王は頷く。うん、ひとまずこれでまとまったかな。
「一つよろしいでしょうか?」
ここでソフィアが国王へ問い掛ける。
「ああ、構わない」
「リヴィナ王子についてですが……」
「……思惑があったとはいえ、妹を狙っていたのは事実だ。それは世間に公表している以上、リヴィナが再び玉座にふさわしい人物になるかどうか……そこについては、わからない」
国王としても、頭を抱える部分だろうな。
「ただエメナからは聞いている……リヴィナの処遇については、一考して欲しいと。私も病のことを知り、またそれが嘘だとわかり……様々な可能性が思い浮かんだ。場合によっては、リヴィナ自身思考誘導された可能性もあると見ている」
なるほど、確かにそのくらいじゃないと妹は狙わないかもしれないな。
「リヴィナについては、裏組織があったとしたら、その対決後に判断することになる。思うところはあるだろうが、ここについては私に一任させてもらいたい。どういう結果であれ、最終的に判断するのは、国王であるこの私だ――」




