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賢者の剣  作者: 陽山純樹
真実の探求

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侵略者

 星神が……来ているなどという以上、星神からすればおそらくそれは故意なのだろう。決して偶然とは言えないはずだ。


『経緯は不明だが、私の友人を訪ねてきた……危害などは加えられていないし、普通の人間を装っている。しかし、私や友人はわかる……あれが星神であると』


 深刻な表情と共に、ブレッジは一度つばを飲み込み、


「どうやら彼は、話をするだけでなくそれを動画にしても良いらしい。どういう意図なのかは一切不明ではあるが、記録を残すことに意義があると考え、私は話をするところを動画に収めようと思う」


 この動画はそれで終わった。次の動画がどうやら星神との会話らしい。

 どうなるのか……俺は少しばかり緊張しながら再生ボタンを押した。


 最初、画面にブレッジがいなかった。少しすると彼は離れた場所に椅子を持って来て腰掛ける。俺達からすれば横向きなのだが……なるほど、対面するところを映像に収めるらしい。

 少しして、別の男性が現われた。ブレッジの似た風体の……いや、それはたぶん、似せているのだろう。そういう風なことをしそうだと俺はなんとなく感じた。


「どうも、ブレッジさん」

「……私は、何と呼べばいい?」

「名はないからね。適当でもいいよ。まあ、わかりにくいと言うのなら、星神でいい」


 横顔はずいぶんと柔和な笑み……ただそこから一切表情が変わらないため、むしろ無機質な印象を与えてくる。生きている人形が無理矢理人間を演じているような……そうした不気味さも介在している。


「さて、僕はあなたと話をすることにしたけれど……質問内容は自由だし、時間も自由だ。記録をとってくれても構わないし、人を呼んできてもいい。ただまあ、僕の発言が果たして信用されるのか……そこについては微妙だけれど」

「……そうだな」


 ブレッジは同意した後、一度深呼吸をした。


「まず、そうだな……重要な質問を一つ。私が一番気になっているものだ」

「何だい?」

「全ては星神……お前の手のひらの上なのか?」


 その言葉に対し、星神は少しの間沈黙した。まるでブレッジの様子を窺っているような……そんな仕草を見せた。


「――僕が現われれば、人間達はこぞって利用するだろうと考えたのは事実だ」


 やがて、星神は語り出す。


「だから僕は、ほんの少し背中を押してやればそれで良かった。膨大な力を目の当たりにして、それを使わないという選択肢は人間になかった。君達の敗因を上げれば、おそらくそこだ」

「ならば幻想樹は? あれはお前の差し金じゃないのか?」

「誓って言うけれど、僕が故意に引き起こしたものではない。ただ願った人物は幻想樹に寄らない力が眠っていることを知り……干渉してきた。その時点で、どうなるかは決まってしまったかもしれないね」


 もし星神の言葉が本当であるなら、星神は干渉してきた存在を利用して、降臨したということになるか。


「僕はあくまで受動的だ。そこは紛れもない事実だが、例外……というより、そのルールを外す方法がある。それこそ、地上に出ることだ」

「地上に出た今、自由にやっていると?」

「そういうことになるね。意味のない侵略を繰り返す国家はまさにそれだ」


 ブレッジは星神をにらむ。とはいえ相手はまったく堪えていないようで、ニコニコと笑みを浮かべている。


「……ならば、世界はどうなる?」

「多くの人が死ぬ。便利であった世界もなくなる。これを人間は、世界の崩壊と呼んでいるね?」


 ブレッジはまた沈黙した。そう、まさしく世界の崩壊――


「ただ、注意して欲しいことがある。世界そのものは消え去ることはない。森に動物はいるし、草花は生い茂る。世界の崩壊と呼んでいるかもしれないが、それはあくまで君達人間の視点だろう? あ、もう一つ付け加えるのであれば」


 と、星神は肩をすくめる。


「自然と共生する人間だっている。君達の便利な世界に頼らない形で……そういう人は、変わらずこの世界と共に生き続け、子孫を残すだろう。決して人類全てが根絶やしになるわけじゃない」

「……何が言いたい?」

「世界の崩壊などという言葉は、あくまで君達の、一義的なものだという話だ。多くの人が死に、君達が永遠に続くと思っていた文明は消え果てる。けれど、文明が消え失せたから、人間が全ていなくなるわけではない」

「……詭弁だな」


 ブレッジはそう切って捨てた。いや、そうするしかなかったと言うべきか。

 文明を享受する彼からすれば、星神はまさしく絶対的な脅威であり絶望。高度な文明により生活をしている以上は、その枠の中から出ることはできない。だからこそ、世界の崩壊と名を付ける。詭弁と断ずるのも仕方がない。


「どんな言葉を告げようとも、大量殺戮を引き起こしたのは間違いない。その事実が消えない以上、お前の言説など無価値だ」

「ま、文明と共に滅びようと覚悟をしている君からすれば、私の意見など愚かなものだろうね。そういう認識で良いと思う。それでこそ、この世界に生きる人間だ」


 星神はどこか抽象的な物言いを繰り返す。はぐらかしているという感じではないのだが、かといって真面目受け答えしているかと言われれば微妙なところだ。

 ただ、俺が幾度も遭遇した星神の存在を考えれば、こうして妙な言動を繰り返すのはやりそうだなとは思う……やがてブレッジはため息をついた。彼からすれば、梨のつぶてといった感じなのだろう。


 質問すれば答えはやってくるのだろうが、ブレッジが納得のいく回答かどうかは……まあ無理か。星神は言わば文明の侵略者だ。攻め込む存在に質問を投げかけても、質問者の行動を正当化するような言葉になるのは至極当然である。

 とはいえ、ブレッジは頭を悩ませ口を開こうとしている……それは、この動画を残して星神を打倒するヒントでも探そうとしているのか。


 情報を残している以上、ブレッジには意図があるはずだ……後世に情報を残そうとしているのか、あるいは星神を打倒する何かを得ようとしているのか。

 静寂が生じる。ブレッジが幾度となく口を開きかけ、止めるを繰り返し……やがて、意を決したかのように彼は星神へ向け再度口を開いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 星神はあくまで受動的――これが全てでしょう。 多少の画策はするけれど積極性はなく、基本的に他力本願なわけで。 人類の活動に対する惑星のカウンター反応に過ぎないので、詭弁だ何だと語っても無意味…
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