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賢者の剣  作者: 陽山純樹
真実の探求

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未来と感謝

 星神との会話が終了した後、動画が終わる。そこからの動画内容は……少しずつ苦しくなる世界をブレッジが実況し続けるだけだった。


『いよいよ、戦火が迫ってきている……私が聞き出した星神のことについて、誰かに伝えれば良かったか……いや、誰も信じてくないだろう。友人には伝えたが、さすがに今更誰かに言ったところで意味がないと、胸の内にしまっておくつもりのようだった』


 ブレッジはそこまで言うと一度言葉を切る。


『……虚無的な感情が私の胸にわだかまっている。どうあがいても、何も変えられないという事実が体にのしかかる。真実を知ってなお、何もできないとは、これほどまでに辛いのか……いや、何も知らずに戦渦に巻き込まれる人間もまた、理不尽に遭遇し絶望しているのだろう。私は他の人間と何も変わらない、ということか』


 そこまで告げた後、ブレッジは自嘲的な笑みを浮かべた。


『結局、私は真実を知っただけで何もできずに終わる……いや、もちろん私は死が確定したわけではない。生き残るために精一杯のことをやってみるつもりだが、人々の間に存在する閉塞感に押し潰されそうだ……人類の未来は確定している。逃げ場はどこにもない。私達の世界は、終わりを告げる』


 そこで動画が終了する。ここから先はどうやら、日々感じたことを記録しているだけのようだった。


「重要な情報は手に入れたな」


 領主フォルナが声を上げた。俺は小さく頷き、


「まさか星神の弱点なんてものを知ることができるとはな」

「弱点と呼べるかどうかは微妙だが」

「いや、一つ考えついた。それについて、色々と検討したい」


 ほう、とフォルナは感嘆の声を上げ、ソフィアを含め仲間達は俺へ注目した。


「もっとも、これが有効なのかは検証しなければわからないけど……ガルク、後で相談を」

『いいだろう』

「さて、動画の鑑賞会もこれで終わりか……動画再生時間から考えても、星神との会話以降はとりとめのない話みたいだし」

「それほど数はありませんし、一応確認しましょうか」


 ソフィアの言葉に俺は「わかった」と頷き、動画を確認する。それは少しずつ壊れていく世界のことを、ブレッジの視点で語っているものばかり。

 世界が終わるという閉塞感が、この動画の中から伝わってくる……この状況が、今の俺達にも降りかかっている。絶対に、そうはさせない――と、心の中で改めて決意する。


 そうして最後の動画に辿り着いた。日付的に以降のものは存在せず、内容を確かめる。


『……この場所を引き払うことになった』


 そうブレッジは話し始めた。


『霊脈が完全に変化し、数日以内に設備の大半が使えなくなる。稼働できるのは非常電源程度となる……これでは施設を放棄するしかない』


 語った後、ブレッジは大きく息を吐いた。


『既に星神が降臨し、数ヶ月経過した……人間同士の戦争がどれだけ甘いものだったか知らしめるように、ヤツは都市を、世界を蹂躙している。それに抗う術はない。数々の兵器も星神には通用せず、またありとあらゆる国が疲弊し、戦う力など残されていない……一部の特権階級くらいは残るだろうと思っていたが、どうやらそれも星神は許さない様子。どんな人間も、平等に……破壊と荒廃が、私達に注いでいる』


 彼は一度目を伏せた。次いで深呼吸をして、


『この端末は、密かに金庫へと入れておくことにした。持っていてもいずれ役に立たない荷物になる。であれば、ここに残し施設ごと保管した方がいい……この動画が再生されているのが果たしてどれだけ先になるかわからないが……か細くなった霊脈からも施設を維持する程度に魔力が拾えるため、どれだけ歳月が経過しても、この端末は使えるはずだ』


 そうして俺達が手にしている……星神に対する大きな情報も得た。


『では、私から……ここまではただ自分のために記録をしていた。しかし今からは、これを見ている者に語りかける』


 ブレッジはじっとレンズを見据える。彼と目が合ったような気がした。


『この動画が再生しているのがどれほどの未来なのか……一年、十年、果ては百年? それ以上かもしれない。もし遠い未来、星神が暴れているのなら、私が手にした情報は価値を持つものになるだろう。しかしもし必要ないのなら、このまま端末を破棄してくれ』


 ブレッジは笑みを浮かべた。疲れたような……全てを諦めたような、そんな顔だ。


『私は何もできなかった。全てを知りながら、抗うことすらできなかった……けれどもし、この動画を見ているあなたが戦う術を持っているのなら、星神を滅ぼして欲しい。それが、私の願いだ』


 動画が終わる。俺達は一時沈黙した。余韻と言うには微妙だけれど、どこか感傷的な空気が生まれていた。


「……真実を知る者、か」


 俺はそう呟いた後、端末を操作して電源を切った。


「これは、重要な資料として保管しよう……俺達の所有で構わないか?」


 フォルナへ問い掛けると、彼女は神妙に頷いた。


「私が扱うよりはずっと良いだろう……さて、重要な情報も得たことだし、ここから先は未来の話だな……どうする?」

「まず、そうだな……と、ひとまず状況整理から始めるとするか。その上で改めて俺達の動き方を考えよう。ただ、さすがにこのまま引き続いてではなく、休憩してからだな」

「ならばお茶を用意しよう」


 フォルナがメイドを呼びに部屋を出て行く。その間に、俺は端末をテーブルの上に置いた。


「……さすがにこの動画を撮ったブレッジという人も、ここまで未来に回収されたとは思わないよな」

「違いないわね」


 俺の言葉にリーゼは同意し、


「そして、彼の情報がどうやら役に立つ……彼にとっては本望かしら」

「かもしれないな……」


 俺は彼がどうなったのか思いを馳せる。この端末を施設に残し、彼は外へ出て……戦渦に巻き込まれたのだろうか。それとも、必死に生き延びたのだろうか。

 真実を知るが故に、彼自身生き残るにはどうすればいいか……その見当はついているはずだろう。とはいえ、古代の技術を用いての暮らししか知らない彼にとって見れば、どのような形であっても大変だったに違いない。


 俺は心の中で彼へ礼を述べた。ありがとう――あなたの思いを受けて、俺達は星神との戦いに臨むよ――


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